『ひなた』くんは、あたしの入れ墨を見て、「綺麗だね」って言った。 入れ墨に対する『ひなた』くんの発言は、いつも変化する。賛美したり、厭がったり。『ひなた』くんにとって、入れ墨は特別な何かを感じるモノなのかもしれない。入れ墨を入れたワケを聞きたがったり、どうしてその場所に彫ったのかを聞きたがったり。『ひなた』くん曰く、彫った入れ墨で其の人が大体どんな感性の人か解るらしい。 あたしは『ひなた』くんがどんな人かなんて解らない。ただ好きなだけ。 『ひなた』くんはあたしが名前を呼ばれる事を喜ぶのを知ってから、沢山名前を呼んでくれる。『ひなた』くんに名前を呼ばれると、嬉しくてドキドキして子宮が疼く。 あたしに逢っても満たされなくなっちゃった、って『ひなた』くんに云われた事を、『まりあ』に云ったら、「そんなのワザとよ。あたしだって云うわ。アンタの反応を見る為に。アンタの気を惹く為に」って『まりあ』は返答した。優しい子。あの日以降、まだ『ひなた』くんからの連絡は、無い。其れが答えなんじゃないのかしら。
『ひなた』くんに逢えない時間が長くなると、『ひなた』くんについての過去の記憶を引っ張りだす事で淋しさと空白を埋めようとする癖がついてしまった。
「嫉妬が嫌い、俺には嫉妬の感情が無い」 って云った『ひなた』くんは、泥酔状態になっていた仕事帰りのあたしが「仕事で」とは云わないで殆ど毎日不特定多数の男とセックスしていると『ひなた』くんとの電話口で云った時に、ムカついたんだそうな。(云い訳じゃないけど、「『じゅえる』は俺以外の男とセックスしてるの?」なんて質問を泥酔状態時にされたらあたしの様な莫迦は普通に正直に答えてしまうんだって事を少しは考慮して欲しい。なんたって、『ひなた』くんとは不倫で、あたしは『ひなた』くんに重い女だと疎まれたくはなかったのだ。其の時は特に。)『ひなた』くんは、其の電話の後でいきなりあたしの家に来た。 「俺は『じゅえる』に「他の女とセックスしないで」って云われてから、本当にセックスしない様にしてるのに、『じゅえる』が他の男とセックスしてるなら、俺だって他の女とセックスする。『じゅえる』に云われた事を守ってる俺が莫迦じゃん」 腹が立ったらしい。当たり前か。 電話では怒っていなかったのに、(寧ろ「へぇ、お前ヤルじゃん。流石だな」なんてヘラヘラしていたくせに)あたしの部屋に来てからいきなり怒っている『ひなた』くんにどう接して良いのか解らなくなって、困った。 「今日からセックスしない。『じゅえる』とは2度とセックスしない」 って云って激怒している『ひなた』くんに、 「……仕事だよ」 って答えたら、『ひなた』くんは途端に機嫌を良くした。今思い出しても笑える。でも、『ひなた』くんに仕事の話をするのは厭だったから、あたしは穴があったら入って2度と出てきたくない心境だった。もう2度とお酒を飲み過ぎない様にしようと誓った。泣きたくなるのと、ぶっ壊れるのを抑える為に、あたしはベッドの上でいきり立っている『ひなた』くんからなるべく離れていようと、『ひなた』くんに背を向けて、ベッドの下に座って煙草を吸いながら話し始めた。「仕事」だと知って機嫌を良くした『ひなた』くんは、 「仕事?…なんだ。其れなら話は別だ。詳しく聞かせて。良かった。仕事か。こっちおいで。おいでおいで」 最高にオチてるあたしを『ひなた』くんは無理矢理ベッドの上に引っ張りあげると、嬉しそうにキスをしてきた。セックスしようとしてきた『ひなた』くんに、 「あたしとはもうセックスはしないんでしょ?」 って聞いたら、 「仕事なら別。『じゅえる」とセックスしたい。俺が『じゅえる』の躰、綺麗にしてやるよ。全部、舐めてあげる」 って答えた。結局あたしは『ひなた』くんとセックスをした。あたしってどうしようもない。 「『じゅえる』が他の男と沢山セックスしてるって聞いたとき、ムカついたんだ。初めてだよ、こういう感情を相手に感じるのは。唯遊んでるだけの、FUCKしてるだけの関係の女には感じないぜ。お前、だから、『じゅえる』は凄いんじゃない?俺にこんな感情抱かせるなんてな。だから俺、『じゅえる』の事好きなのかも」 其れは、嫉妬ではなくて、ただあたしが『ひなた』くん以外の男とセックスしている事実に単純にムカついただけなんじゃないかしら。ねぇ、『ひなた』くん。沢山の男とセックスしても、愛してるのは、『ひなた』くん唯1人なのよ。 I love you.
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