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黒猫の緑眼。 作者:じゅえる

第2回   『ひなた』くんの事。

あたしは今、『ひなた』くんの事が大好きで、愛している、と思う。
愛しているなんて言葉にすると嘘っぽいけれど、それでも愛しているんだと思う。
『ひなた』くんの事を考えると、頭の中が一杯になってパンクしてしまいそうになる。
『ひなた』くんに逢いたくて、触れたくて、声を聴きたくて、その感情に歯止めが効かなくなる。
妻の『カイリ』さんと、娘の『レイラ』ちゃんの存在を厭だと思ったりはしないけれど、その2人の存在は確実で現実で何よりも固く、あたしがどう足掻いても其処に意味は無く、そして足掻く必要のない事。あたしと『カイリ』さんと『レイラ』ちゃんは存在している世界が違う。それは解っている。筈なのに。『ひなた』くんの事を考えるとどうしても出てくる。
「子供と張り合おうとしてんの?止めな。」
『ひなた』くんの口から紡ぎ出された言葉は、あたしの躰にズブズブと入り込んでくる。鋭利な刃物で遠慮なく刺されているみたいに。
あたしは張り合おうとしてるわけじゃない。
『カイリ』さんと『レイラ』ちゃんは『ひなた』くんの大切な存在で護るべき存在だから。
立ってるステージが違う事くらい解ってる。
解ってはいるけど。
好きなんだもん。どうしようもないくらい。
『ひなた』くんが、本当に『カイリ』さんとの関係がビジネスだけの関係になっていて、其処に愛は無くなっていたら、どれだけ良いだろうと思っているんだ、あたしは。それは凄く醜い感情で、吐気がする位に厭だ。
あたしはそんな醜い感情を持つ為に、『ひなた』くんを好きになったんじゃないのに。
好きになれば好きになる程、あたしの内側に巣食っているその醜い感情は大きくなって、モヤモヤと霧の様に形を成していなかった曖昧さは消え、段々と感情の強さに比例する様に其れは形を成して、堪え切れない悪臭を放つ。フッと思い返した時にハッキリと解るくらいにその醜い姿を晒す。醜い。グチャグチャの肉塊の様な。最悪だ。
あたしは、『ひなた』くんに誰よりも何よりも求められたいと想う。
そして、それは無理な事だって知っている。
『ひなた』くんの周りには、色んなモノが在り過ぎるから。
『ひなた』くんに対して、あたしはどれだけ我が儘になれば気が済むんだろう。
好きって感情は、こんなモノだったっけ?
『ひなた』くんは、醜い感情を持っているあたしを好きになってくれる?
電話が繋がらないと堪らなく不安になる。
声を聴けると限り無く安心する。
名前を呼ばれると、あたしの存在を確認出来る。
好き、と云われると、心から幸せを感じる。
愛してる、と云われると、不安になって涙が出る。
『ひなた』くんの体温は、あたしを熱くする。
キスをすると子宮が疼く。
あたしの躰を噛む『ひなた』くんを、誰よりも愛しいと想う。
抱き締められると、そのまま絞め殺して欲しいと想う。
『ひなた』くんに噛まれると、今までに感じ得なかった快感を得る。
あたしにとって『ひなた』くんは、総ての感情の源で、必要不可欠な存在になっている。
いつの間にか。初めて逢った時から?
『ひなた』くんにとっての、あたしの存在意義は????
お互いの存在意義を問う事は、愚行なのだろうか。
出逢った事に、何らかの意味を見い出そうとする事は、無意味なのだろうか。
あたしは、好きという感情を歪んだ形で捉えているのかもしれない。
歪んだ形にしなければ、捉えられない?

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Novel Editor by BS CGI Rental
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