(前回のあらすじ) 豊田ダイナの親友である日野リエには、ひとつ気になっていることがあった。 ダイナとリエは高校に入学した時からの友達であったが、思い返せばリエはダイナの家に行ったことがない…。 一体ダイナはどんな家に住んでいるのだろうか、それが気になって仕方がなかった。 あんまり気になって仕方がないので、リエはダイナの家へと向かうことになったのだが…。
学校からの坂道を上がった高い場所にダイナの家はあった。 入口は呼び鈴や郵便受け、表札にドアこそあるものの、その雰囲気は家というよりむしろ洞窟の入口に近い様子であった。
「ただいまー」 「おじゃましまーす」 ダイナの後についてその家の中へと入っていくリエ。そこで彼女が見たものは…。
「あら、おかえりダイナ。そのコは?」 「うん、私の友達でさぁ」 なんと出てきたのはダイナとほとんどそっくりの恐竜人だった。 流石に大人なのか、顔はダイナよりも少々尖っているし、身長も少し高い。 そんな謎の人物の前に、リエは暫く言葉も出なかったが…勇気を振り絞ってダイナに訊いてみた。 「ねぇ…この人誰?」
ダイナはさらっと答えた。 「ん?誰って…私のお母さんだけど」 「え!?」 「やだなぁ、そんなに驚いちゃってどーしたの?」 「い、いやぁ…や、やっぱり…お、お、母子(おやこ)って似るんだなぁって…」 驚きと緊張で思うように言葉が出せずにいたリエを見て、ダイナ母子は必死で笑いをこらえていたのだった。
「…ところで、ダイナちゃんって家にいる時はどうしてるの?」 だいぶ緊張もほぐれたリエが再び、ダイナに尋ねた。 「んー…日光浴、かナ…」 「日光浴?」 「2階に大きな窓があってさ、そこで日光浴するのが好きなんだー」 そう言いながらダイナは、リエを連れて2階にある自室へと上っていく。 そこはまるで喫茶店のテラスのように一部の壁がガラス張りになっている空間だった。 昼間は太陽の光をめいっぱいに受けられるつくりになっているようだ。 「ほら、私の部屋。こんな感じで日光浴できるようになっているんだよ」 「でも…今、夜だよね?」 「そこはそれ、夜は夜でまた楽しみがあるんだよ」 と、ダイナがカーテンを開ける。窓の外には、北斗七星、カシオペア座、オリオン座…冬の星空が広がっていた。
「へぇ〜…横須賀にもまだこんな星空が見れるところがあったんだね」 リエが一面の星空を目の当たりにしてうっとりしていると、ダイナが話し掛けてきた。 「…ね、夜の星空ってきれいでしょ?」 「うん」 …さらにダイナは続ける。 「ほら、私たちっていっつもブッ飛んだ連中に振り回されてるじゃん?でも、こうして星を見てるとね……そんな悩みなんかちっぽけに思えてくる。なんかもう、どーでもいいやってね。どんな時でもくじけちゃいけないって、勇気をもらったような気持ちになってさ…だから私、こうやって星空を見上げるのが好きだったりするんだ」 しみじみと語るダイナの横で、リエが頷いていたその時であった。
「あっ、流れ星……」 空に一筋の流れ星が走る。リエは流れ星に向かって願い事を始めた…。 「ねぇねぇ、何をお願いしたの?」 「フフ…それは秘密〜」 「あー、もぅリエっちの意地悪〜」
…数分後、夕食の時間が始まった。 「さぁ、リエちゃんと言ったかしら、遠慮なく召し上がれ」 「あの…なんですか…これ?」 「これはね、近くを飛び跳ねていたカエルを捕まえて串焼きにしたものなの。あとそれから、こっちは…」 「うっ…」 「あら、お口に合わなかったかしら?」 「……お母さん、変な冗談言うのやめてよ!これは普通の鶏肉だし、それに…」 実はダイナの母…豊田アリサは時々こうした冗談を言っては客人をからかって遊ぶのが好きだったのだ。 いやはや、それにしてもこの母親、なかなか一筋縄ではいかなさそうなお方である。 なにはともあれ、豊田家の食卓は今宵も賑やかなのであった。
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