ティラノサウルス捕獲のため、秩父へ向け飛び立った特殊探査機「プテラン号」。 二人の少年の野望と、三人の少女の不安を乗せて、関東平野を北へ北へと進んでいく。 はたしてその先に何が待つのか!?
秩父・小鹿野町上空…。 「目的地、秩父山中に到達しました」 「よし、プテラン号着陸準備!総員衝撃に備えろ!」 なんとか目的地付近に辿り着いたプテラン号は、機体底面にあるリフトエンジンを使い着陸態勢に入った。 まさにVTOL機のなせる業といえようか。空中で少しずつ速度を落とし、静止したあとゆっくりと高度を下げる。 着陸作業は順調に進んでいた…かに思われた…。
「あっ!?」 突然轟音が響き、機体に衝撃が走った。 ダイナが慌ててプテラン号のAIに声をかける。 「ど、どうしたのプーちゃん!? 「岩肌に頭ぶつけちゃいました…」 「…タカ君?もしかして……」 リナがタカオを睨みつける。その理由は簡単、タカオが着陸地点の入力を誤ったからである。
「とにかく、一刻も早くティラノサウルスらしきものを探しだそうぜ」 「それもそうね…」 「しかしどうやって探す?」 一同は考え込んだ。探し出す…とは言うものの、そうするには手がかりが少なすぎる。 だいいち、ティラノサウルスが本当にこんな山の中にいるのか。 或いは誰かが流したガセネタではないのかと、一同は半信半疑であった。 すっかり頭を抱え込むミステリー部一同。…しかし、異変は突如として起きた。
「北西方向より生命反応!こちらに向かってきます」 「なんだって?」 「熊かイノシシか、そんなもんじゃないの?」 だが、モニター上に映った光の点が動くにつれ、間隔をおいて伝わってくる振動。 それは、この生命反応の持ち主がとてつもなく巨大であることを表していた。 「ななななっ、何だぁ!?」 「く、熊にしちゃデカすぎるよぅ〜」 「プーちゃん!カメラは使える!?」 「待ってください、今映像を出します」 プテラン号のAIがモニターに映像を送信すると、そこにはとんでもないものが映っていた。 …それは10mを超す巨体、全身を覆い尽くす鱗、大きく開いた口から見える鋭い歯。 見間違いではないのかと思ったが、それほど巨大な生物は日本国内にはそうはいまい。 「…いた……いたぞっ!ティラノだ!」 リュウタが突然叫びだした。目の前を生きた恐竜が歩いているのだから無理もない。 「まさか本当に存在したとはな…よし、早速調査だ!」 「あのぉ」 タカオの声を遮り、リエが質問を投げかける。 「ティラノサウルスって肉食恐竜だよね…?生身で出て行ったら、その…食べられるかと」 「フフ…お前はまだまだ甘いな日野くん、生身で行くわけなかろう!ちゃんと小型メカを用意してあるのだよ」 「小型メカ?」 「何しろこのプテラン号は移動式母艦でもあり、まさに我々が持ちうる科学技術の全てを…」
…このままタカオに話させると長くなるので、代わって私が解説しよう。 プテラン号には状況や任務に応じた小型メカが収納されている。 今回出動するのは、ステゴサウルス型の探査用メカ『ステゴロン号』だ。 背面についた背びれ型のレーダーアンテナを使い、目標物を調査することが出来る。
「で、誰が乗るの?」 「そうだな…まずは恐竜が見たいと騒いでいる藤野、それから…」 暫くの間をおいて、タカオが指をさした相手…それは…。 「ふぇ!?」 「豊田!…君に行ってもらおう」 「ちょ、ちょっと待って、なんで…」 「何故…だと?君は基礎体力が高いからな、ちょっとやそっとのことではくたばらんだろう、恐竜だし」 「いやいやいや、体格が違いすぎるよ!ねぇ、誰か何とかしてよ〜」 「ゴタゴタ言うな!」 「ふぎゃっ!?」 助けを求めて叫びまわっていたダイナだったが、結局強制的にステゴロン号に乗ることになってしまった。 「ごめん、ダイナちゃん…助けてあげたいけど私にはそんな勇気ないよ…」 「ちょっ!?リ、リエちゃん!?」 「あとでコイツ殴り飛ばしてもいいから、今は我慢して」 「おっし!出発だぁ!」 「…鬼ー!悪魔ー!!恐竜殺しー!!!」 哀れ、またしてもダイナの身に災難が降りかかったのだ…。
ステゴロン号の機内…。 恐竜を目の当たりにして興奮が収まらないリュウタと、すっかりうなだれているダイナの姿があった。 「いたぞっ!」 「…え?」 突然リュウタがステゴロン号を止める。ティラノサウルスのすぐ目の前だ。 「こ、こんなに近付いて大丈夫なの!?」 「わかってないな…ダイナ、冒険って言葉の意味を知ってるか?」 「なんでそんなこと…」 「『危険を冒して進む』から冒険って言うんだ!!さぁ行くぞ!!」 呆れ顔のダイナをよそに、リュウタがステゴロン号のスロットルを入れようとしていたその時だった。 突然ティラノサウルスがこちらに向かってきたのだ! 「…しまった!気付かれたか!!」 「だっ、だから言ったのにぃ!」 「臆するな!これも冒険だ!」 「そんな冒険いりませーん!」 ステゴロン号は180度向きを反転し、ティラノサウルスから離れていく。 しかし、興奮したティラノサウルスは、追いかけるのを止めない。 ティラノサウルスはあまり速くは走ることが出来ない。せいぜい時速40km程度である。
…だが、速く走れないのは重いステゴロン号も同様であった。 各種装備を積み込んでいるせいで時速30kmしか出せないのだ。 ティラノサウルスが迫る。じわじわと距離を詰められるステゴロン号。
「…こうなったら仕方ないな…ステゴロンネット砲だ!」 「え!?」 リュウタがボタンを押すと、ステゴロン号の口が開き、ティラノサウルスめがけてネットが発射された。 ティラノサウルスはステゴロン号に飛び掛ろうとして…あろうことか、自らネットに引っかかってしまった。 それでもステゴロン号に飛び掛ろうとするティラノサウルス。どうやら、ティラノサウルスの目には美味しそうな獲物に見えているのだろう。 「ちくしょう、ジタバタしやがって!ステゴロン・ショック!」 もう一つのボタンを押すと、ティラノサウルスを捕まえていたネットに電流が流れる。 これには流石の暴君竜とてひとたまりもあるまい。 …電気ショックを受けたティラノサウルスはそのまま、その場に倒れこんでしまった。 「……勝った…?」 「よっしゃぁ!ティラノサウルス、ゲットだぜっ!!」 かくして、三畳ミステリー部はティラノサウルスを捕獲することに成功したのだった。
その後、捕獲されたティラノサウルスは、研究のため三畳学園へと連れ込まれた。 「と、言うわけで…これが今回、我々が秩父山中で捕獲したティラノサウルスだ」 ティラノサウルスについて徹底的に研究する部員達。 タカオの身体には数多くの傷がついていた。無論、怒りに燃えたダイナの攻撃によるものである。 「…なるほど、大きさは11.5m程度…かなりの大物だな」 「でもさぁ…」 「ん?」 リエが口を挟む。
「……あれ、あそこに放しといて大丈夫なのかな…?」 「なぁに学園内だから大丈夫…」 しかし次の瞬間、ティラノサウルスが暴れ出した。海から山に登ってきた鳶を食べようとしているのだ。 「……なんだよー!全然大丈夫じゃないじゃん!」 その様子を見ていたダイナがタカオに鬼のような形相で詰め寄る。 「や、あの、チェーンでつなぎとめてあるから大丈夫だ…」 「これ…なんだ!?」 ダイナがポケットから取り出したのは…他でもない、ティラノサウルスを繋ぎ止めていたチェーンだった。やれやれ、と頭を抱えるリナ。ただ唖然とするリエ。そして以前暴れ続けるティラノサウルス。
……こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。 めげるなダイナ、負けるなダイナ!明日はきっと……明るい……ハズ?
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