「ティラノサウルスを捕獲する」 この唐突すぎる決定により、秩父へ行くことになってしまったミステリー部。 気乗りしないダイナが無理矢理つれてこられたのは、どこか薄暗い格納庫の中だった。
「…あ、あのぉ…これって…もしかして…?」 「…私にもサッパリわからないよ…」 と、困惑するダイナ、リエ、リナ。そこにタカオの声が響いた。 「諸君!いよいよ出発だ!」 タカオの背後には、全長30mくらいだろうか、翼をもった物体が横たわっていた。 銀色に鈍く輝いているところを見ると、人工物であることは確かである。 しかしながら、その物体をよく見てみると、頭のようなものがあり、嘴のようなものがついている。 その姿は…まるで白亜紀の翼竜『プテラノドン』に似ていたのである。
「タカ君…これ、何?」 半ば呆れた様子でリナが訊ねる。 「よくぞ聞いてくれた。これぞ我が三畳ミステリー部の特殊探査機『プテラン号』だっ!」 「設計には俺も協力したぜ!」 「いやいやいやいや」 すっかり場の空気がしらけ、テンションが下がる女子部員3人。 そんな空気を読まずに高笑いを続けるタカオ、そしてプテラン号にほお擦りをするリュウタ。 ダイナは思った。…本当にこの部活は大丈夫なんだろうか、と。
「…ところでさ」 微妙な静寂を破ったのはリエだった。このプテラン号に対して一言あるらしい。 「これって本当に飛ぶのかナ?」 「……」 この質問に対してタカオはしばし黙り込んだ後、女子部員一同のほうに向き直ると… 「…テストしたことはないが多分大丈夫だッ!」 と、吹っ切れたように叫んだのであった。 その次の瞬間、リナの飛び膝蹴りがタカオを襲ったのは言うまでもない。
「だいたい!テストもしていないこんな機体で横須賀から秩父にいけると思ってるの!?」 「そうだそうだっ!」 リナの説教が始まる。後からはやし立てるリエ。 「まぁまぁ、テスト飛行もかねて今から飛べばいいだけの話で」 「墜落したらどうすんのさ!」 ダイナがタカオに詰め寄る。タカオは思わず後ずさる。 「い、いや待て、理論的には大丈夫なはずだ」 「計算だけってのは信用できないなぁ…?」 ダイナが詰め寄る。 「しかし墜落する可能性は計算上ゼロに近いわけで…」 タカオが後ずさる。 「でもゼロじゃないんでしょ?それに発進する瞬間に爆発とかする可能性も…」 詰め寄る。 「う…燃料に関しては引火性の低い物質を」 後ずさる。 怒りで牙を剥き出し、タカオに噛み付く寸前のダイナ。 もう後がなさそうなタカオ。 そこにリュウタが空気を読まずに現れた。 「まぁ、一度乗ってみればわか…」 この次の瞬間、ダイナはリュウタに飛びかかった! 「…うが〜っ!!」 「うひゃー」 …しかし、飛び掛られたリュウタの顔は、どこか嬉しそうだった…。 その顔を見るなり、ダイナは思わずドン引きした。 「…うわ!こいつドMか!?」
…数十分後。 「もう、これ以上グダグダ言ってもしょうがないから今回は付き合ってあげるけど…」 溜め息をつきながらリナがタカオに説教を垂れる。やはりこういう時に頼りになるのはリナだ。 「…で?これどうやって操縦するわけ?」 「その点は問題ない。何しろAIを搭載しているからな」 得意げに語るタカオと、不安な顔をするリナ。 その傍らでシステムチェックに勤しむリュウタとリエ。 「メインエンジン、各部異常なし!」 「メインコンピューター起動準備完了!」 「よし、プテラン号…起動!」 タカオの号令でリエがボタンを押すと、プテラン号の全システムが起動し、それまで折りたたまれていた翼が開かれた。 そして、コックピット内に声が響いた。 「ふあ〜〜〜…ぁ」 それは欠伸だった。 「む…豊田!これから出発だというのに欠伸とは何事だ!?」 「がう!?私じゃないよ!!」 「じゃあ一体誰が…」 と、辺りを見回す部員一同。するとモニター上に会話ダイアログが開き、さっきの欠伸の主が挨拶をした。 「はじめまして。私は『プテラン号』の管理AIです。みなさん、よろしくお願いしますね」 「なんだ、さっきの欠伸はこのAIだったのか…」 ダイナはひとつ溜め息をついた後、タカオを睨みつけた。 「じょ、冗談だよ冗談…」 笑って誤魔化すタカオだったが、ダイナは睨みつけるのを一向にやめない。 ついにこの2秒後、タカオは土下座をするのであった。
「でもこのAI、名前があったほうが呼びやすいんじゃないかな」 リエがふと、疑問に思ったことを口にした。 「名前?うぅん、そういば考えたことなかったね」 腕組みをして考え込むリナ。確かに、名前があったほうが呼びやすいかもしれない。 せっかく擬似人格を持ったAIなのだから、名前くらい付けてあげてもいいだろう。 しかしAIの人格を考えると、女性人格らしいので可愛い名前がいい。 そこへダイナがやってきた。いい名前を思いついたらしい。 「…じゃあ『プテラン号』だから『プーちゃん』でどうかな」 「でもこれ…安直すぎやしないか?」 と、リュウタが珍しく突っ込みを入れようとしたその刹那… 「プーちゃん…いい名前ですね。気に入りました!」 「いいのかよっ!」 違うツッコミを入れる羽目になってしまったリュウタなのであった。
「あはは、じゃあ決まりだね。私はダイナだよ」 「私はリナ。で、こいつがタカ君ことタカオ」 「で、私がリエ。こっちは恐竜マニアのリュウタ。よろしくね、プーちゃん」 「こちらこそよろしくです!」 どこか和やかなムードで、笑いあう部員達。 だが、その雰囲気は一瞬にして破られる。タカオの号令によって…。 ダイナは思った。こいつは空気を読めないのか…と。 「…よし、そうと決まれば早速秩父へ向け発進だ!」 タカオがなにやらボタンを押した。
「…何よ、今のボタン」 「発進のBGMのボタンだ」 タカオの言うとおり、先ほどからどこかで聴いたような勇壮なメロディが鳴り響いていた。 こういう演出って必要なのか…?ダイナのみならず、リエやリナまでもがそう思っていたことだろう。
かくして、ティラノサウルス捕獲に向けてプテラン号は飛び立った。 …部員たちの不安を乗せて…。
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