(前回のあらすじ) 日本の何処かにあるという三畳学園高等部。 ここに通う恐竜人の女子高生『豊田ダイナ』とそのクラスメート『日野リエ』は、 部活に参加するべく社会科室に来ていた。その部活の名は『三畳ミステリー調査部』。 怪しい。見るからに怪しい雰囲気だ…。ダイナたちは少し躊躇いながらも、そのドアを開けるのであった。
「…こんちわー」 「が、がぉーっす…」 おそるおそる部室に足を踏み入れていくダイナとリエ。 何故か室内は暗幕がかけられており薄暗い。照明も半分だけのようだ。 「…誰もいないのかな…」 リエがダイナに問い掛ける。いつもならば部員が声をかけてくるはずなのだが、今日に限っては誰もいないようである。ダイナは、きっと部員たちはこの教室の何処かに隠れているのだろうと思っていた。
「ううむ…どこに隠れたか知らないけどまた部長の思いつ…」 と、ダイナが呟きかけたところで突然照明が消えた。 「なっ!?ななななな…何?」 「急に電気が…」 と、慌てふためく二人を更なる罠が襲った。謎のうめき声とともに不気味な顔が出現したのだ。 「いやぁぁ!?で、出たぁぁぁぁ!?」 「あんぎゃーっす!」 リエ、ダイナと立て続けに悲鳴をあげる。逃げだそうと思ったが、あまりに唐突な出来事に二人とも腰が抜けて動けない。 …二人がもうダメだと思ったその時、突然照明がつけられた。
「はっはっはっは…ドッキリ作戦大成功だな」 と、自信たっぷりに笑いながら現れたこの男。常にサファリハットを被っている彼こそ、ミステリー部の部長を務める『八王子タカオ』である。ダイナは泣きそうになりながらもタカオに抗議をする。 「こ、このバカ…!しっ…しっ…心臓が止まるかと思ったよ…!」 「はっはっは、そうかそうか、心臓が止まるほど気に入っていただけたとは光栄である」 と、笑いながらタカオが話していた次の瞬間…。 「ぐっはぁ!?」 なんとタカオは何者かに後ろから鞭のような物で殴られたのであった。
「…な、何をするっ!?」 タカオが振り向くと、そこには『国立リナ』が仁王立ちをしていた。 リナはタカオの幼馴染であり、このミステリー部において副部長を務めている。 「タカくん…?人を嫌がらせるようなことしちゃダメだって言ってるよね…?」 「な、何を言うか!俺はちょっと二人にサプライズをだな…」 再び、タカオにリナの鞭が飛んだ。いや、正確には鞭のように長い『尻尾』のようだ。 よく見ればリナの顔は口の辺りが大きく前に突き出している。そう、リナも恐竜人なのである。
「に、二度もぶった!親父にも尻尾でぶたれたことないのにー!」 「殴って何故悪いか!?…じゃなくて尻尾の生えた人間は普通いないよ!」 「言い切ったな!尻尾の生えた人間に謝れ!!」 「その前にアンタがそこの二人に謝んなさい!」 「う…」 圧倒的な気迫の前に押されるタカオ。 タカオとリナはよくケンカをするが、いつも勝つのはリナの方だった。今回も、リナの圧勝である。 このあとタカオがダイナたちに土下座をしたのは言うまでもない…。
「…それにしても…アイツ遅いなぁ」 リナがぽそりと呟く。まだ一人、部室に来ていないようだ。 基本的に部員が欠けるようなことはない部活なのだが…。 「まったく、一体どこで油売って…」 と、ダイナが呟きかけた瞬間、再び照明が消され、次の瞬間ダイナに網がかけられた。 「がうっ!?」 思わず恐竜のような声を上げるダイナ…まぁ、ダイナは恐竜だから当然なのだが。 しかしその罠にかかったのはダイナだけではなかった。同じ恐竜人であるリナも罠にかかっていたのだ。 「ちょ、ちょっとタカ君!?またあんたか!?」 「いや、俺ではないぞ」 「がぅー…じゃ、じゃぁ一体、誰が…」 「はっはっはっは!…俺だァ!!」 ダイナが網を解くのに必至になっていたその刹那、いきなりスポットライトが灯り、叫び声とともに一人の部員が現れた。彼の名は『藤野リュウタ』、大の恐竜マニアとして有名な部員である。 「リュウ!?…この網ひっかけてくれちゃったのはアンタか!!」 ダイナが怒鳴る。いきなり網をかけられれば当たり前である。 しかしそんな話はリュウタには通じない。何故なら彼はこのとき、自分の世界に入り浸っていたのだから…。
「あぁ…恐竜を2匹もゲットできるなんて夢にも思わなかったぜ…」 「いいから網をほどけー!」 …ちなみにこのあと、リュウタはダイナの噛み付き攻撃を受けることとなる…。
…数分後。 「さて、全員揃ったところで今日も始めるぞ。今回の議題だが、秩父山中にて生きた恐竜が目撃されたという噂だ」 タカオの『演説』でいつものように活動が始まった。半ば呆れ顔で話を聞くメンバー一同。 …だがしかし、恐竜マニアのこの男だけは食いつきが良かった。 「ホントか!?すげぇ!」 「…どうせ誰かのイタズラか、私たちのような恐竜人じゃないの?」 呆れてツッコミを入れるリナには目もくれず、タカオはさらに続ける。 「ふっふっふ…甘いぞリナ。目撃情報では体長およそ12m…白亜紀後期に生息したといわれている恐竜なのだよ…」 「そうそう、ヤツは恐竜界の大スターとか言われてるんだぜ?」 その話を聞いていたリエの表情がだんだんと強張ってくる。 「そ、それってもしかして、ティラノ…?」 「その通り、我々はこれより秩父山中に現れたティラノサウルスと思しき生物の調査および捕獲を敢行する!」 …えらく唐突であった。この部活はいつも行き当たりばったりで活動内容が決まってしまう。 これにはダイナは勿論他の部員達も頭を悩ませているようである。
しかし、ダイナにはこうした場当たり的な空気のほかに気がかりなことがあった。 それはティラノサウルスがダイナと縁の深い存在であるということなのだ。 …というのは、ダイナの祖先であるトロオドンも、今回話題に上がっているティラノサウルスも、生物学的に言えば近縁関係にある種族…『コエルロサウルス類』だということ。 つまり、ダイナにとってティラノサウルスは一種の先祖にあたるので、それを捕獲する…となると、どうも気分が乗らないらしい。
「…あの、やっぱりやめようよ」 と、思わず口を挟むダイナだったが、タカオとリュウタはすでに出かける準備を始めていた。 「がうっ!?え、ちょ、ちょっ…」 と、慌てるダイナの両肩をリエとリナが押さえる。…何故か二人とも泣いていた。
「ダイナちゃん…ごめん、どうやら決定みたい」 「…ごめんね豊田さん、恨むならタカ君を恨んで…」 哀れ、すっかり涙目のダイナは怪しげな格納庫に連れて行かれるのだった…。
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