「ふざけないで」
廊下を歩いてるときだった。ガルドの耳に、ふと声が入ってしまった。本当はそれほど大きな声ではないだろうけれど、ガルドの耳には必ず入る。 こっそり近くまで行った。すると、そこは、三階と四階の中間のところ。踊り場というのだろうか。そこで女子たちに囲まれている奴を見た。 「風月・・」 風月だった。ボケーッとしているのか、何も聞いていないのだろうかという顔をしていた。あまり女子の攻撃に答えては居ない。 丁度ガルドは、四階にいた。屋上から出ようとしていたときだった。まだ昼休みはたくさん有り余っている。 「ガルド様に近づこうなんてあんたには早いのよ」 そういうかのように、睨みつける女子軍団。軍団といっても、今のところは三人しかないかった。 (女子ってこえぇのな。けど俺が喧嘩の原因かよ)
どうするかなぁとかおもいながら、眺める事にしていた。 ガルドということは、無理にガルドが入ったら、逆に後からが怖い気がしていた。それに、風月もどれくらい耐えてくるのかも気になった。 「何とか言ったら??」 「言っていいの??なら言わせて貰うけどね、何であなたたちにそんな事言われなきゃいけないの??私はあなたたちに何かケンカ売るようなことした??」 「したわよ!ガルド様に近づこうナンテ・・ 「あなた達にガルドを締め上げる権利はないんじゃない??」 強気で言ったその言葉は、ガルドに嬉しい言葉だった。嬉しい気持ちで聞いていたガルドは、次の行動に目を開かせた。 パシーン・・・
大きく鳴り響く風月の頬の音。 女軍団たちのリーダーと思われる人が、風月の頬を引っ叩いたのだ。 「ガルド様を呼び捨てにするなんて・・ 「だからなんであなたにそんな事を言われなければならないの??私がガルドのことをなんと呼ぼうが勝手でしょ!?自分たちに近づく勇気がないだけなために、私に当たらなくたっていいでしょ??あなた達に良心という心はないのですか??なくてもいい・・けれど今時分がしなければならないことがこれなのかは、私にはわからない!」 強気だった。強気の心は、女軍団の怒りに油を注いでいた。
パシーン
二発目・・けれど、その音は、風月の頬じゃなかった。叩いた本人たちも驚き、風月までもが驚いた。 「が・・ガルド様!」 そう。叩いたのはガルドの頬。 女軍団の手が震えだす。 「何??三発目は来ないの??なぁんだつまらないの・・お前たちが俺のことをなんと言おうが勝手だ。だがな、それだけのために周りの奴らに妨害を加えるのはどうかと思うが??特にこの女に手ぇ出すとはいい度胸してるな・・殴られたくなければ早く消え去れ」 叩かれたままの、そっぽ向いた方向。長めの前髪で目がほとんど見えていない。けれど、片方の目が女どものほうを見ている。その目が人間の目ではない。魔界の目であった。 その目に気付いたのか、言葉に怖がったのか、女たちは震えながら走ってどこかへ消えて行った。 運よくガルドは、我を忘れていなかった。我を忘れているガルドは、これだけではすまない。 「ガルド・・大丈夫??」 ガルドの前髪をソッと退け、腫れた頬に手をソッと当てた。 「赤くなって・・」 「風月こそ・・」 「大丈夫よ私はなれてるから。」 「俺だって慣れてるさ。これは痛くない・・けど、ごめんな??なんか俺間違えたかな??」 「ばか。間違えてないよ」 ガルドの頭を、コツンと叩いた。 「それに助けてくれたでしょ??それでいいさ。」 フッと柔らかい表情になった風月の顔を見ると、頬だけじゃなく、耳までも赤くなってしまったガルド。それを少しでも隠そうと、ソッと下を向いた。 「けど、どうやってここまで来たの??」 下を向いたまま、四階のほうに指差した。 「どうやって??」 「ジャンプした」 「ここまで??」 普通の人間では無理だ。少しの加減で、翼を出し、即座にしまう。そういう加減が必要なことだった。 そんな事を考えていると、風月は走って、ガルドが元いた場所にたった。 「ここから??」 ガルドはうんと頷く。 すると、軽く助走を付け、ジャンプした。 「バカッ!」
「いててて・・無理じゃん・・届かない・・」 「簡単に出来てたまるか」 ガルドは、即座に助けようと風月の下に入った。そのまま風月はガルドの上に座ったままだった。 「あのな??もうそろそろどけてくれる気はない??」 「おしおき。飛べなかったから・・なぁんちゃって。」 そういいながら、ゆっくりとガルドの上から降りた。 「じゃ・・ちょいと俺・・」 そう言って、階段を降りていった。風月はゆっくりと付いていった。 もちろんガルドが走っているので、追いつけるわけがないが、一回まで降りて言った。足音でだいたい解る。 曲がった方を見ると、ガルドはいなかったが、保健室の扉が閉まるのがわかった。保健室の中から声がする。
「先生〜ヤバイ・・」 「どうしたの??ガルド君・・」 「俺・・」 「っていうか顔赤いけど??もしかして好きな子出来ちゃったの??」 「バッ!!」 馬鹿といおうとした。だが、恥ずかしくていえなかったし、本当のことを言われて驚いたりもする。 「悪いかよ・・」 「なんもぉ〜?ただ・・魔族も恋するのねぇ〜って思ってさぁ〜」 「しますよ」 「どう??少し休んだら??」 「そうさせていただきます」 ガルドは、ゆっくりとチカラを抜いていった。すると、鋭い翼。鋭い爪。鋭い牙が出てくる。鋭い瞳はあまり目立たなかった。 風月は話の内容じゃ、なんもわからなかった。ゆっくりと扉を開く。 「だれ・・だ・・」 ガルドが、勢いよく風月のほうを見た。いきなりすぎて、気も抜いていたし、ツバサ等を即座にしまうことは出来なかった。 「ガルド??」 「ふ・・・・つき・・」 ばれた!ばれた勢いで、すべて思っていることが言葉としてでてこなかった。けれど、次の瞬間。ガルドの肩の力はスッと抜けていった。 「いいな」 「は??」 意外な風月の言葉で、保健の先生の麻美先生も、ガルドもなんだかガックリしていた。風月は、いちお中に入って扉を閉めた。そして、ゆっくりとガルドのほうに近づいていった。 「ガルド・・あんた何??この翼・・作り物じゃないよね・・」 ゆっくりと翼に触る。感触といい、今までに触ったことのないものだった。 「あ・・あぁ・」 「ってことは魔族か何か??」 それには答える事ができなかった。 「教えてよ。ずるいじゃないあなたこんな翼。いいなぁ〜。けど私は要らないなぁ〜」 「何で??」 「だって・・ツバサを持っている人に何処か連れて行かれたいじゃない??自分でもっていたら、何かつまらない」 意外な反応ばかりされて、ガルドのほうも、どういうことを思えばいいかわからなかった。けれど、風月の微笑んでいる顔を、頭に焼き付けておいた。 「どうしたの??触っちゃまずかった??」 「いいや・・嬉しくて」 「何が??」 「そういう顔見れて」 赤面する風月。なんだか、その言い方にすごく照れているのだ。 「うるさいな!ばらされたくないんでしょ??」 「う・・うん。」 「だったらちゃんと鍵閉めとかなきゃだめでしょ!反射的に閉めちゃったけどいいの??」 よくよく見てみれば、カギが閉まっていることに今気付いた。 「準備の良い事」 「それが当たり前よ」 「あのぉ〜ラブラブ中のところ悪いけど・・・私いちお彼氏いないんでぇ〜こういうことされてもぉ〜なんだか嫌味放たれてるような気がするんですよぉ〜」 少しムスッとした顔で棒読みらしく言った。 「いるでしょ?」 ガルドがするりと言うと、するりと返してきた。 「えぇ・・って風月ちゃんの前で言わないでよぉ〜!」 焦ったように言ってきた。その顔もなんだか可愛くて、ヒューンが惚れるのも仕方がないような気もしてきていた。 「いいじゃないですか。そんなパッとした男じゃないんですし!」 「そんな事ないわよぉ〜もう男らしくって。今日も彼迎えに来てくれるのぉ〜」 もう目がハートではないだろうか。 「先生の彼氏ってどんな人?」 「どんな人だと思う??」 先生ではなく、ガルドが言った。 「ん〜細かい事気にしないで、大雑把な人かなぁ〜?」 「ん〜どれにも当てはまってないねぇ〜」 「何いってるのぉ〜当たってるわよぉ〜風月ちゃん♪」 「全然。あぁだこうだうるさいしさぁ〜朝の起こし方荒っぽいし!俺に対して上気取りしてるし」 「上でしょ?」 風月がソッといった。そういわれるとたしかにそうだが・・とひるんでしまう。 「けど、どういう関係なの??先生の彼氏とガルドって・・」 「簡単に言えば父親だよ。けど先生が母さんじゃないからな」 「うん。こんな子供要らないわ」 「ヒドッ」 「どういう意味??」 「だから俺の母さんが死んでて、それで父さんというかお目付け役の彼女が先生ってことさ」 「金持ち」 「違うワイ!」 風月の意外な毒舌(?)に弱まるガルド。ここまで言い合えるのはここの保健室だけかもしれない。 そんな話を出来るのも、風月の性格のおかげだと思う。だから、ガルドは風月にお礼をしなければならない。
「どうでした??学校は」 「なぁ、風月にばれた。」 「え?」 「それにばれた事をお前の彼女も知ってる」 「か・・彼女だなんて・・」 かなり恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。 「って・・ばれた?!どうするんですか・・全く」 「大丈夫だよ。ばらさない。」 「そんな事がいえるんですか・・」 「じゃあ何で先生には記憶隠蔽しないんだよ」 「そ・・れは・・」 「信じてるからだろ??」 ヒューンは一本取られたと、軽くため息をついた。それに、ヒューンには嬉しかったのだ。こうやって、人を信じたりしてくれることが、昔のガルドではありえないことでもあったのだ。 「それと同じもんだよだいたい」 「恋したな」 「あぁ。わかったか?」 フッと笑った後、ゆっくり階段を登って行った。
なんだか久し振りに感じる自分の布団。 魔界の布団なんかよりも、断然やわらかく、気持がよかった。 窓を開けて、微かに入ってくる風に当たっていた。すると、なんだかうとうとしてきてしまって、そのままガルドは寝てしまった。
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