■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

パワプロ 作者:mituki

第8回   中継ぎ
シュッ

あおいが進藤に投じた第一球目、132キロのストレートが外角に決まる。しかし、進藤は手が出なかった。

「進藤さんヤッパリ見送ったか。そら、渚の速球と22キロもちゃうんやからタイミングが合う筈あらへん」

乾がベンチの後ろでボソッとつぶやく。横にいた渚もそれに頷く。

進藤は一度打席を外し大きな素振りを2回した。あおいはそれに目もくれずロージンバックを手の上で何回か放り上げる。

『進藤、先ほどは球速の差に手が出ませんでしたが今度はどうでしょう』

あおいの手から落とされたロージンが白い煙をあげる。そして、第二球目を投じた。

「インハイのストレートだと、なめんな!」

進藤のバットが振り出される。しかしその瞬間、ボールは軌道を変えミットに収まった。

「シンカーやな、途中までストレートと軌道が同じやから気ぃ付けんとああなるで」

あおいの三球目、内角低目のストレート、しかしこれは見せ球なので外れてボール。カウント2−1、間髪入れずに三球目。さっきのストレートと同じコース。だが、さっきと違うのはこれが変化球でストライクゾーンを舐めてくるという事だった。あえなく進藤は三振に終わる。深谷に打順が回る。初球カーブは深谷が当てそこないファール。続くニ球目、外角へのストレート、これは深谷がよく見てボール。その後、三球目・四球目とも外してしまいカウントは1−3。しかし、深谷はただでは塁に出なかった。

『深谷粘ります。これで四球連続ファール。カウント2−3のままです』

あおいの五球目、だがこれもストライクゾーンに嫌われ結局フォアーボールでランナーを出してしまった。

あおいが帽子を目深に被る。いつのまにかブルペンにいた箕輪がそれを見て投球を止める。

「こら、箕輪!そりゃボークだぞ!」

ブルペン捕手をしていた日高が箕輪に注意するが、本人は全く聞いていない。

「あおいちゃん・・・まずいな散々粘られて出塁。しかも打てる球を無理やりカットしてくるなんて、さすが去年の出塁率リーグトップだ・・・」

箕輪自信、あおいを心配しているのか深谷を誉めているのか分からなくなってきた。

『さて、早川・・・っと、登録名はあおいでした。はこれを切りぬけられるのか?』

2番の大島が打席に入る。あおいの初球・・・大島は、あおいの目の前へバントをした。あおいが前進してくるそれを制するように初芝も出てくるが、あおいの方が早くボールを捕球し、一塁へ送球するが一足早く大島がベースへ辿りついていた。

(書き忘れていたが、先石井との選手交代で出場した立川はサブローと変わってセンターへ、初芝はファースト、セカンドの酒井はサードへ、セカンドへは堀が入っている)

「やられた、早川は女性故やはり普通の選手と比べれば肩力は劣る。そこを的確についてきたな」

「監督、箕輪に代えますか?」

「いや、このままでいい。このイニングだけは早川でいく」

『さぁ、あおい選手早くもピンチです。ワンアウト1・2塁で迎えるバッターは谷です』

点差は3点、ここで一発がでるとあっさり追いつかれてしまう。あおいの表情が強張ってくる。しかしこの時、あおいは心の中で自分を捨てた父親のことを思い出していた。

(こんなところでつまずいていられない。こんな事じゃ父親に勝つどころか対等の立場になる事すらかなわない)

あおいがおさげを振りながら投球フォームに入る。腕がしなりボールはミット目掛けて飛んでくる。内角へ食い込む球速にして120キロ後半のボール、谷はそれを構わず叩きにいく。しかし、ボールは谷の目の前ですばやく沈んだ。先ほど進藤に対して投げたシンカーと似てはいるが、沈み方が普通ではない。慌ててバットを止めようとする谷だがここまでくるとバットはもう止まらない。中途半端にミートしたボールはあおいのグラブへワンバウンドで収まった。それをすばやく2塁へ送球する。堀が捕球し、スライディングで突っ込んでくる大島をジャンプで避け、そのままジャンピングスローで一塁へ投げる。間一髪で間に合いダブルプレーとなった。スリーアウトチェンジである。なんとか初登板を無失点で終わらせたあおいはベンチに戻り、乾や箕輪と手を合わせた。

このまま調子に乗りたいロッテだが、次の回は神童から点を取るのはおろか、一人のランナーも出せずに終わった。

7回の裏、ロッテは再び投手交代を告げた。

『マリーンズ選手の交代をお知らせします。ピッチャーあおいに代わって、タカヒロ・ミノワー!背番号14』

球場中にブーイングとわかるようなどよめきが起こる。苦笑しながらマウンドへ向かう箕輪。

「たはっ、やっぱり皆あおいちゃんに投げててもらいたいよなぁ」

投球練習を終え、打席に村雨が入る。はっきり言っていきなりのピンチである。どう考えても箕輪のストレートが通用するような選手ではない。箕輪の考えが分かったのか、清水からサインが出た。変化球である、しかし箕輪の一番得意とするカーブではなくスクリューであった。だがストレートを投げるよりはマシと思った箕輪はサインに頷き投球フォームに入る。足が上がり両腕が開く、そして前に出したグラブを胸元へ引き腰が鋭く回る、しなった腕から放たれた球は外角低目へと向かっていく。球が変化を始めたコントロール良く外角の低目(投手の聖域)へすいこまれるように白球が落ちた。が、

カキィ!

村雨のバットがそれを捕らえる。打たれた打球はライトスタンドへ向かっていくそれを懸命に追う春日とフェンスの間が徐々に狭まってくる春日の腕がグラブがボールに向かって伸びる・・・。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections