「ストライーク!バッターアウト!」 『この回、渚はオリックス打線を三者凡退に切って取りました。一回以降ロッテ、オリックス共にヒットが出ないまま三回の裏を終えて今だ1−0でロッテがリードしています』
傍から見れば、渚の調子は戻っている様に見える。しかし、当の本人にすると全く納得のいかない内容であった。理由は、やはり自分が降板した後のことだろう。
「監督お願いです!せめて自分に7回まで投げさせてください」 「しかしなぁ、7回から誰が投げるんだ?」 「後藤さんあたりでいけばいいのでは?」 「それは出来ない。このところ後藤も連投だからな」 「しかし!昨日まで2軍だった連中に投げさせるなんて!」 渚はなにがなんでも箕輪達に投げさせるのを拒んだ。 「渚、もう少しあいつらを信用したらどうだ?」 「せやで、ワイらに任せぃ」 渚の後ろに乾が現れた。渚と乾は同期である。性格が正反対の二人だが、チーム内で一番気の会う相手だった。 「乾・・・、お前のことは信頼している。しかし今年入ったばかりのルーキーにこんな投手戦を任せることはできない」 「あのなぁ、自分やて去年は新人やないか。それにまだワイらは一年しかプロで飯食ってへん。ワイらがやってきたことをアイツらにやらせてやってもいいんじゃないのか?」 乾がそう言うと、監督が渚の肩に手を置いた。 「渚、ウチのチームは新人が頑張ってくれれば他の連中だってやる気を起こすはずだ。その為に協力してくれるな?」 渚は口を緩め、帽子を被り直しながら言った。 「・・・・・はい。分かりました。」
『四回、ロッテの攻撃も尻上がりに調子を調子を上げてきている神童を攻めあぐね、早くもツーアウトです』 マウンド上の神童は額の汗を拭い、ユニホームの袖を捲くった。 『神童、初芝に対して4球目・・・・・初芝打った!が、これは平凡な内野フライ。ショートの大島がキャッチしてスリーアウトチェンジです』 ここで補足しておくと、村雨が入団した為に大島は遊撃手へとコンバートされたのである。
「よし、チェンジだ。渚あと2イニング頑張ってこいよ」 監督がそう言った時、ベンチ裏で西武ドームの試合を見ていた箕輪が飛びこんできた。 「大変です!西武の輝星さんの満塁弾で西武が大量リードです!」 「また輝星ハンか。あの人は調子が良いと手がつけられんからなぁ」 「これでますます負けられなくなったな、今日の試合を勝たないと西武を抜くことはおろか追いつくことも出来なくなってしまうぞ」 「はい!任せてください」 自信を取り戻した渚はマウンドへ小走りに向かっていった。
『さて、四回の裏、オリックスの攻撃は2番の大島からです。』 マウンドの渚は清水のサインに頷き内角低目に速球を投げた。大島はこれを見逃すが、審判のコールはストライクである。続いて2球目も速球である。
バキィ!
『おっと!渚の快速球に大島のバットが砕かれた!』 ボテボテの当たりを小坂が処理してワンアウト。続く谷は右中間に打球が飛ぶも、春日のファインプレーに阻まれて簡単にツーアウトとなったのである。 『次のバッターは村雨。先ほどは、記録はヒットになったものの日向の好返球で結局点にはなりませんでした。この打席でその借りを返すのか、注目の場面です』 渚が投球フォームに入る。しなった腕から投げられた球は、本日の最高球速である154キロを記録した。が、次の瞬間ボールはバックスクリーンに跳ねていた。 『ホームラン!ホームランです!村雨、調子を取り戻した渚から同点アーチです!』 村雨がダイヤモンドを回る。その中心に立つ渚は天を仰いでいた。
ロッテのベンチでは監督がブルペンに電話をしている。 「あー、ワシだ。早川はどうだ・・・・そうか、なら予定通り6回から投げさせるからもうちょっとしたらこっちに呼んでくれ」 一方、渚は藤井をキャッチャーフライにして四回を終わらせていた。
|
|