『さあ、同点にされたものの後続を絶った箕輪、7回はこの箕輪からの打席です。マウンドには龍牙がそのまま上がります。試合も終盤に入り、ますます緊張感が増してくる東京ドーム!』
「ストラーイク!」
箕輪は2−1と追い込まれた。
『龍牙、足が上がって第4球・・・打った!』
内角低めのスライダーをしぶとく当て、右中間にはじき返した。
『箕輪、セカンドへ向かう!だが、波川も打球に追いつきセカンドへ送球する』
波川からダイレクトに送球された球は箕輪とのクロスプレイになった。
『判定はセーフです!しかし、危ないもう少しで刺されるところでした箕輪』
そう、箕輪は足が速くないのである。走塁技術は低く、実は今シーズン何度も本塁憤死を経験しているのであった。
「箕輪もあともう少し足が速ければなぁ。この前の唯との勝負の時も半歩ベースにつくのが早ければ間に合ったってのに」
「輝星さん、ロッテの応援しないで下さいよぉ」
「おお、すまん。まあ、今年は目の前で戦っているどちらかのチームが優勝するのを見守ろうじゃね〜か」
周りが笑いに包まれる。すると一人の少女が氷坂に声を掛けてきた。
「あ、あの〜。氷坂投手ですよね?サインお願いしたいんですけど・・・」
「おい、遥、いきなり失礼だろ」
現れたのはダイエーの星空大地とその妹、星空遥だった。
「え、星空さんの妹さんなんですか?」
「ああ、一応・・・」
「ホシの妹がこんなに可愛いなんてな。いい機会だし、みんなでサインしてやるか」
輝星が言うとみんなが遥の持っていた色紙にサインを書く。まるで寄せ書きのようだが、全てプロ野球の第一線で活躍する選手のものだ。プロ野球ファンならのどから手が出るほどうらやましいだろう。
「うわ〜!ありがとうございます!私、絶対大切にします。そして、必ずプロ野球選手になって見せます!」
「お、遥ちゃん野球やっているのか?そうだな、コイツ(氷坂)や早川がプロでも十分に通用しているんだ。キミだってきっと上手くいくよ。応援してるからな」
「はい!」
輝星に言われて喜ぶ遥。そして、遥に抱えられた色紙はプロに入った後も大切にされているらしい。
そんな楽しい光景など見ている余裕の無いグラウンド内ではセカンドに箕輪を置き、打席にメイが入った。
『ノーアウトランナー2塁。マリーンズ、勝ち越しのチャンスを得ました』
レフトスタンドの盛り上がりが最高潮に達する。さきほどから白いタオルが休むことなく舞っている状態だ。
「これ以上点をやれるか!」
勢い込んで球を投げ入れる龍牙。メイがスイングに入った瞬間・・・
カシィ
「うあっ!」
『おっと、キャッチャー野口たち上がれません!ファールボールを肩に当てたようです』
日本ハムベンチからコーチとスタッフが野口に駆け寄り、応急手当を始める。
『ファイターズ、野口選手の治療のためしばらくお待ちください』
場内アナウンスが入り、応援も静まる。さすがにこれは不可抗力なので、日本ハムの選手も怒れない。その間も治療が行われるが、結局肩に違和感が残る野口は病院で精密検査を受けることとなった。
「痛っ!・・・すいません。こんな大事な試合で退くことになるなんて」
「気にするな。俺は今年の優勝がなくなるより、お前が動けなくなるほうがよっぽど辛い」
「か、監督・・・」
「そうですよ。ウチにはビッグバン打線がありますから十分勝てます!」
波川が自信たっぷりに言い切る。
「自分が後を継ぎますから!」
實松がレガースを取り付けながら言う。
「よし。勝って優勝を野口への土産にしてやれ!」
「はい!」
『ファイターズ、選手の交代です。キャッチャー野口に代わって、實松。背番号41』
『野口の後に出てきたのは田口ではなく、期待の成長株である實松です!ベテランの経験ではなく、若手の力強さを買ってでの起用でしょう。大島監督らしい采配です』
マウンド上で龍牙と話し合う實松。龍牙とも何度かバッテリーを組んでいる上に歳も変わらないのでなかなか相性がいい。
「プレイボール!」
そして、試合が再開された。
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