箕輪がホームランを打った後、4回まで両チームヒットは出すものの、試合は膠着状態になった。そして5回・・・
「ストライーク、バッターアウト!」
9番の酒井が三振に倒れ、ワンアウト。打順はトップの日向に回った。
『今日3度目の対決です。日向は相沢にここまで三振とセカンドゴロで抑え込まれています。日向の反撃なるのか!?』
だが、日向はボールにまったく手を出さずにツーストライクまで追い込まれていた。
「どうしたの?この打席も三振かな?」
そう言って余裕の笑みを浮かべグラブを口に当てる相沢。
「へっ、ほざけ!お前の弱点くらい分かってるんだよ!」
「ハッタリのクセに!」
相沢の手からボールが離される。球は外角からスライダーでストライクに入ってくる。日向はそれを上手く当て返した。
「きゃ!」
打球は相沢の顔の真横を抜け、センターに転がっていく。
その反動で相沢の頭から帽子が飛んだ。すると、中からきれいな青色のショートヘアーの髪が現れた。
「は?」
静まり返る球場の中で、日本ハムの大島監督はイタズラがばれた子供の様に苦笑いを浮かべていた。どうやら相沢についての真相は内緒にしておきたかったらしい。
ロッテベンチでは驚きと同時に突っ込みを入れる人間がいた。
「また女性投手!?」
「しかもバレ方が氷坂と被っとる!」
「虹野さんそっくりでやんす!」
「うっさい!」
バキィ!
また乾に殴られる矢部。
一方、スタンドでは氷坂が妙に納得した表情で相沢を見ていた。
「やっぱり“相沢ちひろ”だった。登録名が“相沢千尋”だったからもしかしたら、と思ったけど正解ね」
「正解ね。ってどういうことだ?」
輝星が慌てて聞く。
「相沢投手・・・いえ、ちひろは全日本女子硬式野球大会の準優勝校のエース。あたしと決勝戦で投げ合った投手です。でも、どうしてプロに・・・」
考え込む氷坂。すると横で渡島が話し始めた。
「恐らくドラフ島だろうな。あそこなら秘密裏に、だが、機構(日本プロ野球機構のこと)の公認を受けて入団することができる。画期的な反面、ある意味裏技だな」
一様に納得する面々。ドラフ島とは昨年、12球団がそれぞれ資金を出し合って無人島に作り上げた一大施設で、条件を満たせば必ずドラフトで指名されるというシステムだ。ただ、その島は地図上には表示されておらず、一部の認められた人間だけが島に立ち入ることを許されているのである。
「もっとも、あそこの最高責任者の神高には色々と悪い噂も聞くがな」
スタンドで話がそれている間にも試合は進行しており、日向が二盗を決め、ワンアウトランナー2塁となっていた。
『マリーンズチャンスです!このチャンスに打席に入るのは小坂。日向を還すことができるのか!?』
小坂はバントの構えからエンドランを仕掛け、それが成功。見事にランナー1・3塁にした。
『日向・小坂の連続ヒットでチャンスは広がります。ワンヒットで1点・・・いや、一塁上は俊足の小坂ですから2点取るのもそう難しくはないかもしれません』
バッターボックスには福浦が入った。現在打率部門で日向、小笠原に次ぐ3位で小笠原は十分に射程内である。
『おっと?ベンチから大島監督が出てきました。どうやら投手交代のようです。次に投げるのは・・・龍牙です!おととい使ったばかりの龍牙を登板させてきました!そして相沢はベンチには戻らずそのままライトへ入り・・・DH破棄です!日本ハムファイターズが先に仕掛けてきました!』
投球練習を始める龍牙を横目に素振りをする福浦。アベレージヒッターとしての意地で出塁するのか?それとも龍牙がエースの名の通り、抑えるのか?
中盤になって試合はますます盛り上がってきた。
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