『ホームラン!ホームラン!小笠原!!』
ライトスタンドに応援がこだまする。東京ドームでの日本ハム対大阪近鉄第25回戦。
近鉄が2点リードのまま9回の裏ツーアウトにまで来てしまっていた。
『バファローズ岩隈、投球モーションに入って第4球投げた!』
岩隈の低めの変化球を打ち上げてしまった小笠原の打球はふらふらっとサードへ飛んでいく。
『中村、がっちり捕って試合終了!ファイターズ、まさかまさかの同一カード4連敗。2位マリーンズの足音が近くなってきました!』
現在優勝争をしている日ハム、ダイエー、ロッテの3チームの中でも頭一つ抜きん出ていたファイターズが調子を落とし始めたのである。
一方、ロッテはこの前のダイエー戦を2勝1分けで乗り切り、単独2位にまで浮上。その勢いのまま9月に突入したのであった。
「ここに来て龍牙以外の投手陣が揃って悪くなるなんてな」
「岩本は2軍、関根は怪我で療養中、下柳、中村、金村、も振るわないか・・・」
「2軍の彼を持ってきますか?」
「相沢しかいないか。よし、今度のライオンズ戦から登板できるようにしておいてくれ」
そして、一週間後。
『試合終了〜!プロ2年目相沢、リリーフエース神威との完封リレーで勝利を収めました!ファイターズに救世主が現れた!』
ここからファイターズはなんと5連勝を挙げ、一時期並ばれたロッテとのゲーム差を再び2ゲームと突き放した。
パ・リーグ残りあと12試合。
『今日は、西武ライオンズ対千葉ロッテマリーンズ。オリックスブルーウェーブ対日本ハムファイターズの試合がそれぞれ西武ドームとGS神戸で行われています』
西武の先発は最多勝を狙う西口。対するロッテは新人王の期待がかかる加藤。
オリックスは中5日でエース神童が先発。日本ハムは噂の相沢が先発となっていた。
1回のオリックスの攻撃。バッターは村雨
「さて、噂の相沢君がどんなもんか確かめておくか・・・」
とあくまで様子見のはずだった村雨だったが。
「ストライーク!バッターアウッ!」
「なんて球だ!?」
相沢の前にあえなく三振を喫して驚愕する村雨。
「シュートの切れが半端じゃない、大洋にいた平松さんクラスだな」
サードでコーチを務める仰木監督が感心する。
もちろん、平松さんというのはあの「カミソリシュート」の平松さんである。
この相沢の前に青波打線は沈黙。結局、ビッグバン打線が爆発した日ハムとは対照的に変わった黒木からアリアスが本塁打を一本打つのがやっとのオリックスの負け。
西武ドームではともに2番手で登板している氷坂とあおいの女性投手同士の投げあいが始まっていた。
「8回になるのに無得点同士なんて、よりによってまた箕輪くんがバッターだし」
そう、箕輪は登板予定が無ければ代打か外野手として試合に出場していた。
これが3年後のアテネ五輪では普通の光景になることが箕輪を始め誰も予想できるはずもなかった。
「よ〜し、箕輪!一発かましてこいやー!」
ベンチから乗り出して檄を飛ばす乾。
「あんたは黙ってて!」
マウンド上で怒鳴る氷坂。いまだに和解していないらしい。
「お〜怖っ、それじゃ俺は怒られんようにブルペンに行ってますかな」
そういってそそくさとベンチ裏へ引っ込む乾。マウンド上では氷坂が箕輪と向き合う。
のほほんとした表情で打席に入る箕輪。トレードマークになりつつある赤いバッティンググローブとリストバンドがやけに目立つ。
「この前の私との対決や星空選手からのホームランが偶然ってことを教えてあげる!」
「そうだね、あれは上出来すぎたかも知れない。でもね!」
箕輪の表情が真剣になる。バットを回して構えに入った。
『今シーズンで一番の異色の対決かも知れません。女性投手対二刀流投手の勝負です!』
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