8回の表。
『本城、センターへ綺麗に返しました。今日3本目、猛打賞です!』
ワンアウトランナー1塁。現在小坂と熾烈な盗塁王争いを演じている本城にとっては絶好のチャンスである。
「タイム!」
小坂が塁審に声を掛け、タイムをとる。
「箕輪、ここは初球から勝負だ」
「え?」
「本城は必ず初球から走ってくる。ヤツの足をつぶすには先制で手を打つしかない」
少し間を置く箕輪だが、すぐに返事をした。
「はい。やってみます」
「頼むぞ」
タイムも解け、定位置に戻って行く小坂。
(なるほど、敬遠やボークを使わずに自分の手でタイトルを獲得しに行くのか。さすが小坂さんだな)
箕輪が一通り感心したその初球。
『柴原、初球をはじき返した!ボールは箕輪を直撃・・・いや、箕輪が弾いた!ボールはまだ生きているぞ!』
打球がセカンドキャンパス上へ飛んでいく。そこへ既に廻っていた小坂が滑り込む。
『小坂ダイビングキャッチ!捕ったアウトだ!本城は飛び出している!』
小坂はすぐさま起き上がり、本城を見て口元を緩めすぐさまファーストへ送球した。
「アウト!」
ゲッツーで一気にチャンスをつぶしたホークス。この後、井口も外野フライで倒れチェンジとなる。
8回の裏
〈ゴー!ゴー!大塚明!〉
ロッテ側のスタンドが盛り上がる。この回トップの大塚が粘った末、レフト前へのヒットで出塁。続く清水が進塁打を放ってワンアウトランナー1塁となった。
そしてバッターは一番の小坂へ回るはずだったのだが・・・
『一番。ピッチャー、箕輪。背番号14』
レフトスタンドがどよめき、ライトスタンドが歓声を上げる。そう、“DH破棄”での箕輪の打席だ。
山本監督はオールスター前に見た箕輪の打撃を見てそのまま打席に送った。箕輪が打席に立つことで自動的にDHのボーリックはベンチに引っ込むことになる。
(実際に2001年9月29日の千葉ロッテ対大阪近鉄戦で、大阪近鉄がパウエルをDH破棄でそのまま打席に立たせた。昨年の代打松坂とは条件が少々違う)
〈みの〜わヒット!みの〜わヒット!みの〜わヒット!〉
ロッテ特有の応援が始まり、スタンドではにわかに白いタオルが舞っている。
箕輪はオールスター後から常備している赤いバッティンググローブをはめ、専用の黒バットを担いでベンチから出てきた。やる気満々である。
「なあ、アイツいつからあんなモン準備しとったん?」
「さ、さぁ?」
ブルペンから戻った乾と渚が話している。
「なんか箕輪って新庄選手のファンだったらしいですよ。背番号も5を希望したとか・・・」
日向が会話に加わった。
「なるほど、それで“赤いバッティンググローブ”ね・・・でも、今つけてると阪神の赤星さんみたいだな」
ベンチからのそんなツッコミなど聞こえるはずも無い打席では箕輪が真剣な表情で大地と向き合っている。
(ここで結果が出せるようなら二刀流も考えるか・・・投手だけでやっていてもいいけど、パリーグだと打席も回ってこないし・・・それ以上に打撃が好きだから俺は打ってみせる!)
(くそっ!いくら打撃が良くても投手だろう。確かにオールスターでの代打逆転タイムリーツーベースは凄かった。しかし、俺は絶対に抑えてみせる。猪狩進に勝つまでは負けることが出来ないんだ!)
東京ドームでは一足早く試合が終わった日本ハムファイターズの選手がロッカールームでテレビを見ている。
「はぁ〜、とりあえず今日も勝って3連勝。あとはダイエーが負けてくれれば単独首位っと」
一応は普通にしゃべっているが、どことなく関西訛りが残っている波川。
「それにしてもまた箕輪が打席立つなんてなぁ。星空も相当キとるんとちゃうか・・・・・ん!?」
波川がぼやいた瞬間。
「なに!」
「ホンマか!?」
「うそ!」
球場内の全ての驚きを乗せた打球は高々と大空に吸い込まれ、歓喜の応援団が待つライトスタンドへと入った。
『入った〜!まさかまさかの逆転ツーランホームラン!投手の箕輪がやってくれました!』
小躍りしながらダイヤモンドを周る箕輪。そして、ホームベース上にはサヨナラでもないのに乾が待っていた。
「よ〜やったで箕輪!対したヤツやホンマに打撃のセンスあるなぁ!」
ヘルメットの上から何回も叩く乾。
「これで渚さんの負けはなくなりました。後は・・・」
「おう、ワイに任せや!」
ロッテはこの後小阪がヒットで出塁、今期48個目の盗塁を決めるも後続が続かず、箕輪のホームランでの2点だけとなった。
しかし、予告通り乾がダイエー打線を完璧に封じ込め、ロッテが勝利したのである。
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