「プレイ!」
審判のコールがかかるやいなや快調に飛ばす大地。しかし・・・。
『本西、詰まりながらも振りぬきポテンヒットだぁ〜!ツーアウトながら同点のランナーが出ました』
俄然沸くレフトスタンド。しかし、マウンド上の大地は涼しい顔だ。
「ふぅ。やっぱりまだ力不足は否めないか・・・だが」
マスクをはずし汗を拭う城島。しかし表情には余裕があった。
「ここからがアイツの真骨頂だ」
プレイが再開してすぐに大地の才能が発揮されることになる。
「ええ!?神童さんの牽制技術の向上!?」
大声で言ってからはっと声をつぐむ遥。
「ええ、神童さんってクイックは上手いんですけど、牽制がイマイチぎこちないって」
「はぁ〜、そうなんだ〜。どう見ても上手いと思うんだけどなぁ」
「あの人は常に上を目指しますからね」
感嘆の声を上げる遥。
「それに、仰木監督が辞める前にどうしてもって言ってたしなぁ」
「え?なにか言いました?」
「い、いえ!」
仰木監督の辞任の話しはまだチーム内だけでの機密事項であり、外に漏らすことではなかった。
『リードを取る本西だが、最小限のリードしか取れていない。星空の牽制が本西の足をベースに固定している!』
(投球術はまだ甘い部分もあるが、牽制とクイックはリーグでもトップクラスだからな、簡単にはいかないか)
バッターは8番の清水。既に追い込まれてはいるものの、かろうじて粘っていた。
(これで決める)
(はい)
大地がモーションに入り、球が放たれる。
(外角球?甘いストレートか?)
清水がバットを振りにいくが、球はそのままバットをかすめることなく城島のミットに納まった。
「ストライク!バッターアウッ!」
スタンドが沸く、大地の牽制術に捕まった本西。城島のリードにやられた清水。ダイエーに1点を先制されたまま試合は終盤戦に突入しようとしていた。
「お兄ちゃん凄い!」
「やっぱり星空さんの牽制は凄いですね」
イニングインタバルになり、ベンチへ引き返してくる大地。しかし、ベンチ上で遥と一緒にいる進を見つけるなりいきなり声を掛けた。
「久し振りだね、進くん。今度当たるときは絶対に抑えて見せるから」
「ええ、僕も全力で戦わせてもらいます」
そう、大地は前半戦最後のオリックス戦で村雨にツーベースを食らった後、動揺を残したまま進と対決し、サヨナラタイムリーを放たれていたのだった。
「だけど、その前にロッテに勝って単独首位だ・・・」
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