シュッ・・・・パシッ 「うーん、変化球と制球力は問題ないが速球がなぁ」 監督もコーチも皆一様に腕を組んで考え込んでいる 「なんや自分、オーバースローなのに140キロも出んのか?」 室内練習場の入り口から声が聞こえた。 「なんだ、乾か。お前走り込みは?」 「そんなん2キロ走ってやめましたわ。どや、箕輪、ワイの速球見せたろか?」 「2キロって、お前なぁ、この寒いのに2キロだけ走っても走り込みとは言わないだろう」 突っ込むコーチを制して監督が乾にボールを渡した。 「おっ、さすが監督。話しが分かる!ほな、見とれよ箕輪・・・・?」 投球フォームに入ろうとした乾をいぶかしげに箕輪が見やう。 「あの、乾さんって背番号22番ですよね?」 「せやけど、それがどないした?」 思いついたようにぽんっと手を叩いた。 「あっ、そうか!乾さんがあの有名な一発ストッパーの乾雅人なんですね・・・え?」 みしっ! 「ぐはぁ!な、なにするんですか!」 「うっさいわボケ!さっきのメガネみたいな事言いよって!」 そんなやり取りをしている二人の間に監督が入って来た。 「あの〜、そろそろ始めてもらえないかなぁ」 「あ、スンマセン。はな、藤川ハンいきまっせ」 藤川と呼ばれた捕手がマスクを被り、ミットを構えた。 綺麗な投球フォームからボールが放られる。 シュッ・・・・バシィ! スピードガンが147キロを指す。横でそれを見ていた箕輪が唖然とした。 「す、凄い!左利きのアンダースローなのに147キロなんて・・・」 「ま、こんなもんやろ。まだキャンプ中やさかいセーブして投げんとな、シーズン中なら152キロは出るやろ」 「ウチのチームでの最速は、一軍にいる渚だろう。156キロだから現役では松坂と並んで日本最速だな」 「えっ?渚さんって乾さんと同じで左のアンダーですよね?」 「せや、球速と共に球にノビがあるから体感だともっと速いやろ」 えらく感心した様子の乾と箕輪の間に監督が入ってきた 「とにかく、140キロは出ないと話しにならん。速球があってこそ変化球が活かされるものだ」 監督がそう言うと周りが皆黙り込んでしまった。そこへ・・・・ 「監督!オレに任せてください!」 「剣見川コーチか、何か方法があるのか?」 「おう!オレにやらせてくれれば、4月の後半までになんとかしますよ!」 「・・・なんか心配だが、よし!任せよう」 監督が言うが早いか、剣見川コーチは箕輪の腕を引っ張って室内練習場から出て行った。 「だ、大丈夫なんか?アイツ」 「多分大丈夫だと思うが・・・」 乾と監督がそんな話しをしていると外から二人の声が聞こえてきた 『オッシャ!まずはグラウンド200週!』 『えぇ!200週!?そんなに走ったら死んじゃいますよ!』 『バカヤロー!ピッチャーはまず足腰ができてないと話しにならん、さっさと走れ!』 『うひぃ〜!』 室内練習場に残った三人が不安そうな顔になる。 「乾さん。箕輪くん、一軍上がる前に選手生命終わったりしないよね?」 「わからん」
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