『さあ、試合が始まりました。両チームにとって負けれらない天王山とでも言うべきでしょうか。ダイエーは単独首位を狙って、ロッテは首位とのゲーム差を1ゲームへと縮めるために全力を尽くした戦いになるでしょう』
ロッテの先発は中5日登板の渚、ダイエーは若田部の主力対決となった。
1回の表、千葉ロッテマリーンズの攻撃。
「由伸、今日の若田部さんは調子がいい長打なんて狙わずにコツコツ当てていけ」
「はい、出塁したら後は任せますよ、鈴原さん」
「ああ」
やや一本足に近いフォームで構える日向。マウンド上の若田部が振りかぶる。
『ストライク!内角をえぐるスライダーで初球から勝負していきます若田部。日向も見送るしかなかったのでしょうか』
やや構えをスタンダードに戻しながら構え直すグリップも短めに持っている。
(素直に当てていくのか?本当に)
少々探りを入れながらカーブのサインを出す城島。
ボールが若田部の手から離れ、日向の前で緩く落ちる。
「!」
『叩きつけた!日向、カーブを上手く叩きつけました!ボールは高く弾んで、小久保のグラブへ収まりましたが投げられない!ノーアウトのランナーが出ました』
「カーブ待ちだったのか?上手くやられた」
城島が悔しそうな表情を一瞬見せるがすぐに元に戻る。
『2番、セカンド鈴原。背番号32』
ロッテベンチから2球目にエンドランのサインが出る。
若田部が執拗に日向を牽制する。だが、日向はまったく走るそぶりを見せない。
『若田部振りかぶって・・・日向走った!鈴原もスイングをする、エンドランだ!』
「させるか!」
若田部と城島が同時に叫ぶ、140キロのストレートが立ち上がった城島のミットに納まる。そして、間髪入れずにセカンドへ送球する。ボールは鳥越のグラブに吸い込まれていった。
「アウト!」
『唖然とする日向と鈴原、そしてベンチの山本監督。よく見破りました城島、若田部バッテリー!』
「がぁ〜!なにやっとんや日向と鈴原ハンは!」
「いや、アレは城島さんが凄いんですよ」
「んなことは分かっとる!せやけどなんか腹たつわ!」
「流れがダイエーに行かなければいいがな」
「あ、藤田さん」
「乾。まだ1回の表だ、大丈夫だよ」
「そうですか?なんか嫌な予感するんですけど・・・」
そして、悪いことに乾の予想は当たってしまうことになった。
『試合も中盤の6回の裏。依然0対0ですが、ダイエーは2アウトながら内野安打で出塁の本城とヒットで出塁のバルデス、井口が塁上にいます。ここで迎えるはチームの満塁男、城島健二!マウンド上の渚は落ち着かない様子です!』
城島は軽く素振りをし、バットに手をやる。
チャンスに湧くグラウンドの音もあまり聞こえないブルペンでは・・・
「おい、箕輪。そろそろ出番かも知れへんで」
「え、でもまだ渚さん行けるんじゃ・・・」
「無理やな、城島さんに打たれてみい、即効で交代や」
「かもな、藤川さんラスト5球全力で行きます」
藤田がブルペンキャッチャーの藤川に言う。
「久我原さん、俺もラスト5球で」
箕輪も藤田同様に仕上げに入った。
マウンドの渚は悪い癖の「短気」が顔を出していた。
(くそっ、本城さんの内野安打で調子が狂った。バルデスと井口さんのヒットも塁上の本城さんが気になってのことだ!)
「タ、タイム!」
渚の様子をみてすかさず清水がタイムをかけ、マウンドへ走る。
「おい渚、大丈夫か?」
「え?ああ、大丈夫ですよ」
「その割には顔が引きつってるぞ」
「大丈夫です。さ、清水さんも戻ってください。変な“間“はリズムが崩れますから・・・」
「ああ」
半ば強制的にマウンドから追い出された清水。
「本当に大丈夫かね?」
独り言を呟くと同時にプレイのコールが掛かった。
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