オールスターも明け、そろそろ優勝争いに加われるチームが絞られてくる8月。
有明で行われていた某イベントも終わり、秋がすぐそこまで来ている。
「箕輪く〜ん一緒にランニングするですの♪」
「はぁ?」
「箕輪、矢部のやつおかしなったんとちゃうか?」
「おかしいのは元からかも知れませんけど、今回も何かに毒されたんでしょう」
「そっか・・・うっし、走りに行くか」
乾と箕輪(+おまけ)が走りに行こうとするとあおいが声を掛けてきた。
「ねぇ、さっきからダイエーベンチが賑やかじゃない?」
「せやな、ダイエーもファンにケンカ売られとるんとちゃうか?」
乾がハッハッハと笑う。
「乾さんじゃないんだからそれはないと思うでやんす」
「自分にツッコミ入れられると腹たつなぁ」
そういいながら4人はダイエーベンチを尻目にランニングを始めた。
「兄さん!今日勝てば単独首位になるのよ!あ、でも日本ハムが負けると単独首位になるわけだから・・・やっぱり勝っちゃダメ!勝ったら夕飯ナシね」
「ははっ、元気のいい妹だな大地」
小久保が笑いながら大地の肩を叩く。
「お前なぁ、ダイエーのベンチの上でそんな暴言吐けるの日本中探してもお前だけだぞ、遥・・・」
どうやらベンチの上にる女の子の名前は遥と言うらしい。
「俺ちょっとマサに挨拶してくる。」
「マサって誰よ?」
「千葉ロッテマリーンズの乾雅人投手」
そういうと大地は逃げるようにしてベンチから離れていった。
「あ、誰か来ましたよ」
あおいが大地を指差す。
「あ!大地さんじゃないか」
箕輪が嬉々としてベンチから出て行く。セットアッパーをやっている箕輪としては大地は尊敬する先輩である。
「ダイチサンって誰?」
ダイエーファンに聞かれたら殴られるどころじゃすまないことをさらっと言うあおい
「お前なぁ、ちったぁ選手の名前覚えや」
「福岡ダイエーホークスの背番号20、星空大地さん。高知の無名校からドラフト6位で入団。去年中継ぎで9勝を挙げてダイエー優勝を陰で支えた人。クイックモーションと牽制の上手さはウチの渚さんや中日の八重さんを凌ぐほどの技量だと思う」
箕輪が少し興奮気味に大地のことを紹介する。
「せやな、渚がおらんかったら間違いなく去年の新人王やったな」
「で、疲れてますけどどうしたんですか?」
「ああ、さっき妹の遥が来てな」
「ベンチの上におったん妹やったんか」
「今年実家に近い東京の白百合高校に入学したんだ。白百合は文武両道の進学校らしいんだが、あいつは根が明るく深く考えないもんだからよく球場に試合を見に来るんだよ。ったく、勉強もしないで」
「た、大変っすね」
大地の話しを聞きながら「ああ、アニキって大変そう」と少し同情してしまう箕輪とあおいだった。
「そういえば、勇希ちゃん元気か?」
「勇希って誰ですか?」
「俺の妹だよ」
「ええっ!乾さん妹いたんですか!?」
「まあな。今、高校3年やっとる」
そのあともいろいろと話していたが
「そろそろ俺もブルペン入らないとな」
「え、もう入るんですか?」
「ああ、キミと違って俺は常に投げられるようにしておかないといけないんだ」
「こいつはスクランブルもあるからな、俺やお前みたいにブルペンで遊んでおれんのや」
「じゃ、もう行くな」
そう言って大地はダイエーベンチへ引っ込んでいった。
さっきの話題に上った遥という少女がこの世界に足を踏み入れるのはまだ先のことである。
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