3番の大村は、まだ動揺を残す氷坂からレフト前ヒットを放ち、ワンアウトランナー一塁となった。
『4番、サード、鈴原。背番号32』
『ケガで交代した初芝に代わって4番に入っている鈴原ですが、前の打席は三振。さて、今度はどうでしょう』
鈴原は2軍でも下位打線しか打ったことがなく、打率も.221と打撃に関しては少々問題があった。しかし、彼の特技は打球を飛ばすことではなく粘りに粘って意地でも出塁するところにあった。
『ファールです。これで7連続ファール。鈴原フルカウントから粘って、次で13球目』
(さすがにいいカーブをもっているな、2軍の選手とは比べ物にならない)
氷坂のカーブに素直に感心している鈴原。しかし、当の氷坂本人は面白くないことこの上ない。マウンド上でロージンに八つ当たりするようにいじる。
一方、西武ベンチではベテランの橋本が感心しながら鈴原のバッティングを見ていた。
「ほ〜、若いのになかなか渋いバッティングするじゃないか」
「そうですね、現役時代の新井さん(元近鉄)を思い出しますね」
橋本と輝星がベテラン同士盛り上がる。無論輝星は西武の黄金時代から既にプロ選手である。
結局、鈴原は粘ってファーボールで出塁。ランナー1、2塁となった。
『さぁ、氷坂ピンチです。そして、ここで向えるはボーリック・・・おっと、東尾監督が出てきました。投手交代でしょうか?』
「氷坂も交代か・・・。で、誰やろなぁ」
乾がベンチで腕を組みながら呟く。乾の中では橋本でも出てくるかと思ったが、橋本は試合が始まってから一度もブルペンに行った様子がない。
暫くすると、場内アナウンスが流れた。
『ライオンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー氷坂に代わって松坂。背番号18』
「なんや、松坂さんちの大輔くんか・・・!松坂ハンやて!?」
そう、東尾監督は不調の松坂をリリーフとして登板させてきたのである。
『現在、負けが先行している松坂がリリーフです。そして、7回を2失点、8奪三振の力投を見せていた氷坂をさげます』
このまま西武が負ければ氷坂が負け投手。しかし、逆転でもしようものなら松坂が勝ち投手になる可能性もあるのだ。しかし・・・
『三振!松坂、ボーリックを三振に打ち取りました。ん?再び東尾監督がマウンドへ向かいます。ケガでしょうか?』
しかし、実況の予想ははずれることになる。
『ライオンズ、選手の交代です。松坂に代わってデニー、背番号36』
デニーがコールされる。そして、ベンチから橋本の姿が消えていた。
|
|