6回裏。
『乾もそろそろ交代でしょう。次に出てくるのは誰でしょうか?現在ブルペンにいるのは、藤田、箕輪、あおい、吉田です』
実況がそんなことを言っているとブルペンの直通電話が鳴った。
「藤田と箕輪、監督が呼んでるぞ」
「え?二人ですか?」
「多分ワンポイントリリーフとかじゃないのか?」
「はあ」
いまいち納得し切れていない箕輪を連れて藤田がブルペンから出る。
『千葉ロッテマリーンズ選手の交代です。ピッチャー乾に代わって藤田、背番号12』
マウンドへ上がり、乾からボールを受け取る藤田。
「藤田ハン。後は頼んます」
「おう、自分の仕事はキッチリこなすから大丈夫だって。ご苦労さん乾」
藤田は、乾に宣言した通り西武打線を絶った。
一方、ベンチでは・・・
「あの〜、自分は何をすればいいのでしょう?」
「おお、はいよ」
そう言って諸積から渡されたのはバットだった。
「箕輪、お前7回トップで酒井の代打だ」
「へ?」
するとウグイス嬢の声で交代を告げるアナウンスが入った。
『千葉ロッテマリーンズ、選手の交代です。酒井に代わりまして、バッター箕輪。背番号14』
球場がどよめく。しかし、一部のファンが歓喜の声をあげている。
「おい、箕輪が打席に立つぜ!神奈川県予選の横浜スタジアムでの場外ホームラン」
「ああ、プロに入るとは思っていたけど、まさか投手とは思わなかったからなぁ」
どうやら、高校時代はかなり凄いスラッガーだったらしい。
プロ初の打席に立った箕輪、そして最初の対戦相手が氷坂である。
「あのときのへッポコピッチャーね。プロの厳しさ教えてあげる」
お前が言うな、という気もしないでもないが、氷坂が第1球を投じる。
ガッシャン!
『み、箕輪打ちました。ファールですが真後ろへ飛ばすということはタイミングは完璧です』
一番驚いているのは氷坂である。
「な、なんで・・・。140キロ出てるのよ、それなのに意図も簡単に当てるなんて・・・」
「あ、当たった」
それに比べ箕輪はあっさりしていた。初球から当てたことに対してかなり気分が乗ってきたらしい。
「よし、もうちょっと長く持っても大丈夫そうだな」
そう言って箕輪はグリップを目いっぱい長く握った。
「な、舐められてる・・・これでもプロよ!一軍の選手なんだからぁ!」
氷坂が渾身の力を込めてボールを投じる。彼女の最高のボールであるカーブだ。
(ひ、氷坂さん!ノーサインでカーブ投げないでくださ〜い)
一文字はフォークのサインを出したはずなのにカーブが投じられてパニックに陥っている。
「行ける!」
一文字の目の前を凄まじいスイングスピードでバットが通過する。
カキィッ!
箕輪が放った打球は高々とレフトスタンドへ舞い上がる。そして、レフトには高木が待ち構えていた。
「そんな簡単にスタンドに叩き込まれてたまるかっての」
高木がフェンスに足を掛けジャンプする。
パシィ
『高木捕ったぁ!ジャンプ一番ファインプレーだぁ!』
苦笑いしながらベンチへ戻っていく箕輪。
「すいませ〜ん、駄目でした〜」
だが、ベンチは笑っていない。
「あ、あの〜。やっぱりチームバッティングを心掛けるべきでしたか?」
「い、いや・・・」
「ああ、投手のお前に打撃は期待していなかったが・・・」
「お前、打者の方が向いとるんとちゃう?」
「箕輪くん凄いでやんす!」
箕輪はこの後も代打として使われることを覚悟しなくてはならなかった。
そして、氷坂がこの一戦でとんでもない変化球を身につけるとは誰も知る由もなかった。
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