5回の表。
氷坂は堀、酒井と連続三振に仕留め簡単にツーアウトにしていた。
「さて、もう一点くらい欲しいよな、やっぱり」
小坂がそういいながら打席へ向かう。
『ツーアウトとなってここで9番小坂が打席に入ります。現在、井口と盗塁王争いを繰り広げている小阪ですが、出塁して盗塁を決めることが出来るのか?』
スタンドからは小坂のテーマ(応援歌)の「さんぽ」が流れてくる。
(氷坂さん、ここは全球カーブで行きます)
(了解)
一文字からのサインに頷く氷坂。そして、初球が氷坂の手から放たれる。ふわっと浮いてから急激に落ちる独特のカーブ。インコースに投げてもややアウトコース気味にまでスライドしていくそのカーブで小坂は簡単に追い込まれてしまった。
(くそっ、日向に繋ぐつもりだったのに追い込まれちまった。とにかく当てるだけでも・・・)
氷坂のカーブに小坂はバットを上手く合わせた。打球はサードの横をかすめ・・・
パシィッ!
『輝星捕ったぁ!横っ飛びで小坂の打球をノーバウンド捕球!』
「あったりまえじゃあ!こういうところで目立たないと忘れ去られちまう!」
聞こえないはずの実況に対して吠える輝星。それを唖然として見る小坂。
「しまった、サードは輝星さんじゃないか。捕られるのは解っているはずなのに」
5回の裏。
乾の球にもそろそろ疲労が見えてきた。
「フォアボール!」
「ちっ!」
この試合初めて四球のランナーを出した乾。ブルペンでは藤田と箕輪が準備している。
2番の小関は内野フライで倒れるものの、ここからかなり怖いクリンナップが始まる。
『カブレラ打った、センター前ヒット!ワンナウトランナー1・2塁です。次のバッターは輝星』
乾の投球数も次の球で60球となる。
「とにかく輝星ハンだけでも抑えんと」
清水からスクリューを要求され、それを投じる乾。だが、疲労で握力がなくなってきているためにボールが抜けてしまった。
(しまった、ボールが高い!)
(もらった!)
真ん中高めに飛んでくるスクリューを強振する輝星。
『打球は右中間へ!抜ければ確実に同点のランナーが還ります!』
打球を追う日向と春日。
「日向、俺のバックアップに回れ!」
「え!?俺の方が近いんじゃ・・・」
「お前は背走しながらボールを追っているだろう。それじゃまともに捕球できるかわからん」
打球は左中間のど真ん中に落ちようとしている。
「くそっ!」
春日は斜め前に横っ飛びをする。春日のグラブにボールが収まり、すぐさま立ち上がる春日。
「春日さん!ランナー飛び出してます!」
セカンドを指差し日向が春日に叫ぶ。
「解ってる!」
そう言い放ち、セカンドへ送球する春日。球はノーバウンドでセカンドの酒井のグラブに収まった。
『アウト!アウトだぁ!春日の好守と強肩でライオンズのチャンスを一瞬で絶ったぁ!』
完全にタイムリーになるはずだった打球を捕球され、輝星はバットを折ってベンチに帰った。
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