「バッターアウト!」
『乾、快調な滑り出しで2回表、早くもツーアウトです。そして、次のバッターは一文字大悟です』
その一文字もカウント2−2となり、5球目。
カシィ!
『一文字打ち上げた!打球はフラフラっとファールゾーンへ、初芝が追います』
乾は初芝が捕球するのは当然だと思い、マウンドから降りようとしていた。しかし、ボールは思ったよりもスライスしていた。
ガッシャン!
「ぐぁ!」
「!?」
『初芝、フェンスに直撃!立ち上がれません!ロッテベンチから担架が持ってこられます』
慌てて集まるロッテの野手陣。乾も向かう。
「ハツ、大丈夫か?おい、ハツ!」
「初芝さん!」
周りの人間が声を掛けても初芝はうめくだけで返事がない。
「初芝ハン!」
「乾、触るな!こりゃあ骨折かもしれん・・・・・よし、運んでいってくれ」
初芝が担架で運び出される。皆、心配そうな顔で見送っていたが、ここで大事なことに気が付いた。
「初芝の代わりに誰を出すかだな・・・」
「本西、諸積、石井・・・・・鈴原を使ってみるか」
「しかし、監督!鈴原はまだ守備しか評価できません!初芝の代わりになるとはとても」
だが、山本監督はベンチから出て審判に選手交代を伝えた。
『マリーンズ、ケガをした初芝に代わりまして、サード鈴原。背番号32。』
スタジアムがどよめく。当然だ。鈴原は今年3年目になるが、一軍経験がほとんどない。その上、本西などを差し置いて出てきたのだから。
「鈴原ハン、よろしく頼みますわ。2軍の時みたいにいきましょう」
「ああ、とりあえずやれるだけやってみるさ」
鈴原は凄かった。久し振りの一軍でも一級品の守備を見せつけ、ファンを沸かせた。一時は騒然とした西武ドームも、名も知れぬ内野手の意外な健闘にいつもの活気を取り戻していた。
「マサ」
「はい?」
乾と小林が同時に返事をする。知ってのとおり、二人ともチームメイトから「マサ」と呼ばれるため、このような事はしょっちゅうあった。
「あ、いや乾の方だ」
「なんですか?鈴原ハン」
「あのな、さっきから西武ベンチから凄い殺気を感じるんだが・・・」
乾がファーストダグアウトに目を向けると若干1名の投手がこっちに向かって睨みをきかせている。
「おおおぉぉぉ。なんやアイツ、まだワイに文句あるんか?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も今日の西武先発投手で、日本二人目の女性投手の氷坂唯。このまえ千葉マリンで会ってから何かとワイにいちゃもんつけてくる女ですわ」
「そ、そうか。聞いて悪かったな」
「いえ、気にせんといてください」
そう、今日の試合、4回を終わって2−0とロッテがリードしていた。内容は唯のカーブの制球が定まらないために小坂、日向に連続タイムリーを浴びてしまっての2失点。唯は何故か乾を目の敵にしており、打者に集中しきれていないらしい。
「なんかムカツクのよね、アイツ。似非大阪弁なんて喋っちゃって・・・あ〜もう!」
「氷坂さん〜。あんまり〜イライラ〜する〜と〜、また〜コントロールが〜定まり〜ませんよ〜」
「一文字くん!?」
後ろから声を掛けてきた一文字に驚き、唯はベンチから立ちあがる。
「そうだぞ、氷坂。どうせ乾は次の回で降板だろう。点を獲るのは俺達の仕事だからお前は来れ以上差を広げられないように踏ん張ってくれよ」
「松井さん・・・」
唯の気持ちも落ち着いた時、ツーアウトから大友の外野フライで4回の裏が終わった。
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