ズッパーン!
「乾、ナイスピッチだ!先発頑張れよ!」
「おおきに、久我原ハン」
乾はブルペンキャチャーの久我原と軽く投げ込みをしていた。
一方、あおいと箕輪はキャッチボールも終え暇そうに乾の投球練習を眺めていた。
「そういえばあおいちゃんの実家って広島だっけ?」
「うん、箕輪くんは?」
「俺は地元神奈川だよ、馬車道高校の出身。同じ高校の出身で有名な人は横浜ベイスターズの都筑さんとかかな」
「都筑さんってだれ?」
「今は、ほとんど2軍にいるけど、4年ぐらい前まで一軍で活躍してた大ベテラン選手だよ。確か今年でプロ18年目だったかなぁ」
「ふ〜ん。他の選手の出身とか知ってるの?」
「そうだな・・・」
箕輪はあおいの知っていそうな選手の出身高をいくつか上げてみた。
ちなみに春日は愛知県の出身で水塚高校。渚は北海道の祥桜高校の出身である。
箕輪とあおいが雑談していると乾の投球練習が終わったらしく、話しに加わってきた。
「ワイの出身校知っとるか?」
「確か、大阪府吹田工業高校でしたよね?広島の鬼門さんと同じハズじゃあ」
「せや、鬼門ハンとは高校時代に一緒にプレイしていた。あの人はワイの尊敬する人やったが、投手としてめっちゃ尊敬しとる選手が今、セ・リーグにおる」
そこまで言うと3人はブルペンを出てベンチに向かって歩き出した。
「その尊敬する投手って誰ですか?」
あおいが聞く。
「それはやな、3年前の夏の甲子園、決勝戦を完全試合で終わらせた最強のバッテリーがいたこと知っとるか?」
そう、あの最強と言われた猪狩兄弟を擁するあかつき大付属を完全試合で封じ込めた高校が存在した。そのころの猪狩兄弟はまだ力不足な面もあったが、それでもゴールデンコンビと言われていた。それを完璧に抑え切った高校。東京都代表、私立桜坂高等学校である。
あの巨人の正捕手、猿橋をキャプテンにヤクルトの左腕エース白川を擁した高校である。
白川は、カーブ以外の変化球は一通り投げる事ができ、決め球はフォークとスライダー。だが、彼の真骨頂は速球にあった。MAX155キロの快速球はセ・リーグで阪神の福原と争うほどの速球派投手である。今年のヤクルトが強いのは、この白川 博と石井 一久、藤井 秀悟、そして前田 浩継と言う鉄壁の先発陣のおかげだろう。そんな話しをしていると、ベンチの上から乾をよぶ声がした。
「久し振りだな乾くん」
「あ、白川さん」
乾が“さん”付けで人を呼ぶことなど滅多にないが、やはり乾にとって尊敬に値する人ならそれも仕方ないことかもしれない。
「今日、先発なんだろ?オールスター前だ、あんまり調子に乗ってケガしないようにな」
「どうもおおきに、白川さんと投げ合えるチャンスを自分で潰したりせんよーにきぃつけますわ」
その後、乾と少し話した白川は山本監督にも挨拶した後、自分の座席に戻って行った。
いよいよ試合開始10分前。両軍のスターティングメンバー紹介も終わった頃、山本監督からの話しがあった。
「あー、今日で前半戦が終わる。現在ウチのチームは2位にいるのは皆知っているだろうが、首位のホークスとはまだ2ゲームの差がある。今日の試合内容次第で後半戦への意気込みも変わってくるだろう。よって、気を抜かず、いつも以上に全力を尽くして欲しい。それと乾」
「あ、はい?」
「今日の試合。カブレラとの勝負をするもしないもお前と清水に任せる」
「了解です。恐らく勝負させてもらうと思いますがね」
乾が笑いながら言う。
「それと、箕輪。今日は先発に乾を起用したかからリリーフは・・・」
「自分ですか!?」
「いや、小林雅英に任せようと思う」
現在、小林は乾とダブルストッパーで活躍している。やはり、乾一人ではオーバーワークになってしまう。その結果、去年の終盤に5試合連続リリーフ失敗という記録を打ち立ててしまった。小林も乾もMAX152キロのスピードボールを誇る速球派だ。制球力も二人ともなかなかのモノを持っている。今、ロッテが首位を追撃できるのもこの二人のおかげと言っても過言ではないだろう。山本監督にとっては嬉しい誤算である。
「お前は3番手で登板させるかも知れん。先に早川の調子も見たいしな。予定では5回まで乾に頑張ってもらって。6回から1イニングだけ早川。だが、出来次第では2イニング行くかもしれん。いいな?」
「はい!」
あおいが返事をする。
「で、自分は・・・?」
「お前は試合の進み方次第では、代打をやってもらう」
「はい?」
チーム全員が声を揃えて聞き返す。
「王さんがオールスターで見たいそうだ。お前のバッティングをな」
「おい、箕輪。自分打撃の方はどうなんや?」
「ええ、一応高校の時は3番打ってましたけど・・・」
「で、成績は?」
「.453で公式戦ホームラン通算15本です」
「いい成績やんか!なんで今ピッチャーやっとるん!?」
「さぁ?」
箕輪が苦笑しながら答えたところで時間が来た。
前半戦最終試合の始まりである。
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