ここは、試合前の西武ドーム。現在5位にまで転落してしまった西武ライオンズの打撃練習中である。このチームで注目すべきはもちろんカブ様ことアレックス・カブレラ選手だ。今日は7月17日、オールスター前最後の試合である。しかしながらカブレラはすでに本塁打を36本も打っており、世界の本塁打王である王貞治の1シーズン記録の55本をも余裕で上回るハイペースで打ち続けている。
ここで一応、現在の本塁打順位を紹介しておく。
1位 カブレラ 36本 2位 中村紀 28本 3位 春日 27本 4位 小久保・輝星 25本
それ以降、松中、ローズ、マクレーン、パーシュレイ、一文字と続く。
今年のパ・リーグ本塁打争いはセ・リーグよりも遥かに熾烈で高レベルである。このまま行くと本塁打王は確実に50本・・・いや、3位までは45本以上打つのではないだろうか。
しかし、いくらカブレラや輝星が本塁打を量産しても自慢の投手陣の崩壊。期待の新人も今元気なのは佐藤友亮だけで、帆足などは現在2軍で調整中である。今の西武で信頼できる投手は西口や許、星野、氷坂くらいである。今日勝って4位の日本ハムとの差を縮めたいのだが、ロッテの予告先発はなんと乾であった。
「しかしなぁ、いくらここのところ大差で勝つことが多いからってワイを先発で使わんでも」
「そうですね、中継ぎで使えば十分調整になると思うんですけど・・・」
「しょうがないでしょ、黒木さんと渚さんは大事な試合で連投しっぱなしだし、ミンチーさんは勝率5割切っちゃったし、そこの背番号14番は死球でヘコむし・・・」
「あおいちゃん!?」
「なんや、自分いつ上がってきたんや?」
「昨日付で一軍復帰。もちろん例の変化球も投げられるようになってきたよ、まだ完全じゃないけどね」
あおいは不安定な投球で一軍と二軍を行ったり来たりしている渡邊俊介に代わって昇格してきたのだ。
「昨日付って今日で前半戦終了やぞ、22日からオールスターやし」
「だってしょうがないでしょ、監督が決めたんだから。それにこの中でオールスターになんて誰が出るの」
あおいはチーム内では小坂や黒木、渚しかでないと思っていたらしい。
「あのなぁ、自分新聞読んどるか?」
「読んでない。興味ないし」
無言でベンチの上にあったスポーツ新聞を手渡す乾。
「ファン投票の投手部門上位4名見てみぃ」
そのファン投票上位4名とは、黒木・渚・乾・箕輪だった。
「なんで、あんた達がでるの!?」
「ちょい待て、先輩をあんた呼ばわりするなや」
「まあまあ、二人とも抑えて」
今まで二軍にいたあおいは知らないかもしれないが、乾と箕輪も堂々オールスター出場者に含まれていた。現在ロッテのチーム防御率は2.75という凄い数字でリーグトップ、開幕直後の投手陣崩壊が嘘のような数字である。これも乾の復帰、伏兵だった箕輪と小林雅の活躍。そして中継ぎの充実によって余裕が出てきた黒木と渚の安定したピッチングのおかげだろう。
「とにかく、お前らはオールスター中休みや」
「矢部君はどうするの?」
「オイラでやんすか?オイラは秋葉原に入り浸りでやんす」
「聞いた俺が悪かったよ」
少々後悔した箕輪だった。
「おい、乾そろそろだぞ」
コーチから言われて乾はスコアボードの時計を見た。
「あ、はい、もうそんな時間か」
そういって乾は箕輪とあおいを連れてブルペンへと消えていった。
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