ゲームセット ロッテが一点リードで迎えた9回表。
『千葉ロッテマリーンズ選手の交代です。ピッチャー箕輪に代わりまして、乾、背番号22』
♪夢はここにあ〜るよ〜どんなときもすぐそばにあ〜るよ〜♪
「あれ、乾さんってテーマ曲ありましたっけ?」
マウンド上で乾にボールを手渡しながら箕輪が聞く。
「ん?ああ、ホンマは六甲颪にしたかったんやけど、球団からOKがでなかったからなぁ」
「さ、さすがに六甲颪は・・・」
苦笑しながら箕輪が言う。
「で、この曲は?」
「オイラにまかせるでやんす!」
いつのまにかレフトからマウンドまで上がってきていた矢部が話しに割って入る。
「これはでやんすね、TVアニメのエンジェリック・レイヤー・・・」
みしっ!
乾の回し蹴りが矢部にクリーンヒットする。
「この曲なんは作者の趣味や。箕輪、このメガネレフトまで連れてけ」
「は、はぁ」
困りながらも箕輪は矢部をレフトへ引きずって行った。
投球練習も終り、最初のバッター吉岡を迎える。
初球内角低目のストレートを早打ちしてファール。続く2球目は低目ギリギリを通るカーブ、吉岡はこれを見逃してツーストライクと追い込まれた。乾は3球勝負で吉岡に挑んできた。3球目、真ん中よりに130キロ台のゆるい球、吉岡はすかさずスイングするがボールがバットにミートする直前で鋭く沈んだ。乾の得意球種であるスクリューボールだ。これで吉岡はあえなく三振、ワンアウト。次の新里もセカンドフライでツーアウト。そして迎える打者は前の打席に箕輪へのピッチャーライナーを放った茂木(兄)の番である。乾の初球いつもの病気でストレートがど真ん中に入ってしまう。
キン!
『打ったー!茂木、土壇場ツーアウトからツーベース!逆転へ夢を繋げます』
盛り上がるスタンドを尻目に茂木と乾は互いに驚いていた。
(なんやアイツ、すっぽ抜けとは言え150出てるワイの球をフェンスにぶつけよった)
(凄い!完璧に捉えたハズなのに打球が上がり切らなかった。なんて重い球質なんだ)
しかし、中継からボールを受け取ると乾は軽く笑いながらベンチに手を上げる。“大丈夫“のサインだ。
「まぁ、ええ。あと一人や、さっさと片付けるとするか」
その言葉通り乾は9番の武藤をサードゴロに仕留めゲームセットにした。
そして、ヒーローインタビュー。
「今日のヒーローは、初のロングリリーフ、そしてプロ発勝利を挙げた箕輪投手です!」
「ありがとうございます!」
帽子を高く掲げ嬉しそうにファンへ挨拶する箕輪。彼にとって一生忘れられないことになるだろう。
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