『ロッテ小坂はアウトになったものの矢部が送りバントを成功させツーアウトながらランナー三塁です』
『3番、ライト春日』
現在得点圏打率リーグトップの春日。打点も40を越えている。もちろんファンの期待も高まりスタンドのテンションが更に上がる。
「ところで・・・」
大村が後藤へ向きながら聞く。
「あの不真面目コンビは何やってるんだ?」
「さぁ?いつものことですから、気にしないようにしましょう」
不真面目コンビとはもちろん乾と箕輪のことである。いつもギリギリまでブルペンに入らない。入っても他の球場の中継を見ている。客に絡む(乾のみ)等の行為をしているからだ。これで二軍に落とされないのは、実力が伴っているからである。
箕輪は勝ち負けセーブこそないが、ホールド・リリーフポイントはリーグトップ7位、防御率も2.79と良好な数字を残している。乾も2勝2敗12セーブとかなり優秀で、セーブ数はペドラザ、具を抜いてリーグトップである。ちなみに2敗というのは、サヨナラ弾を食らった結果。
話しが逸れたが、二人は今間違いなくロッテに必要な人物なのだ。
「あ、帰ってきた」
氷坂と言い争っていた乾が箕輪を連れて帰ってきた。
「あ〜、ムカツク女や!箕輪、お前次のイニングで145キロだせ」
「無理です」
即答する箕輪。当たり前だ、つい1ヶ月ほど前に140キロを越えることが出来た人間にそれは無理な注文である。
「とにかく、点取られるなよ」
「はぁ・・・」
その時、スタンドが一層盛り上がる。春日がフェンスダイレクトのタイムリーツーベースを放ったのだ。
『春日、タイムリーツーベース!ロッテ一点先制しました』
春日のタイムリーで波に乗るかと思われたが、今日4番を打っているメイは内野フライに終りチェンジとなった。
「ストライーク、バッターアウト!」
テンポ良くツーアウトまできた箕輪。ここでネクストバッターの吉岡に代打が出された。
『大阪近鉄バファローズ、選手の交代をお知らせします。バッター吉岡に変わって茂木、背番号23』
『バファローズ、早くも代打を出してきました。代打は今年のドラフト2位の茂木椛です。昨年の夏の選抜でベスト4になった岡山県出身の選手で、双子の弟である茂木楓もおなじくバファローズに所属し、投手をやっております。』
ロージンを付け茂木が打席の横で素振りをする。マウンド上では箕輪が落ちつかない様子でロージンバッグをいじっている。
「箕輪、久し振りだな。まさかお前までプロになるとは思わなかったけどな」
茂木が箕輪に声をかける。その発言にムッとした箕輪も反撃に出る。
「確かに高校の時はお前の方が実力は上だった。でも、今はどうだ?俺はロッテの中継陣の一員。一方のお前は一軍にいても代打暮らしか?」
「う、うるさい!うちはベテランの三田村さんがいるから捕手の選手層が厚いんだよ!」
「言い訳だな」
箕輪の目がマジになる。
「プレイ!」
箕輪の1球目。サイドからのスローカーブで外角をかすめてワンストライク。続く2球目は同じサイドから132キロのストレート。これを茂木は強振するが力んだため3塁側スタンドへボールが飛んでいきファール。3球目は低目に外れ、カウント2−1。
「どうした?打てないのか?去年の夏は俺からサヨナラ弾放ったのに」
茂木がバットを握り直し、構えた。バットを真横にする独特の構え方である。
箕輪の4球目、オーバースローから投じられたスライダー。変化こそ少ないが、打者の手前で鋭く曲がるキレのいいものである。そのスライダーを打ち返す茂木。茂木の一文字打法はバックスイングが極端に少ない為、キレの良い変化球でも十分間に合う。
『茂木打ったぁ〜!しかし打球はピッチャー真正面!ピッチャーライナーだぁ!』
飛んできた打球を難なくさばく箕輪。スリーアウトチェンジである。ベンチに戻ろうとする箕輪に茂木が声を掛ける。
「箕輪、なんでお前打者やってないんだ?高校の時は3番打ってたのに」
「打者やってたらお前と対戦できないだろ」
それを聞いて茂木は微かに笑みを浮かべた。
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