スパーン!
「う〜ん、やっぱりイマイチでやんすねぇ」
矢部くんがぼやく。
ここは千葉県の浦和。ロッテの2軍の試合を行う浦和球場である。
おととい2軍に落とされたあおいの変化球を強化しようということで現在練習に励んでいるのである。
昨晩のこと・・・
『ぼくには倒さなきゃいけない人がいるのにこんなところでつまずいて・・・』
『だったら練習すればいい』
箕輪が言う。
『そんなに簡単に言わないで!』
『でも、悩んでたって何にも解決しないじゃないか!』
そこまで言ったところで矢部くんが入ってきた。
『オイラに任せるでやんす。これ読んでおいて欲しいでやんす』
『こ、これは?』
・・・そして今に至る。
「だめだ、Hシンカーになんかならないよ」
「いいかんじにはなってきている気がするけど・・・」
するとグラウンドの端にあるフェンスのドアが開いた。
「おいおい、ホントにこいつらが今年の候補かぁ?」
「一人女の子じゃないか」
「武井田もいい加減だなぁ」
「それくらいにしておけ」
「へいへい」
口々に勝手なことを言う連中。
始めは何物だ?と思った箕輪だが入って来た人間の着ているものを見て息をのんだ。
「え・・・?プロ野球選手?」
そう、彼らはユニフォームを着ていたのである。それもプロ球団のものだった。不思議そうな顔をする箕輪を見て思い出したように一人が口を開いた。
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺は、猿橋敦也。巨人で捕手をやっている」
「俺は、渡島剛志。近鉄でセンターを守ってる」
「ワイは、広島でサードやっとる鬼門一郎っちゅーもんや」
「僕は、中日で投手をやっている八重英雄です」
「で、俺が日ハムのリリーフエース神威主浩だ」
見ている4人(箕輪・あおい・矢部・乾)が驚きで目を丸くする。
そう、彼らは日本プロ野球界の第一線で活躍する選手なのである。勿論「億プレイヤー」だ。
そんな5人に箕輪が恐る恐る聞く。
「あ、あのー。それでなんでみなさんここにいるんですか?」
「それはだな、今日はみんなこの近辺で試合があるからだよ」
あまりに拍子抜けする答えが返ってきた。
確かに巨人以外は、神宮でヤクルト対中日が、広島は横浜と、日ハムは今日東京ドームで西武戦が、そして近鉄は今日ロッテとの試合が控えている。
「はぁ・・・それだけなんですか?」
「いや、本題に入ることにしよう」
猿橋が口を開く。と、乾が割って入った。
「わかったで!もしかしてまた裏全日本野球大会やるつもりなんやろ!」
「お、さすが経験者。勘がいいな。当たりだ」
どうやら乾とそこにいる5人は知り合いらしい。
「あの〜、話しが見えないんですけど・・・」
箕輪を始め矢部、あおいも困っている。
「箕輪、よー思い出してみぃ。こいつらが指名された3年前のドラフトを」
乾に言われて3年前のドラフトを思い出す箕輪。
3年前のドラフトで、出身校などが全く不明(無所属)の選手がドラフト1位で5人指名されている。しかも、その5人は一年目から凄まじい成績を残し2年目にして億単位の年俸を貰うというスーパープレイヤーだ。
「そういえばこの人達ってみんな出身が不明・・・?」
「せや、正しくは不明やなくて空白の一年間が存在しとったワケや」
「でも、なぜなんです?」
あおいが聞く。その問いには乾ではなく渡島が答えた。
「3年前、俺達は冥球島という所で文字通り命を懸けて野球をやっていた。そしてその時の優勝は猿橋が率いていたチームだ」
「付け加えるなら猿橋以外のヤツはみんなするめ大学出身だ」
いくら鈍い箕輪でもするめ大の名前を聞いてハッとした。
「さ、サダメナイン!?」
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