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パワプロ 作者:mituki

第12回   対決
『さあ、大変な事になりました。昨年のドラフトでロッテの早川投手が日本初の女性プロ野球選手と思っていましたが、なんと西武にも女性選手がいたとは・・・』」

実況のコメントなど聞こえるはずもないマウンド上の氷坂が第1球を投じる。内角低目へ決まるカーブ。続けて2球目は真中低目へフォーク。これは、井口がカットしてファール。3球目のストレートは、釣り球で投げたので見送ってボール。カウントは2−1となった。

『テンポ良く追いこみました。マウンド上、氷坂。第4球を投げた!』

全身の体重を上手く乗せてボールを投げる。氷坂の手から離れたボールは吸い込まれるようにミットへ収まった。

「ストライーク!バッターアウッ!」

ブルペンのテレビの前で静まり帰る。ロッテの投手陣、当然である。

「ひゃ、144キロやと・・・しかもなんや、あの伸びは・・・」

「お、俺より2キロも速いいぃぃぃぃ」

氷坂の投げた4球目はいきなり144キロをマークしたのである。しかも、女性投手がだ。筆者の知っている限りでは、2〜3年前に近鉄の入団テストを受けた外国の女性投手がMAX140キロを投げている。

しかし、氷坂はそれを4キロも越えている。最近の甲子園出場投手も速球派が減ってきているのに氷坂は140キロをあっさり越えてしまった。

「しかし、そうそう140キロオーバーは投げられへんやろ」

乾が言う。実際のところ乾の言う通りで、氷坂は短いイニングしか投げられない。それに加え、あそこまで早い球を投げる事が出きるのはその中でもたった5球程度だ。しかし、彼女はそれを補って余りある制球力と変化球のキレを持っていた。

結局この回は、後続を連続三振に切って取りあとは味方の反撃を待つだけとなった。

しかし、西武はホークスに追いつくことが出来ないまま、最終回にぺドラザが登板しそのままゲームセットに終わった。


東京 9:24

『試合も大詰めになってきました。春日のソロで一点勝ち越したロッテですが、迎えた9回裏。ここまで気力で投げ込み続けていた黒木、ツーアウトまできましたがランナー1・2塁!そしてネクストバッターズサークルにはプロ2年目で、巨人の上原同様「雑草魂」の申し子、波川が待ち構えています!』

ブルペンから帰ってきたあおいが思い出したように肩を震わせる。

試合前の練習まで時間を戻すと・・・


『千葉ロッテマリーンズ、練習時間はあと10分です』

試合前のフリー打撃終了時間を知らせる場内アナウンスが球場に響く。

「あおいちゃん、監督からの伝言で、今日は黒木さんを完投させる予定だけどお前達も一応7回を回ったらブルペンに入っておけって」

「わかったよ、わざわざありがとう箕輪くん」

あおいが珍しく笑顔を見せる。ここ最近なにか悩んでいるように見えて心配だったが大丈夫そうだ、と箕輪が思った次の瞬間。

「おい、箕輪!」

一塁側ベンチから箕輪を呼ぶ声がした。

「げ!波川さん!」

露骨にいやな顔をする箕輪。初めて日ハム戦で箕輪がリリーフした時に波川から三振を奪って以来、実力をみとめられ彼のお気に入りにされてしまった。それからというもの、顔を合わす度に打撃練習につき合わせられる。両チームの監督もお客さんが喜ぶからと、敵チーム同士での打撃練習を特別止めようとしない。

「なんで逃げるんだ?おい」

「え、だってまた『フリーやるぞ』とか言ってくるんでしょ?」

「おっ、正解。わかってるじゃないか、はっはっは」

「はっはっは、じゃないですよ」

「ところで、なんでグラウンドに女の子がいるんだ?」

しまった!と箕輪が思ったがもう遅い、その言葉に反応したあおいが即座に反撃に出る。

「ぼくもプロの野球選手なんだ!だからここにいるんだよ!」

「寝ぼけたこと言うな!女の子が通用するほどプロは甘くねぇ!」

確かに最近成績が芳しくない事を気にしていたあおいは、気にしている事を波川に突かれた気がして普段以上に凄い勢いで言い返す。

「ぼくの球は、プロに通用する!だから一軍にいるんだ!それがいけないの!?」

「通用するわけねぇだろ!二軍にいるヤツらの方がよっぽど上に決まってる!それを証明するために、俺がお前の球なんかスタンドに叩き込んでやる!」

「言ったね、叩きこんでもらおうじゃないか!ぼくの球を!ぼくはキミを抑えてみせるから!」

「おもしろい!やってもらおうじゃないか!あ、でも試合に出られるかどうかも怪しいもんなぁ」

波川がとどめの一言を発する。いままで二人の勢いに押されオロオロしていた箕輪もそろそろまずいと思い、仲裁に入ってその場は一応収まった。


再び試合中

『追いこまれたロッテ、マウンドに選手、コーチが集まります・・・おっと、山本監督が出てきました。どうやら黒木は交代のようです』

山本監督が手を上げ審判を呼ぶ。その瞬間。

「ちょっと待ったー!!」

ネクストバッターズサークルにいる波川が、得意の大声を出して選手交代に待ったを掛ける。

「山本監督、次ぎに出す投手を俺に指名させてください!早川とかいったな、勝負だ!」

そう言ってバットでベンチにいるあおいを指す。

監督、選手、観客も最初は意味がわからなかったが次第に事の重大さを理解したのか、スタンドからは割れんばかりの歓声がこだまする。

「いいぞ〜!やってやれ〜山本監督〜!」

「波川〜!あおいちゃん舐めてかかると痛い目見るぞ!」

「女の子投手にプロの厳しさ教えてやれぇ〜!波川ぁ〜」

「あおいちゃ〜ん!コイツを抑えれば初セーブだぁ〜!」

最初はまばらに起こっていたファンの言い合いだがそのうちファン全体であおい・波川コールが起こった。

「あっおっい!あっおっい!」

「な〜みかわっ!な〜みかわっ!」

暫くその光景に唖然としていた選手たちだが、乾の一言でみんな我に返る。

「いったれ早川!あの小僧にお前の実力教えたれ!」

「小僧って、乾さんと歳同じじゃないですか・・・って聞いてない」

箕輪の突っ込みも虚しく流されるだけであった。

「監督!ぼくに行かせてください!絶対抑えます!」

「そうか・・・よし!お前に任せる。行ってこい!だが、失敗すれば・・・いいな」

(二軍降格ね。大丈夫、絶対抑えてみせる!)

数分の間があった後、ウグイス嬢の声が球場にこだます。さっきの盛り上がりからは想像も出来ないほどスタンドは静まり返っていた。

『千葉ロッテマリーンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー黒木に代わりまして、あおい。背番号01』

再び凄まじい歓声に包まれるスタンド。現時刻は、午後9時38分。

中には、放送しているニュースを中断し、この試合の中継を始めるテレビ局もあった。

(現実に99年、パ・リーグのペナントレースで松坂対黒木の初対決の時にNHKがニュースを中断し、プロ野球を生中継したという事実がある)

規定の投球練習を終え、バッターボックスに入る波川。

お互い睨み合うように相手を見る。すると、波川が口を開いた。

「もし、俺を抑えたらお前のことをを認めてやる。しかし、プロというからには手加減は一切しねぇ」

「ぼくも打たれたら素直に負けとキミの実力を認める。けど!ぼくの実力、甘く見ないでよ!」

歓声も収まり、静まり返った球場の真中に波川とあおいの二人がいる。

時刻は午後9時50分。

「プレイボール!」

審判の声がグラウンドに響き渡った

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Novel Editor by BS CGI Rental
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