東京・5月25日 PM3:56
「乾さ〜ん、そろそろ球場開門ですよ〜」
「アップしましょうよ」
箕輪とあおいが乾を呼ぶ。今日から東京ドームで日本ハムとの3連戦が始まる。
この連戦に勝ち越せば順位が大幅に変わってくるのだ。
復帰第一戦目となった先月の試合から約一ヶ月、箕輪も乾も着実に成績を残しチームの勝利に貢献していた。
ただ一人あおいを除いて・・・
「あ〜、ちょっと待て。この新聞におもろいことが乗っとるで」
乾に言われ新聞を覗きこむ箕輪とあおい。
「えーっと、【龍牙投手ついに一軍登録】かぁ」
「そう言えば、今日の先発って龍牙さんですよね?」
「確かウチって、去年この人に完全にカモにされてたよなぁ」
箕輪とあおいが龍牙投手の話題をし始める。すると乾が突っ込んで来た。
「ちゃう、そんなことはどーでもええ。ワイが言っとるんはこっちの記事や」
乾が新聞の隅にある記事指差す。
「なになに、【西武隠し球?】」
「あはっ♪氷坂 唯なんて男性か女性か分からない名前ですね」
「早川、お前が言うな」
すばやく突っ込む乾。確かに「あおい」なんて名前の人に言われたくないだろう。
「まぁええ、じゃあ練習行くか」
ロッカールームを出る三人。置いて行かれた新聞に踊る文字
「打率順位2位、波川」「キングを追う本塁打3位、金剛寺」
福岡・5月25日 PM6:49
福岡ドームでの西武対ダイエー戦はもう始まっていた。
3回の裏、ダイエーの攻撃。
『さぁ、両チーム無得点のまま試合が進みます。シーズンが始まってまだ2ヶ月目ですが、どの球団も激しいAクラス・・・いや、首位争いをしています』
現在の首位は、4月と変わらず日本ハム。続いて首位と1ゲーム差でダイエーと西武が、1.5ゲーム差でロッテが続いている。そして、オリックス・近鉄である。
『さぁ、出てきました。近鉄、日本ハムとリーグ最強を争うクリンナップ。飛距離では巨人も目ではないほどの長打力を持っています。今年のダイエー、3番ボブ・4番パーシュレイ・5番小久保と続きます。そして、快足バッターが多いこのチームでも1番の俊足を誇る本城がセカンドベース上にいます。これをどう切りぬけるのか松坂!』
松坂の足が上がる。そして・・・
カッキーン カッキーン カッキーン
『凄い!ボム、パーシュレイ、小久保のクリンナップ三連弾だぁ!松坂、一挙に4失点!』
いつもは、ホームランを打たれても苦笑いを浮かべるだけの松坂だが、今回はさすがに青ざめた。
この後、西武は5回に一文字のツーランで2点を返すがダイエーのストリンガーを攻略できずに、気付いた頃には7回を迎えていた。
東京・PM8:02
『タイムリーツーベース!この回やっと連打が出たロッテ。7回に堀のツーベースで春日、初芝がホームイン、2対2の同点です。そして、ツーアウトランナーはセカンドでチャンスは続きます』
レフトスタンドで白いタオルが舞う。ロッテの応援熱はセ・リーグの阪神並に熱い。
その頃・・・
いつも(?)のように、ブルペンで投球練習をしないで他のプロ野球の試合観戦をする箕輪と乾。
「かぁ〜、やっぱり巨人は強いなぁ〜。ワイがセ・リーグにおったら巨人とだけは勝負したないな」
「そうですね、また一発ストッパーって呼ばれますよ♪ところで西武戦どうなってます?」
「箕輪、また殴られたいようやな。・・・まぁええ、西武戦見るか」
乾がテレビのチャンネルを変える。
『おや、西武の東尾監督、投手交代のようです。デニーでしょうか』
ブルペンから小柄な一人の投手が出てくる。だが、帽子を目深に被っているので顔がわからない。
『デニーではないようです。さて、誰でしょう。実況席からだといまいち確認しづらいのですが・・・』
するとウグイス嬢の場内アナウンスが流れる。
『ライオンズ、選手の交代です。ピッチャー松坂に変わって氷坂、背番号72』
『なんと!東尾監督、新人の氷坂を使います。いままで全くその素性を見せなかった氷坂を登板させてきました』
氷坂が投球練習に入る。
「おっ、球速は140キロ程度やがキレと伸びはええなぁ。箕輪、自分もヤツのまっすぐ見習っとき」
「オーバースローで得意球は恐らくあのカーブでしょうね、変化球もキレがよさそうだし・・・」
「しかし、なんであんなええ選手が今まで二軍におったんや?背番号も72なんてデカイ数字付けとるし」
乾が腕を組みながら不思議そうにつぶやく。
「さぁ?っていうより背番号の件は空きがなかったんじゃないですか?」
「せやな、去年西武は00、6しかレギュラー番号空いてないしな、次に空いてる番号は60や」
「よ、よく知ってますね」
箕輪が引き気味に言う。すると、氷坂の投球練習が終わり、井口が打席に入る。氷坂も帽子を被り直すため頭から帽子を取る。
「なにっ!」
「そんなっ!」
乾と箕輪が驚く。テレビでは、帽子から氷坂の赤く長い髪がなびいた。
「お、女ぁ〜!?」
二人はそう叫びテレビに向かって走って行った。
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