8回の表、ファーボールでランナーを出しましたが後続を絶った神童。味方の逆転を待ちます』
8回の裏のマウンドへ箕輪が上がる。
「この回を無失点か・・・」
≪点を取られたら変則投法は禁止だ≫
監督に言われたことが気になる。しかし、審判の声が掛かるとそんなことはどうでもよくなっていた。
『さぁ、テンポ良くツーアウトまできた箕輪。対する谷も2−2と追い込んだ』
箕輪はこの回、一度も変則投法を使っていない。監督の言った事を気にしているのではなく、変則を使うことの意味をなんとなく理解してきたからなのだろう。
(ここ一番でのみ変則を使う)
そう箕輪自身が考えていた。そこへ清水からのサイン、スクリューだ。
『箕輪、第五球。これはサイドハンドからの変化球!』
サイドから投げ出されたスクリューは谷のバットから逃げる様に外角低目に決まった。
「スタライーク、バッターアウッ!」
審判の手が上がる。スリーアウトチェンジだ。
『箕輪、この回無失点。オリックスとロッテの点差は2点のままです』
箕輪がベンチへ戻る。監督が無言で頷く、よくやったと言う意味なのだろう。
『オリックス、どうやら選手交代のようです。小倉のようですが・・・小倉ですね、右の小倉を使うようです。神童は、8回でマウンドを降りました』
「小倉か・・・ヤツの武器は、サイドからのシンカーとシュート、そしてMAX148キロの速球だ」
春日が言う。それを聞いて箕輪が驚く。
「えっ!サイドなのにそんなに出るんですか?」
「あのなぁ、ウチの乾も、渚も左のアンダーで150キロを越えているんだ。右のサイドで148キロ出ても不思議じゃないだろう」
「あ、そうでした。でも、渚さんって人間ですよねぇ」
箕輪が苦笑しながら聞く。それを聞いた渚が
「じゃあなにか?怪しい博士にでも改造されたとか言いたいのか?」
「いえ、そんなわけじゃ・・・」
「改造されそうになったのは俺じゃなくて日向だな」
「そうそう、危なかったぜホントに。怪しい博士っぽい外人でよぉ、しきりにダイジョーブとか言ってくるの、それ以外の記憶がないんだけどな」
「えー、ホントに大丈夫なんですか?日向さんの体?」
ベンチが笑いの渦に包まれる。そんなことをしている間にロッテの攻撃もツーアウトになり、最後の打者である酒井をショートフライに打ち取りチェンジとなった。
『ロッテ選手の交代です。乾がマウンドへ上がります。昨年前半は絶好調でしたが、オールスター開け後の試合で5試合連続サヨナラHRを打たれるという不名誉な記録を打ち立てて以来、ウォーレンにストッパーを譲っていた乾がマウンドへ上がります。守護神復活となるのか!?』
投球練習を終えまで逆に被っていた帽子を被り直す。
乾の投球は守護神と呼ぶにふさわしい内容だった。球速、制球、変化球、どれをとっても去年の開幕直後のようなそんな感覚になる。
「ストラーイク!バッターアウッ!」
『連続三振!乾、オリックス打線を抑えこんでいます。去年のリリーフエースが帰って来ました!あと一人です。オリックス後がありません』
「残りは田口ハンや。この人は去年五輪にも出てる人や、こつこつ当ててくるけど気を付けんと一発をもらう時もある。」
慎重に攻める乾、田口も追い込まれてからはクサイ球をカットし続け、フルカウントとなった。
「ここまで粘られるとは思わんかった。しゃーない、箕輪やないけどワイも変則投法を使うか」
『マウンド上乾、これを最後とするのか?それとも田口、出塁して後に繋ぐ事が出切るのか・・・あっ!?』
乾がはじめた変則投法とはトルネードだった。腕を大きく上に上げて身体をひねる。バッターボックスから背番号の22が見えるほど上半身をひねったあと身体をすばやく深く沈める。トルネード投法からアンダースローへ移ったのだ。そして乾の腕から離されたボールはホップして真中高めに向かっていく。田口も懸命に当てようとするが、バットが虚しく空を切り三振してしまった。
『バッターアウト!試合終了です。乾、最後の球は自己最高の153キロをマークしました!ロッテ守護神完全復活です!』
ロッテはこの試合に勝ち、4位浮上したのであった。
この後勝ちが先攻しはじめ、3位まで上昇したロッテ。このまま連勝したいところだが、
日本ハムファイターズがそう簡単に勝たせてくれるチームでないことをこの時、気付いていた人間がこの中に何人いただろう。
時は進み5月25日 PM6:15
東京ドームでの日ハムとの三連戦の初戦・・・
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