『千葉ロッテマリーンズ、早川 あおい。投手、18歳、恋恋高校』 11月20日、ドラフト会議を行っている会場にどよめきが起こった。 当たり前だ、日本初の女性プロ野球選手が誕生したのだから。 当日、学校でロッテに指名されるのを待っていたオレでさえ驚いた。 オレの名前は「箕輪 貴弘」ドラフト5位でロッテに入団した左腕の投手だ。 高校最後の夏の地方大会で23奪三振を奪った時に、たまたまプロのスカウトに拾われた運でプロ選手になったような奴だ。 とりあえずプロにはなれたんだ、早く一軍昇格してレギュラーになるぞ!
1月某日 今日が、千葉ロッテマリーンズの新人入寮の日だ。 「そろそろ寮が見えてくる頃だな・・・」 そう言ったオレの前に見たことのある人影が現れた。 「う〜ん、重いでやんす。もっと荷物減らすべきだったでやんすかねぇ」 「お〜い矢部く〜ん!」 オレが声を掛けると矢部君は笑顔で振り返った。 「あ、箕輪君でやんすね、ちょうど良かったでやんす。手伝って欲しいでやんすよ」 「いいけど・・・!!」 そう言ってオレは言葉を失った。なぜなら、矢部君から受け取ったダンボールの重さが普通じゃないからだ。 「や、矢部君。この中に何が入ってるの!?」 「DVDソフト30本とゲームソフト50本、それにPS2とDCでやんす」 「・・・あ、そう」 オレはこのままだと矢部君のペースに飲まれそうなので話を打ち切った。だが、矢部君は間髪いれずに 「そう言えば新人の入寮の日っていうのは大抵ファンの女の子が待ってるはずでやんす」 「そ、そうなのじゃあ、オレ達もファンの子に囲まれて・・・・・♪」 「早速行くでやんす!」 オレと矢部君は駆け足で寮へと向かい寮へ行く最後の角を曲がった瞬間、矢部君が叫んだ。 「お待ちどうさまでやんす。サインが欲しい子は一列に並ぶでやんすよ・・・・・?」 「お〜い、矢部君。女の子いた・・・・」 オレは途端に矢部君に声をかけるのを止めた。なぜなら矢部君が真っ白になっていたからだ。 「や、矢部君?」 「な、なんでやんすか?今日は、女の子の定休日だったみたいでやんすよ」 「定休日って、スーパーじゃないんだから・・・・」 「とにかく!おいらは早く一軍に上がってウハウハな生活を送るでやんす!!」 矢部君はかなりムキになっていたようなので、オレはこれ以上言葉を続けるのをやめて早くこのクソ重いダンボール箱お下ろす為に寮へ急いだ。
『ドサッ!』
やっとのことでダンボール箱を床へ下ろし、一息ついていると館内放送で呼び出しがかかった。 『新入寮者は至急ロビーに集合!』 この声はさっき会ったここの寮長、「葛西 京葉(かさいきょうば)」さんの声だ。 「矢部君、集合だって。いこうよ・・・?」 そう言った瞬間、オレは今日2度目の絶句を体験した。さっきまで部屋の片付けをしていたはずの矢部君が、いつのまにかゲームを始めていたからだ。 「や、矢部君?集合だって・・・・行かないの?」 「もうチョット待つでやんす。もう少しでさおりちゃんとデートが・・・」 「じゃあ、先に行ってるよ。矢部君。」 「分かったでやんす」 言った通りオレは矢部君を置いてロビーへ向かうことにした。 タイミング的にバッチリだった。オレが到着したころに葛西さんの話が始まろうとしていたからだ。 「あ〜、私が寮長の葛西だ、我々ニ軍は、来週から長野で春季キャンプを行う。そのことを説明する前に、とりあえず今年入団した新人選手の名前を読み上げておく・・・・呼ばれたら返事をするように」 (おいおい、矢部君ヤバイって返事しないといないのばれちゃうよ〜) 「じゃあ、呼ぶぞ・・・蘇我、潮見、浦安、習志野・・・・・・早川」 「はい。」 オレの後ろから女の子の声がした。あの娘が「早川あおい」かぁ。 「次、木場、船橋、・・・・箕輪」 「あ、はい。」 オレも呼ばれたので返事をする、そしてついに恐れていた事が起こってしまった。 「最後に矢部・・・・・矢部いないのか?」 「ここにいるでやんす」 「うわ!」 いきなり横から声がするのでオレは思いきり声を上げてしまった。 「こら!箕輪うるさいぞ!」 「す、すいません」 周りの連中はみんな笑っている。いい恥さらしだよ、ホントに。 「まあ、とにかくこれで全員いるわけだな、じゃあキャンプについての話しをする」 このあとキャンプについてのガイダンスが30分ほどあってオレ達は解散となった。部屋への帰りにオレは矢部君に質問したい事があったので聞いてみた。 「矢部君、さっきいつの間にオレの横にいたの?」 「忍者マッタリくんの忍法は誰にも教えないでやんすよ」 「???マッタリくんってなに?」 「昔やってた忍者のマンガでやんす」 「・・・・・あ、そう」 そうして入寮1日目は過ぎていった。 春季キャンプまであと一週間・・・・
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