それから…数ヶ月の時が流れていった…僕にとっては…この時間が人生で一番人生の中で幸せというものを理解していた時だった。 毎日小浪君に寄り添い、周りの熱い冷やかしを受けながら僕達は幸せに暮らしていった。 女性選手出場のこともこの時間の間で認められていた。正式に高野連で可決されたことだった。 僕は…大好きな野球が堂々と出来た。 中には僕達のことを嘲笑うスポーツ新聞もあったけど、僕達は戦い続けた。みんなと一緒に。 そんなときだった… 高校3年生の夏予選1回戦終了時のことだった…
「…ストライーク!バッターアウト!!ゲームセット!!!」 「「「やったーー!!!」」」 『恋々高対あかつき大付属高校、3対2で恋々高校の勝ちです。』
誰がこの事態を察しただろうか?誰がこの奇跡を予想しただろうか? 僕達恋々高校野球部は同じく○県名校『あかつき大学附属高等学校』を3対2で倒し、見事2回戦へ出場を手にしたのだ。ほんとにこの時は小浪君に告白された時並に喜んだ! 小浪君は1回から8回までのイニングを投げきった後、キャッチャーとして僕をリードしてくれた。そのおかげで僕は安心して猪狩兄弟に向かって失点を許さないことが出来たんだ。 ゲームセットを告げられた瞬間、僕達は互いに互いを引き合わせるように向かっていき…抱き合った。互いにつぶれるほど抱き合った。 そこに矢部君を始めほかのみんなが喚起の叫びをあげながらこちらに向かってくる…応援席の恋々高校のみんなもだ。もう甲子園で優勝してしまったようにみんなで感動を分かち合った。 そのときだった。
「う…」
バタッ!
「えっ…」
抱き合っている小浪君の腕が力を失っていき、落ちていく…小浪君は四肢を投げ出すかのようにマウンドに沈んだ。 何が起きているのかみんな分からなかった…そう、目の前にいた僕でさえ…
「小浪君!しっかり!小浪君!!!」 「キャプテン、どうしたんスか!返事をしてくれよぉ!」 「キャーーー!」 「救急車でやんす!救急車を呼ぶでやんす!」
「…誠に申し訳ありませんが、後遺症で頭に動脈瘍ができていたようです。それを我慢していたんでしょう…いわゆるくも膜下出血です。もう助けようが…」 「そんな!小浪君は…死んじゃうの!?」 「加藤先生!どうやっても駄目なんでやんすか !?」「…駄目ね、出血が酷すぎて脳全体を圧迫してる…これじゃあ切開したって助けようがないわ…いっそのことこのまま楽に死なせてあげた方が…」
僕はその事実を受け止められなかった。
「嘘よ!でたらめだわ!僕達がこれ以上予選で勝って欲しくないからって病院までグルになっちゃって!!早く小浪君に会わせてよ!!!」 「駄目です!お嬢さん、今小浪さんは非常に難しい状態で話すことも出来ません。両親との最後を…させてあげて下さい。」 「私だって恋人よ!?会う権利はあるはずよぉ!離してぇ!!離してえぇ!!!」
私は現実を受け止めることが出来ず錯乱してしまっていた。 ただ、その現実から逃げるために小浪君に会いたくて…暴れ続けた。 すると…
「早川あおいさんですか!?今小浪さんがあなたと死ぬ前にお話がしたいといわれています!早く来られてください!!」
現実を受け止めざるを得ない一言だった。
急いで部屋に向かうとそこには僕の愛した小浪君が寝ていた。 すでに虫の息だと言うことが僕にも分かる…息をするのも人工呼吸器なしでは出来ない状態だ。 僕と入れ替わるように小浪君の両親が部屋から出て行く…なんて可哀相なんだろう。 僕は小浪君に近づいてその体のすぐ横に置いてある椅子に腰掛けた。まぁ、あのときはこんなに離しているようにゆっくりな動作ではなかったんだけどね…。
「小浪君、どうして…?どうして無理なんかしたの…!?」 「あ、あおいちゃん…」 「無理して君が傷ついて手に入れた名誉より、僕は君ともっと愛し合っていたかった…何で君はそんなに自分を粗末にするの!?」
そう、野球など小浪君のためならいつでも捨てられたものなのだ。ただ一人、僕を暗闇から救ってくれたあの小浪君ならそんなものどうでも良かったんだ。 すると小浪君は最後だからといって自分の秘密を語ってくれた…
「隠しておくことは…無かったんだけど、俺は…この世に血の繋がった家族を知らないんだ…」 「!!」 「今の…里親の方にはすごく感謝してる…僕が償っても償えきれないほどのものを…お義父さん、お義母さんは俺にくれたんだ…」 「…」 「そして初めて触れたスポーツが野球だった、みんなでチームワークを大切に行うスポーツとしてい俺はすごく楽しいものがこの世にあると思った。それから毎日のように俺は野球をした…一人になるのが怖くて、寂しくて…」
小浪君も自分と一緒だなんて初めて僕は知ったんだ。僕は自分の不公平を飲み込めず全てを小浪君に押しつけていたのに小浪君は…次第に悔し身の涙が流れていった…。
「でも、この短い一生を俺は後悔することはないと思う…なぜなら…」
――――そのおかげでこの世界で君と巡り会えたんだから――――
「小浪君…」 「…死ぬ前にお願いがあるんだ…遺言みたいなもんかなぁ…?」 「!小浪君死んじゃ嫌だよぉ!一人にしないでぇ!お願い!」 「…大丈夫、君がいつまでも幸せでいられるように僕がいつも見守っているから…」
『僕が果たせなかったチームメイト全員での勝利…つまり甲子園優勝かあおいちゃんがプロ野球に入れたらそのチームを日本一に導いて欲しい…』
「うん、分かった…だから逝かないでっ!」 「…僕もそうしていたいけどどうやら…、許してくれない…みたいだ…ね。そ、それじゃあ…最後に」
――――君に逢えて本当に良かった…――――
ピーーーーーっ!
…そうして小浪君は帰らぬ人となってしまった…でも、彼はまだ生きているんだ。 そう、彼が出会った全ての心の中に…。 彼の人生がどんなに素晴らしかったと言うことを証明するためにも、僕達は甲子園で優勝せねばならなかった…。
「その日まで…待っててね、小浪君…」 ……………… …………… ………… ……… …… …
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