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作者:mituki

第1回   一話
…小浪君。今も僕を見守ってくれてる?小浪君のことだから自分が成仏することそっちのけで私を見てくれてるって事してるかも知れないけどそんなことしないでよね!
僕は今,某県立病院に入院しちゃった。癌だって,ステージ4の手遅れの癌だって。信じられる?元気がとりえの僕が癌だって。
安心して,君との約束はチャンと守ったよ。見てくれてた?小浪君が生きている間に僕が何にも出来なかったから今度こそ守ったよ。


――――だから…もういいよね?小浪君を追っていいよね?――――


小浪君のことだから「諦めるな!」とか言われそうだけど,僕はもう疲れちゃった…色々と。
最後に君を思い出す事にするよ…



僕は昔から少し変わってたんだ。男勝りでままごとなんて嫌い,そんなことよりサッカーや野球が好きだった。
そんなことだから男の友達が多かった。
「あおいちゃん,野球上手いんだから野球部一緒に入ろうよ!」
「一緒の中学になればいいね!」
みんないい人ばっかりだった。でも中学生になって,小学生とは少し環境が変わったんだ…。

「おい,お前は女だから野球部に入れねぇよ!そこでジロジロ見てねえで消えろ!」
「早川さんはテレビのこととかあんまり知らないでしょ?雰囲気悪くなるから向こう行ってくれない?」
「早川,お前は女だから少しはお淑やかになれよ。そうすれば周りに馴染めるようになるから…」

僕はみんなに馴染めなかった。女だから入部出来ないって何?最近のテレビを知っておかないと鼻つまみ者にされるのは何故?先生にまでお淑やかになれなんて言われる筋合い無いよ。


僕はそんなに存在する価値無いの…?
いない方がいいの…?


僕は自然と不登校になった…人知らぬ公園で一人壁に向かってボールを投げてた。
時には街を一人ぶらつくことがあった。夜まで一人座ってて知らないおじさんに声をかけられたこともあった。その度に警察の人やお母さんに迷惑をかけた。


とにかく,真面目に生きることが嫌になってたんだ…。



そうして僕は無断欠席が重なって私立の恋恋高校に進学が決まった。
高校は公立に行かなきゃと思ってた。お父さんはお母さんと僕を捨ててプロ野球選手になったから家にはそんなにお金,無かったんだ。

「あおい,私立に行くお金はお母さんがちゃんと用意するから…ね?心配しちゃダメよ?」

そうやって僕を気遣ってくれた。でも分かってたんだ…無理してるって。
入学の日に近づくにつれて帰ってくるのが遅くなったし,日に日に顔色が悪くなっていったもん。

そして入学式当日にはお母さんはもういなかった。星になったんだ。
お金はお母さんがためていた貯金,過労死だったから会社から出た慰謝料,そしてお母さんが入ってた高額の生命保険…。
お母さんの命と引き替えに手に入れたお金だった。でも…そんなモノはいらなかった。
お母さんと別れるくらいならそんなモノ,いらなかった。

――――これで僕は本当にひとりぼっちになった…――――

そうやってまた,他人と接することが少なくなった。
小学生の時の友達が何故か多かったから気軽に話せるときもあったけど,自分から話すことはなかった。
そんな時期だった。入学してまだ数日,クラブ入部が叫ばれる中,僕は無関係と思って家に帰ろうとしたその時,君に声をかけられたんだ。

『君,俺達と野球部に入らないかい?』

信じられなかった。どうせ小学生の友達から僕のことを聞いておちょくってやろうと近寄ってきた奴だと思ってた。振り返って殴ってやろうと思って君を見た。

「ん?俺の顔に何か付いてる?」
「ちがうでやんす,早川さんはオイラを見てるでやんすよ小浪君!小浪君って案外妄想癖でやんすねぇ〜♪」
「…その言葉,君にそっくり返すよ。」

とても透き通った,きれいな瞳だった。そして気取ることのないその人柄…
この人達ならもう一度信じられるかも知れない。もう一度僕の生き甲斐,生きる目標を見つけられるかも知れない。
そう思って僕は後日,正式に「恋恋高校野球同好会」に入部したんだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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