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しあわせ島奇譚 作者:mituki

第5回   第5章
…日本のとあるスナック。店舗は小さく,そこまで有名な店ではないが,町の人からは慕われている。
ここには一人の女店長がいた。名前は菊池瞳といい,一度会えばファンクラブに入ってしまうほど美人だった。性格も良く,上手くいけば玉の輿も狙える瞳だが,彼女には婚約者がいた。
男の名は小波といい,ここに良く通う和桐社長の紹介で出会った。彼はファンクラブにはいることもなく,純粋に彼女を愛し,そんなところに彼女も惹かれた。
彼女は一度結婚して,夫を失った未亡人の身だが,小浪はそれを全て受け入れた。
「君にもう過去は関係ないとは言えない。前の夫を忘れ去れることも出来ないかもしれない…けど,僕は瞳さんの過去もひっくるめて…瞳さんと結婚させていただきます。」
この結婚のプロポーズに彼女は泣いた。こうしてその一週間後には結婚式を挙げる予定だった…しかし。
「…どうしても行かなきゃダメなの?何であなたじゃないとダメなの!?」
小浪は会社の経営を守るため,いつもと同じようにフローラルローンズと賭野球をしたのだが彼のチームは負けてしまった。そのため,彼は会社の倒産を防ぐために,会社の掲示した条件「しあわせ島送り」を選んだのだ。

それから数日後…瞳は部屋に閉じこもるようになった。何もかも信じれなくなった。何も話したくなくなった。ただすることは人間的な生理活動と涙を流すことの繰り返し…。
そんな彼女の生活に異変が起こった。それは一人の男からの電話だった。
トゥルルルルル…
深夜,マンションの一室に常識破りのコールが鳴り響く。それは瞳の部屋からだった。しかし,いつもなら出勤していて関係ないのだが,今日は無性に小浪のことで寂しくなり,店を休んでいた。
「何よ…こんな時間にかけてくるのは小浪さんくらい…!?まさか…小浪さんから!?」
寝室に寝転がっていた瞳は飛び起きて電話の元へ向かう。電話まで部屋を三つ通らねばならない。電話が鳴り始めてからすでに数秒が経っている。
「お願い…鳴りやまないで…!お願い,小浪さん…小浪さん…!!」
何とか受話器を鳴り終わる前に取った!瞳はすかさず問いかける。
「小浪さん!どこなの!?私もう我慢出来ないの!今すぐ小浪さんの顔を見せてよ!」
「おぃ,誰と勘違いしてやがんだ…?」
電話の主はガラの悪そうな若い男性だった。瞳は落胆しながらもすかさず応対する。
「す,すみません…。ちょっと事情がありまして…。えぇっと何のご用でしょ…」
「あんた菊池瞳だな?俺はフローラルローン和桐工場担当の奥野だ。」
瞳の応対を聞かず男は名乗った。その男は愛しい小浪をしあわせ島という島に送った組織の男だった。
「さっきの言葉によるとやっぱり相当滅入ッてんな?実は…」
「…返してよ」
「あぁ?」
瞳はもう我慢出来なかった。前の夫の悲しみを忘れさせてくれた小浪。それを自分から引き離した和桐工場のみんなとフローラルローンの人間。瞳は自分でも信じられたいほどの罵声を吐いた。
「アンタ何考えてンのよ!!私がやっと愛せた小浪さんを引き離して何様のつもり!?小浪さん以外でも野球出来る人はいっぱいいるじゃないの!?何でわざわざ小浪さんを!!何で!?ねぇなんで!!!」
次第に滝のように流れる罵声と共に涙がこぼれた。最初の罵声は時間が経つに連れ段々嗚咽混じりの鳴き声に変わっていった。

「ねぇ…何で…なの?ねぇ…」
「…それについて小浪から手紙を預かってる。今からフローラルローンの事務所まで来てくれ。」



草木も眠る丑三つ時…瞳は部屋に座って喘いでいた。何故このようなことにならねばならないのか。何故自分だけ最愛の男達が目の前から消えていくのか。自分の人生を否定さえし,神を憎んだ。
瞳は今,フローラルローンの事務所にいた。謎の電話の男からの情報ーにわかに信じられることではなかったが小浪に逢うためなら少々の危険は顧みない…そのためにもこの男からは何もかも聞き出さねば。待つこと数分,部屋に電話の主と思われる男が入ってきた。
「待たせたな,俺が奥野だ。ンで…これが小浪が置いていった手紙だ。色々な質問はこれを見てからにしてくんな。」
瞳の心を透かしたように奥野は指示した。つまらないことで意地を張って情報をとれなかったら元も子もない。瞳はその手紙を読み出した。

ー拝啓ー
瞳さん,元気ですか?あなたがこの手紙を読む頃は俺はもうあなたの傍からいなくなった後と思います。俺は今,和桐工場の借金を返すために働いています。しかし,まだ行っていないところなのでどんな島かは分かりません。最悪の場合,これを読んでいる頃にすでに俺は…

「小浪さん…」

〜です。そしてあなたには伝えなければならないと思います。俺の正体を…信じられないでしょうが俺の正体は…

「み,未来人?そんな…」

…信じられないでしょうが事実です。俺は和桐工場が開発するバッテリーを阻止しようとする悪人から和桐工場を守るために派遣されました。阻止したら送られてくる冷凍素材を使って自分を凍りづけにして未来に帰る…

瞳にとってそこに書いてあることは信じられないことばかりだった。小浪は実は未来から来た人間であること,和桐工場が後に未来にとって有望な科学バッテリーを開発すること,そして…自分がその作業の妨げになったこと。

…最後に聞いて下さい。俺のことを信じられないようであれば8月18日に三丁目の裏山深くの谷底に未来から冷凍素材が送られてきます。もしもちゃんと送られていたらそれにこの手紙を入れて作動させて下さい。やり方は簡単に表面に書いてあります。奥野さんの話だと俺はたぶんもう君に逢うことは出来ないから…じゃあ。

「……」
「信じられねぇだろ?俺も読んだときは信じられなかったが小浪がこの間あった大事故とか大統領の革命とか予言してたのが全部あいつの言う通りだったからなぁ。もしかしたらその手紙に書いてある冷凍素材ってのも…。」
「…今日は18日ですよね?行きましょう!」
「…あぁ。」
二人は着替えるのに一旦家に戻ってその後合流することになった。

PS:君にあったときから僕は君を愛していたよ。


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Novel Editor by BS CGI Rental
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