やっとのことで小浪は収容所の前にきた。南国の島に似合うことなく堂々とたたずむ収容所はなんとなく滑稽であったが疲労困憊した小浪には笑う気力もなかった。 手続きが済んだらしく兵士が呼びに来た。兵士と一緒に小浪を迎える収容所の門はまるでアウシュビッツを思わせるような,禍々しい気を発している。 こんな所で借金を返すのか…小浪は希望を捨ててはいなかったがこの門を見るとやる気が失われていく気がした。 小浪が収容所に入ろうとしたときにはすでに他の囚人はオリエンテーションを済ませた後の様で辺りには囚人らしい人物は見あたらない。一人孤立した不安にかられながら兵士達に誘導され,管理室らしい部屋の前に立つ。 『今から中に入ってオリエンテーションか…。少し遅れたけどまぁ,あの船旅の後だったし許してくれるだろう。』 この心構えがいけなかったのかもしれない。 「遅れてすみません。今日収容される小浪ですが…オリエンテーションを受けに来ました。」 部屋はいたってシンプルだった。デスクやパソコン等があり,ちょっとした広い南国のビジネスホテルの一室(ベットはない)に見える。窓からは海が一望でき,潮風で心が癒されそうである。 窓から外を眺めているその時,奥の部屋から鞭を持った兵士がでてきた。金髪,肥満に気取った細いカイゼル髭,高級軍服を羽織り,身成からいってかなりのお偉いさんである。 小浪の存在に気付いたその兵士はずかずかと小浪の前に歩いてきて,問答無用で鞭を振りかざした。
バチィン!
小浪が遅れてきた事が相当頭にきたらしく兵士は背中におもいきり鞭を打った。目がけて打たれた傷口から,血が噴き出した。 「全くお前は何を考えてるんだこのウスノロ!このマコンデ副所長を待たすとはなんと無礼な囚人だ!」 マコンデはそう言い放ち,小浪の脇腹を蹴り上げた。 声も出ないほどのすさまじい激痛が走り,感覚が消えた。その後も何発も反撃出来ない状態の小浪の体に暴行を加え続けた…。
「…たくっ,何も許さないほど私は鬼畜じゃない。」 ようやく気の晴れてきたマコンデは小浪の頭を掴み,自分の足下へと向けた。 「その汚い靴を舐めて綺麗にしたら,許してやらん事もないがな…似合ってるぞ?はーはっはっはっはっは!!」 確かに遅れたのは悪かったが30分遅れたほどでいきなり鞭で打たれ,殴る蹴るの暴行の上に靴を舐めるなんて絶対お断りだった。小浪はそう決意し,謝ることなくただマコンデを睨み続けていた。その反抗的な態度にマコンデは顔を真っ赤に染め,激怒した。 「イエローモンキーごときがこのマコンデ様に刃向かうとはいい度胸だ!!他の囚人達の見せしめのために殺してやる!こぃ!」 マコンデは小浪の首を掴んだ。外に連れて行き,公開処刑にするつもりなのだろう。 『瞳さん…帰ってくるって約束したけど,ダメだったみたいだ…。ゴメンね…』 小浪が諦めかけたその時,奥から出てきた女性がマコンデの手首を掴んだ。
「マコンデ,このヤパーナはまだこの島にきたばかりだし,しかも貴重な野球班の囚人だ。許してやれ…」 彼女はマコンデと似たような服装をしていた。金髪に深みのある蒼い瞳…西洋系の出身なのだろう。 『貴重な野球班ってどういう事なんだ…?それよりもこの女の人すごい美人だなぁ……は!いかんいかん,俺には瞳さんがいるんじゃないか!借金を返しに来たのにダメだな俺は…。』 小浪が魅入ったのも無理はなかった。凛とした鼻立ちに妖艶を秘めた唇,吸い込まれるような蒼い眼差し…彼女が女優志望であるならデビュー直後に仕事が入ってくるだろう。 「し,しかし…我々BB団が支配者であるという事を徹底的に覚えさせねば他の奴らに示しが…」 副所長のマコンデも敬語を使うのだから相当地位が高いらしい。副所長の上なのだから所長だろうか? 「黙れ。マコンデ,この私に逆らうというのか??」 彼女は少々短気のようでマコンデの煮え切らない態度に腹がたったらしい。マコンデは少々悔しい表情を見せ, 「も,申し訳ありません所長。ついかっとなってしまい…以後慎みます。」 と,言い小浪を掴んでいる手を放した。無造作に手を放された小浪は床に倒れ,刺すような激痛を受けた。 『ぐ!!…そのまま落とすことないじゃないか。』 小浪が痛がっている間にも話は勝手に進められていた。 「…まぁ,この島ではこれくらい活きが良くないとすぐ死んでしまうからちょうどいいじゃないかマコンデ。何よりもこれ以上逆らうのであればその時に射殺すればいい話だし…まぁ射殺するときになればお前にさせてやろう。」 「分かりました所長。射殺の時は是非ともこの私にご一報を。すぐにこんな奴蜂の巣にして海の藻屑とかしてやります。」 「よし,それでいい…」 所長は小浪に近づき,手を差し出した。その手には昔の切り傷と見られるものが多数見られた。 「我らBB(ブラックバタフライ)団へようこそヤパーナ,私が所長のヘルガだ。」 やはりヘルガは所長だったのだ。ヘルガは力が強いらしく軽々と小浪を起きあがらせた。 「さぁ早く起きあがって宿舎へ行くんだ。それと今回は初めてだから慈悲で助けてやったが以後我らBB団に刃向かったら命はないと思え…いいな?分かったら早く行くがいい。」 念を押すように約束をさせられた小浪は何も言わずただヘルガに一礼してその部屋を出て,外で待っていた看守と宿舎に向かっていった。
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