島全体が世界が終わったかのように光をを失い暗くなっていく…今日は小浪がこの島で初めて迎えた新月の夜だった。 日没につれ、監視官が一斉に管理棟、舗装道、囚人房に光を灯す…脱走を防止するためかその光は昼のように明るい…。 その囚人房の中に、比較的明るい状況の野球房があった…
「「「乾杯!!!」」」
囚人全てがジョッキを手に、のどを鳴らして体内に酒を放り込んでいく…
「ぷはーっ!一軍への挑戦権獲得おめでとーー!」 「おめでとー!」 「いやぁ〜そこらのやつなんて雑魚ばっかりだったなぁ…」
その中で一人堂々と真ん中に座って他の囚人に酒を注がせているのが小浪だった。 これまでのこのチームの快挙は覚醒した小浪があってこその功績だったのだ。他に役立つ選手と言えば数を数えるほどであろう。 小浪はすでに倉持に教えてもらった覚醒の可能数3つを全て使っていた。 テレパシー、筋力増強、そして空間停止の3つ…まずは投手の配給をキャッチャーから読む、そして球が打ちやすいところまで来たら時間停止、後は筋力増強してのほほんとスイングするだけで簡単にスタンドをオーバーするのだ。
「はーっはっはっはっは!よきにはからえぇ〜♪」 「小浪のやつ、もう酔っぱらってるぜ?」 「まぁ、楽しいからいいじゃないでやんすか!」
ーーーねぇ小浪君、後で一緒にプレイルームへ遊びにいこうでやんす♪ーーー ーーーいいなぁ!是非いこう!!ーーー
実は落田もテレパシー能力、高速移動、時間停止(小浪のものは限られた範囲の時間と人しか止められない)の能力を持っていた。だが、「正義の味方は自分の必殺技を明かさないでやんす〜」といってみんなに教えていないのだった。 しかし、不思議なものだった。酔っぱらえば何でも口にしてしまうものだったのだが乾杯の音頭につれ全ての選手が口を開かずに部屋全体がシーンとしていた…。でる言葉は時にみんなで発言するものだけ… そう、実は野球房全員がテレパシー能力を持っていたのだった…。 それにいち早く気づいたのが小浪だった。この島には超能力を体に及ぼす何かがあると知って捜索してみるとメンバーのほとんどがそれが出来ていた。また、出来ていない選手でも出来る選手がその選手に向かって力を貸すだけでそれをすることが出来た。 そう、小浪は気づいたのだった。このチーム選びとして行われたあのテストが、有能な野球選手を探すためではなく、有能な超能力者を見つけるためのテストだったのだ。後で聞いた話だが、あのときのテストで陽性だった選手は体の穴という穴から血が吹き出し、発狂したそうだ…。そして、その選手もその後からこの話を教えてくれた選手が見ることはなかった…。 このしあわせ島には何かある。必ず、和桐工場に及ぼした何かが…。そのためにも、小浪は倉持のような豪快な性格を演じ、密による調査をしていたのであった。 落田とのテレパシーはテレパシー能力を持っている選手には読まれてしまうので捜索する時の合図があれであった。 そうとも知らずに他のメンバーは夜半をすぎても酒を飲み続けた…。
「…ふぅ、誰にも気づかれてないよね落田君?」 「大丈夫でやんす、今日は以上に強いアルコールを飲ませたでやんすから…おそらく明日の昼まで意識飛んだままでやんす。」 「すまないな、こんな危険なことに巻き込んじゃったりして…」 「いいでやんすよ、オイラだって小浪君の話を聞いた時はびっくりしちゃったでやんすが嘘じゃないって分かるとなんだかわくわくしてきたんでやんすよ!時空警察ってやつでやんすよね?自分がアニメの中に入ったみたいで楽しいでやんす!」 「でも見つかったら死刑だから気をつけていこう…。」
落田は小浪までではないが有力は超能力を持っている…その一つが高速移動の最上級技、瞬間移動だった。効力範囲は5キロ以内、しあわせ島全域に使えるのだった。 小浪と落田はこの能力を使って場所に向かい、そこで監視達の考えをテレパシーの応用、透視で読む。そこでいろいろな情報を手にするのだ。 一番欲しい情報はやはり倉持、マコンデ、ヘルガなのだが、マコンデは重要なことを全く考えてないし、ヘルガや倉持はどんなに気配を消しても気づかれてしまう。見つかった時は苦笑いで話を合わせるのだった。 今日はどこ行こう…今の時間帯だと研究室に行ってみたいなぁ…あそこだと、この超能力の覚醒について何か分かるかもしれない…
ーーー落田君、今日は研究室に頼むーーー ーーーまかせろでやんす、行くでやんすよ!ーーー
景色はふっと明るくなったかと思うと、そのままその光は消えていった…
研究室に着くと、まずは誰にも見つからないように落田が時間停止の能力で自分たち以外の時間を止める。それでのうのうと捜索をすることが出来るのだ。
「もう声を出してもいいだろう。…まずは研究データだ。そこに必ずこの島の秘密が書いてある。」 「了解でやんす。」
グロテスクな人間の肉片を踏みしめながらその研究室を移動する。研究室はどれだけの囚人を解剖したのかすでに分からないくらい床に肉片が散乱している。血の匂いがしたたっているが、なぜかそこに蛆や蠅は居ないらしく、そこは研究室の無菌機能がどれだけ有能かと言うことを感じさせられる…。 むせかえるような朱い危険な香り…赤褐色に染められたその部屋は怖がりの瞳が見ればもう失神してしまうだろう。 小浪は、そんな瞳を想像して苦笑した。 早く帰りたい、かえって瞳を抱きしめていたい… その一心で研究室を調べ続けた…。
「ん…!?小浪君、これここの何代か前の研究長の日記みたいでやんすよ!?」 「ん?どれどれ…」
落田に言われるとおりにその日記をのぞき込む…そこに書いてあったのは…。
――――1912年、3月4日土曜日。今日のおかずはネギにジャガイモ、牛肉をふんだんに使った肉じゃがだった――――
献立だった。
「…なんだよこれ、日記じゃなくて献立表じゃないか…」 「違うでやんす!もっとすごいことが書いてあるでやんす!」
ここでやんすと言わんばかりにその日記のページを開く…そこには一人の研究員の研究の過程が記してあった…。
――――そしてついに私はしあわせ草のゲノムの解析に成功した!長年この時をどれだけ待っていたであろうか…ヘルガ様もお喜びであろう…――――
「…ちょっと待て、ヘルガ様ってことは今のヘルガ様じゃないのか?」 「そうじゃないでやんすか?」 「いや…もういいや、次読んで。」
――――しあわせ草には強力な生物増強力を及ぼす細胞があることは知っていたが、それが一つの花に含まれるのはほんの少量だった。それを私が70%増まで作り替えたのだ――――
「しあわせ草って俺たちが労働で育てさせられてるあれだよな?」 「前からあんな雑草が大切に育てられてるのおかしいって思ってたでやんすが…こういうことだったんでやんすか…」
――――しかし、しあわせ草の一番の修正点を改善することは出来なかった。それはしあわせ草が人体に強力な作用を起こすと同時に、中毒化すると言うことだった――――
「「!?」」
――――しあわせ草を毎日囚人達に飲ませる給水タンクに囚人達が眠った夜半を中心に混ぜ、囚人を強化して島の発展に尽力させるとともに中毒化させて島から出られないように…――――
「そうだったのか…だから倉持さんが言っていたように、この島から出られた人間は居なかったのか…」 「しあわせ草の群生地はまさにここだけでやんすからね。この島から出たら禁断症状で狂乱死…」
するとまて。
「俺たちもすでに中毒になってるんじゃ…」 「なってっかもね♪」 「!?!?」
小浪と落田は瞬間的に後ろの壁まで退いた。目の前には…倉持が居た。
「そ、そんな…オイラの術が破られるなんて…」 「ちょっとビビっちまったぜ?数秒とはいえ俺を止めていたんだからよぉ、ほめてやるぜ落田!!」
バキィッ!
それこそ高速だった。俺には何が起こったか分からなかった。ただ落田君が壁にめり込むように吹き飛んで、壁と壊して廊下に出るくらいの衝撃を受けていた。
「お、落田君!?」
小浪は急いで落田の救出に向かったがすでに落田は虫の息だった…何の反応もなかった。
トンッ!
そこで倉持が素早く小浪の首筋に手刀を浴びせた。それをまともに食らい、小浪の体の自由は完全に機能を止めた。
ーーー気づかなければ良かったものを…馬鹿め…ーーー
小浪は薄れゆく意識の中で最後に見たのは…哀れむようにこちらを見るヘルガの姿だった。
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