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しあわせ島奇譚 作者:mituki

第1回   しあわせ島・・・・・・
男達は皆,一言も喋ることなく揺れる船に乗っていた…。誰もが絶望や不安に押しつぶされもはや生きる希望すら伺えない。考えるとしたらただ一つ,これから自分は何処に運ばれどうされるのか…。
 男は気分が悪くなったので外に出る事を願い出た。元々船に乗る前に風邪をひいていた男は環境の悪さに船酔いで立っていられないほどだった。顔が青い様子から相当体調が悪いらしく兵士達はやむを得ず男を見張り付きで甲板に出る事を許した。
「はぁ〜…しあわせ島に行くのにまさかこんな船旅を味わう事になるとはな。先が思いやられるよ…」
 手摺りを伝って甲板に出ると中の陰気な空気が嘘に思えるほど清々しい景色が男を癒した。爽やかな海,清々しい海風,新鮮な空気…まるでバカンスを味わっている気分になり,先ほどの体調不良が何だったと思えるほどに回復した。

“これが島送りにきたんじゃなかったらな〜…はぁ〜。”

 「オィ貴様!気分が直ったんだったらさっさと部屋にもどらんか!!」
看守の怒鳴り声で妄想から現実にもどされた男は適当に返事をして部屋に戻っていった。
 男の名は小浪(こなみ)といった。一見平凡そうな男だが,実は間違った未来を直すべく未来からやってきた秘密警官だったのだ。しかし,その過程で『フローラルローンズ』という悪徳金融業者と賭野球をし,見事なほどに惨敗したのだ。そのため男は「しあわせ島」という所で勤めていた和桐工場の借金を返すべく,島送りにされたのだ。
 「まさかここまで難しい任務になるとはなぁ〜向こうではいつ犯人が行動するかも分からないって言うのに…これじゃあ阻止出来そうにないな…つくづくついてない。」
腹の虫をおさめるために一眠りつこうとしたその時,甲板からけたたましいほど大きい船乗りの声が響いた。
「島が見えたぞぉーーー!!」
何事かと驚いて窓を覗くと一つの小さな島が見えた。
『本線は今から30分ほどでしあわせ島に到着する。それまでに島に降りる用意をしておけ!繰り返す!……』

予想より数分はやく島の港に入った。兵士達が誘導する中,船を下りるとそこではまるで熱帯雨林のジャングルのような蒸し暑さを感じた。移動手段や時間,場所を考えるとおそらくこの島はそう日本から離れていない,南太平洋の赤道付近の孤島だろう。
「うわぁ〜暑いなぁ…和桐の仕事場も相当まいったけどここの暑さは尋常じゃないな。もう汗だくだくだよぅ…全く嫌な仕事を受けたもんだ。」

バキィ!

 ぶつぶつ文句を言っていると後ろから檜棒のようなもので殴られた!
「貴様!さっきから集合と何度言ったら分かるんだこの馬鹿が!次にこのような事をしたら射殺するからな!!」
集合の合図を聞かず,単独行動をとったため兵士に殴られたらしい…。警棒の後にライフル銃を目の前にちらつかせられ,射殺すると言う事が狂言で無い事が分かった。
「イテェ…そこまでやらなくてもいいじゃないか…。」
しかし,それだけでなぐられた小浪は納得のいかぬまま,後ろの罵声を背に頭を抑えながら他の囚人が集合している場所へ向かった。
 精密な検査,点呼をとった後,収監所まで少し走ることになった。収容所までかなり距離があるらしく,看守と兵士達は車に乗り込んで先頭を誘導しだした。
「じょ,冗談じゃないぞ!!飯も食ってないのに走れるわけ無いじゃないか!!…まあ言ったら次は射殺だから言わないけどさ…」
本当に大変な仕事を受けてしまったと自分の運の悪さを悔いる小浪だった。

…港から走って三十分だろうか。2日間ボロ船で生活し,大した食べ物も食べていなかったので案の定すぐに疲れてきた。
「全く踏んだり蹴ったりだよなぁ…フローラルローンズに負けなければ今頃俺は瞳さんとデートしてただろうになぁ…」
小浪は和桐社長の紹介であるスナックの人気嬢『瞳』と婚約していた。瞳はスナックでも『瞳シークレット』というファンクラブができるほど小浪には高嶺の花だった。そんな瞳からデートに誘われ小浪は心の底から喜び,叫んだ。瞳とはその後交遊を重ね,将来まで誓った仲までいった。
しかし,島送りになるときに小浪は詳しい内容を彼女に言わなかった。言うと自分を見捨てられるかもしれないし,その逆に自分を追いかけてくるかもしれない。そんな彼女に小浪はこういった。
『大事な用事が入ったんだ。君とは長い間離ればなれになるかもしれない…それでも僕を待っていてくれないか?』
彼女はそれを了承した。島送りにされ,もしかしたら帰って来れないかもしれない彼をいつまでも待つと…。
「…ま。…様!…貴様!!」

バキィ!

また檜棒のような物で後ろから殴られた!
「何をさっきから道ばたに突っ立って考えてる!!もうお前以外の囚人はとっとと先に行ってしまったぞ!!お前もさっさと行くんだ馬鹿者!!」
後ろからライフル銃を足下にはなってくる!すかさず小浪は銃弾を避け,収容所までの道のりを走り出した。
「そうだ。俺には瞳さんという彼女がいるのにこんな所で死ぬわけにはいかないんだ!是が非でもここを出て待っている彼女を迎えに行かなくては…待っててくれ,瞳さん。」
 それから収容所に着いたのはその30分ほど後だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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