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| 6 フィズ「俺が意識を取り戻したのは……全てが終わった後だった。
 傍らにはミレアが座っている」
 ミレア「フィズ……良かった」
 フィズ「ん……俺……」
 ミレア「廃墟の一角を貸してもらえたから、大丈夫だよ。
 心配かけさせないでよね……お兄ちゃんのくせに」
 フィズ「ん?ああ……悪い」
 ミレア「もう少し寝てていいよ。かなり、疲れてるでしょ?」
 フィズ「勧められるまま、俺は再び眠りについた」
 
 フィズ「な〜んて、ミレアがそんなに優しいわけないんだよな。オリジナル版ならまだしも、こっちの話では、あいつすっげえ冷たいし。
 ああ、これ夢だ。絶対夢だ」
 ミレア「失礼な事言うな(ガスッ!)」
 フィズ「いってえ!」
 ミレア「たく、いつまで寝惚けてんのよ」
 フィズ「寝惚け……やっぱり夢だったのか、さっきの。あ〜あ、何だか幸せな夢だったなあ」
 ミレア「オリジナルのシリアスな貴方よりも、パロディってる方の貴方がよっぽど幸せだと思うんだけど。
 それで、何があったのか思い出したの?」
 フィズ「……ああ、大体の事はな。
 ミレアと城を調査していた事。そこで、青紫のピエロに出会い、あの女剣士と再会した事。さらに……あまりにも現実からかけ離れた、凄まじいお笑い合戦ぶりを目にした事。色々と思い出したよ」
 ミレア「……それで?」
 フィズ「俺が最初にシギと話した時……凄まじい突っ込みを受けたんだ。正直、俺、やっぱりまだまだなんだなって思った。これから、もっと自分を鍛え直さないと……」
 ミレア「……あのさ」
 フィズ「何だ?」
 ミレア「頭でも打ったの?」
 フィズ「そうなんだよな……こんな話をいきなり信じろって方が無理な話さ。何しろ、場に居合わせてた俺ですら、疑わしく思えてきたくらいなんだから」
 ミレア「いや、別に話の内容云々っていう事じゃなくてね。
 まさか、貴方が自分から反省してみせるなんて……悪い物でも食べたの?それとも、これは天変地異の前触れ?」
 フィズ「……俺だって反省くらいするわい。自分で言ってて、何だか情けなくなってくるよ。
 ところで、ミレア。お前……俺の話、信じてくれるのか?」
 ミレア「うん、信じてる」
 フィズ「………………」
 ミレア「何故か、分からないって?
 まあ一応……私の相棒だしね。貴方がどういう人間か、よく知ってるつもりだから」
 フィズ「そっか。
 ところで俺ってどんな人間なんだ?」
 ミレア「う〜ん、三日一緒にいるとウザい人かな」
 フィズ「痛っ!何故か分からないけど、何か心が痛っ!」
 ミレア「それから、トランプゲームの弱い人」
 フィズ「……どういう意味だよ、それ?」
 ミレア「ポーカーフェイスという言葉があるでしょ。貴方の場合は、まさにそれと正反対。嘘を付いたらすぐ顔に出ちゃうのよ。
 だから、貴方が真顔で言ってる事は全部本当の事だって、私信じてるよ」
 フィズ「………………」
 ミレア「それに、他の理由もあるよ」
 フィズ「……他の理由?」
 ミレア「と言うか、証拠みたいな物よ」
 フィズ「どういう事だ?」
 ミレア「国王、がね」
 フィズ「国王?ターミアルを治める王の事か?
 そう言えば、玉座にはいなかったが……」
 ミレア「国王どころじゃないよ。この城には衛兵の一人もいないじゃない。これっておかしいと思わない?」
 フィズ「……しまったああぁっ!フリフリカーテンやテディベアやハートマークやネコ髭クマさんに気を取られすぎて、一番怪しい事態に気付かなかったああっ!」
 ミレア「探偵失格ね……本気と書いてマジで。
 それで私はどうしてもその事が気になって、改めて城の中を探索してみたのよ。
 そしたら……」
 フィズ「そしたら?」
 ミレア「城の地下食料庫で、カチンコチンに凍り付いてた国王とその他一同を見つけたわ。どうやら、例の二人のお笑い合戦の寒さに負けた様ね」
 フィズ「うわあ」
 ミレア「とりあえず、寒そうにしてたから、《其の身を屠る火炎》使って溶かしといたよ」
 フィズ「いや、国王を屠っちゃ駄目だろ」
 ミレア「今も皆地下で伸びてると思うけど、多分その内に元気になると思うから」
 フィズ「にしても、馬鹿な……!
 あまりの驚きに、疲れなんか吹っ飛んじまった気になったぜ。
 ヤツらのギャグが……本当に人を凍り付かせる程に寒いとはな」
 ミレア「今回の事件を総括すると、おそらくはこういう事ね。
 青紫のピエロと女剣士の二人は、この城へと招かれ、漫才を行った。しかし、あまりの寒さ故に城の住人達は皆凍結。仕方がないので、青紫のピエロは住人達を地下へと押しやり、この地区に居座った。
 伝説のお笑い芸人とまで謳われた彼にとっては、流石に気まずいものがあったのでしょうね。事実を隠蔽しようとしたのよ」
 フィズ「気まずいからって、城乗っ取るか?普通。結構強引な解釈だな」
 ミレア「黙って聞く。私だって頭痛いんだから。
 ターミアルが壊滅したとか廃墟になったって話は、今回の騒動が変な形で噂となって流れた結果、まかり通ったデマじゃないかしら」
 フィズ「そんな……」
 ミレア「青紫のピエロは、あくまでも突っ込みが主流なんでしょ?
 ボケ役があまりにも寒すぎると、如何に伝説の芸人であっても、どうしようもないのかも知れないわね」
 フィズ「じゃあ……じゃあ……っ!」
 ミレア「フィズ?」
 フィズ「俺の……俺の追っていた下着ドロは、一体どこへ行ってしまったんだ?」
 ミレア「そんなヤツは、初めからおらん!」
 フィズ「そんな……
 受けたショックはかなり大きいぜ……まさか、相棒に先を越され、事件を解決されてしまうなんて……」
 ミレア「何にショック受けてんのよ。ったく、私がいないとまともに仕事出来た試しがないんだから。
 だいたい作者も作者なのよ。私って優秀なんだから、オリジナル版でも、もっと私の出番を増やしなさい!」
 フィズ「何か、途中からいきなり作者脅してるし……
 ん?なあ、ミレア。その手に持っている物は何なんだ?」
 ミレア「ああ、これ?
 城の中を調査してたら、気になる紙切れがあったの。何かが書かれてるみたいなんだけど、まだ中身は開いてないわ」
 フィズ「じゃあ、詳しい事は分からないのか」
 ミレア「ええ。読んでみようと思った矢先に、倒れてる貴方を見つけてね。周囲には貴方の他に誰もいなかったわよ。青紫のピエロも女剣士も、エリちゃんも」
 フィズ「クソ……
 追いついたと思ったのに、あの道化野郎が!また、雲隠れかよ……」
 ミレア「そんな顔しないで。私、もうすぐしたらまた彼らに会える様な気がするの。
 そうよ、案外次の場面あたりでひょっこりと……」
 フィズ「……何故か俺も、不思議とそんな気がする」
 ミレア「そういうわけだから、さっさとここでの会話を終わらせて、次に進みましょ。
 ほら、さっき言ってた紙切れの中身、読んでみてよ」
 フィズ「本当に終わらせようとしてやがるな。
 うん、どれどれ……紙切れには数行の文が書かれているな。
 ……っ!これは……」
 ミレア「どうしたの?ちょっと見せてよ。
 え……っ!そんな、嘘でしょ……!」
 フィズ「度重なる衝撃に襲われ、俺の身体は震えていた……」
 
 7
 フィズ「城下襲撃の調査は、一通りの終わりを迎えた。
 城の住民の救助に関しては、全く手をつけないままに帰ってきた。ミレアの魔法で、ちょっぴり焦げてる人も何人かいたらしい。
 まあどの道、あんな内装を城に施す様な地区は、先が長くないと思う。だから、俺達も安心して、ターミアル城を放ったらかしたままで去る事が出来たよ。
 大規模なお笑い合戦とやらを行った二人組の正体も、彼らと決めてしまっていいだろう。凄腕の剣士に魔法の使い手と、特徴も合致している事だし。
 それにしても、ありとあらゆるネタをこなす、あの二人は何者なのだろう?この辺の事情については、話がさっぱり見えてこない。
 特に、あの女剣士のボケっぷりは見事なものだった。彼女のボケネタの前では、青紫のピエロの突っ込みをも寒いものと化してしまう。今回の騒動は、あの剣士によって起こされたようなもんだよな。
 そして、もう一つ。ターミアル城にあったという一枚の紙切れ。
 皮肉だよな……本当に。これが、定められた運命ってやつなのかな。
 複雑な思いを胸に抱きつつ、俺は〈クルーヴ〉の中に入った」
 
 フィズ「ターミアルの件についてのレポートだ」
 フェイカー「……流石ですね」
 フィズ「とても誉められたもんじゃない。下手くそなレポートだよ」
 ミレア「そのレポート、私一人でまとめたんですけど。全然働いてないのに、偉そうな事言わないでくれる?」
 フェイカー「随分落ち込んでますねえ、タガーノさん」
 ミレア「落ち込みますよ、そりゃあ。
 だって……だって……」
 フェイカー「……もしかして、ターミアルで見つかったという紙切れの事ですか?
 すみませんがライアスさん。紙切れに書かれている文面を、声に出して朗読していただけませんか?」
 フィズ「ああ、いいぜ」
 ミレア「きゃ〜〜〜っ!やめて、聞きたくない、聞きたくない〜〜っ!」
 フィズ「じゃあ、読みます。
 『ソードレボリューション3では今まで以上にミレアの出番が少なくなります。ミレアファンの皆さん、ごめんなさい。作者より』
 ……以上」
 フェイカー「あ〜……これは落ち込みますねえ」
 ミレア「散々……散っ々、引っ張っておいて、こんな内容?ちょっとあり得なくない?
 私、この物語のヒロインだよ?おのれ〜!殻鎖希許すまじ!」
 フィズ「……この紙には全てが記されている。
 こいつの中には……作者の意志が詰まってるんだ。多分、どうしようもないと思うぞ」
 ミレア「フィズの馬鹿ぁ……はっきり言わないでよ」
 フィズ「しかし、この紙が公にされる事はなかった。国王に、何らかの考えがあっての事だろうか?」
 フェイカー「そりゃあそうでしょう。こんな物、早々から公表したらネタバレになってしまうじゃないですか」
 フィズ「単なる作者の都合か!」
 フェイカー「ええ、多分」
 ミレア「……すみませんがこの紙切れ、私に預けさせていただけませんか?」
 フェイカー「か……構わないですよ。しかし、どうしてですか?タガーノさん」
 ミレア「この紙切れに向かって、一日百回お祈りします。ソドレボ3でもっと出番が増えますようにって」
 フィズ「せ……切実だなあ。
 じゃあ、フェイカー。俺、そろそろ帰るわ」
 フェイカー「報酬は?」
 フィズ「いらない。……貰う気になれない。
 全部、ミレアにあげてくれ」
 フェイカー「……そうですね。アルバイトですけど、ボーナスも出しましょう」
 ミレア「ボーナス!」
 フィズ「あ……目の色変わった。こりゃあもう誤魔化せないぞ、フェイカー。棒に刺した茄子を渡して、『ボーナス』とかってベタなギャグやったら、あの大弓で蜂の巣にされちまうぜ」
 フェイカー「そんな……っ!この私とした事が……不覚っ!」
 フィズ「ホントにそうやって言い逃れるつもりだったんかい。
 まあ何はともあれ、とりあえず事件も一件落着。俺、帰って寝るわ」
 フェイカー「……ライアスさん」
 フィズ「まだ、何かあるのか?」
 フェイカー「一つだけ言わせてもらいたいのですが」
 フィズ「……?」
 フェイカー「この件の依頼主なんですがね。実は、私じゃないんですよ」
 フィズ「何?」
 フェイカー「かのマスター殿から、仰せつかった事だったんです」
 フィズ「なっ……!
 ターミアルにマスターが来ていたというあの噂……半分は当たっていたのか。直接赴いていないにしろ、マスターがターミアルに何らかの興味を示したのは、間違いなさそうだ。
 青紫のピエロに女剣士、エリ……それにマスターか。変態が一気に増えちまったな」
 魔危「って、誰が!」
 エリ「変態だって〜」
 死戯「言うんでしゅかあ〜?」
 フィズ・ミレア・フェイカー『うどわあああっ!ホントにこの場面で、再登場してるううぅぅっ!』
 エリ「エリ、悲しいよ〜。ご主人様からそんな風に見られてたなんて〜」
 死戯「全くでしゅ!変態は魔危しゃんだけで十分でしゅよ」
 魔危「待て!貴様、今の台詞は聞き捨てならんぞ!
 この剣にて、キリスト(斬り捨て)てくれる!」
 フィズ「え〜い!お前ら、いきなり唐突に帰ってくるんじゃない!」
 ミレア「さ……寒い!剣士のギャグは何度聞いても寒いわ!」
 フェイカー「ああ、このままでは店の物が凍ってしまう……」
 フィズ「つ〜か、この展開からすると、まさかあの人も出てくるんじゃ……」
 マスター「呼んだか?フィズ」
 フィズ「来るなああぁっ!あんただけは来るなあっ!」
 マスター「つれないのお。わざわざ、更衣室の盗撮を中断して、ここまでやってきたと言うのに……」
 エリ「わ〜、ホンマモンの変態がいるよ〜」
 ミレア「頭が……頭が痛い……」
 フィズ「帰れ!お前らみんな、帰れええぇぇっ!」
 
 フィズ「こうして……〈クルーヴ〉でのあまりにも理不尽な後日談は幕を閉じる事となる。嵐の後には、ミレアもフェイカーもただただ泣いてたっけな。
 だがあの時、俺はまだ知らなかった。陰で新たなる危機が迫りつつある事に。
 そして、それからさらに数日後の事だ……」
 ミレア「ねえ、フィズ。あの時、城で見つけた紙切れなんだけど……実は裏にも文章が書かれていたの」
 フィズ「へえ。何て書いてあったんだ?」
 ミレア「読んでみるね。
 『フィズ・ライアス様。先日はうちの娘を泣かして下さったそうですね。近い内にそちらにお礼参りに伺いたいと思います。極道の父と母より』
 ……以上」
 フィズ「ゲッ!それって……俺がターミアル城下町で泣かしたガキの両親から?」
 ミレア「うん。そうみたい。熊を素手で倒すお父さんと、虎をデコピンで倒すお母さんから」
 フィズ「だああぁぁっ!
 逃げるぞ!ミレア!エリ!」
 ミレア「何で?私、あの子泣かしてないし、関係ないよ」
 エリ「エリも全然関係ないよ〜」
 ミレア「第一、宛名には『フィズ・ライアス様』としか書かれてないし」
 フィズ「俺一人が目当てかあっ!こうしちゃいられん!一人で急いで夜逃げするぞ!」
 ミレア「うん。元気でね〜」
 エリ「お土産買ってきてね〜、ご主人様〜」
 フィズ「こっ、この薄情女ども!他人事だと思って……
 ああ、誰か俺を助けてくれ〜〜〜!」
 
 フィズ「もう二度と子どもは泣かすまい。
 俺は、深く心に誓うのであった」
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