3 ミレア「ここが……城下町?」 フィズ「言うな」 ミレア「城下町なのに……馬車の一つも通ってないの?」 フィズ「聞くな」 ミレア「って言うか、この町って廃墟になったんじゃなかったの?」 フィズ「突っ込むな……って、いや、それは気にしなきゃいけないところなのか」 ミレア「恐ろしい程の田舎である事は一目瞭然ね。でも……それを除いては、どこからどう見ても普通の町なんだけど。どこも廃墟になんてなってないじゃない。もしかして、これってガセネタ?」 フィズ「状況から見ると、その可能性が高いな。だが、辻褄の合わない点もある」 ミレア「……辻褄の合わない所だらけなんだけど」 フィズ「とにかく、今は感慨に耽ってる場合じゃない。 ミレア、仕事だ」 ミレア「誰も耽ってないけどさ。 で、とりあえず……どうするの?」 フィズ「旅先で行う事と言えば、決まってるだろ!」 ミレア「?」 フィズ「観光名所巡りさっ!まずは地元の人に、名所を聞き込むんだよ!」 ミレア「って、何をしに来とるんじゃ、あんたはぁっ!仕事を忘れるなああぁぁっ!」 フィズ「別に忘れてねぇよ。だから、手分けしてやろうぜ。 俺は少し歩き回って、観光名所を調べてみる。お前は聞き込みをしてくれ。怪我人がいれば、可能な限り保護するようにな」 ミレア「私に仕事を押しつけてサボるな! だいたい、こんな平和そうな町のどこに怪我人がいるってのよ?」 フィズ「転んで膝小僧擦り剥いたガキとか」 ミレア「……保護するの、その子も?」 フィズ「勿論!」 ミレア「………………」 フィズ「じゃあ役割を確認したところで解散な。 なんか、まだ聞きたい事あるか?」 ミレア「いや……疲れるんでもういいです」 フィズ「お〜し、頑張るぞ〜!」 ミレア「お、お〜……」
フィズ「何て事だ。まさか、こんなに悲惨な事になってるなんて……」 エリ「ご主人様、どうしたの?」 フィズ「……そんな誤解を招きそうな呼び方はやめぃ。 また随分と唐突に現れるヤツだな、お前は」 エリ「エリ、さっきからずっといたよ」 フィズ「またかい!」 エリ「秘書だからひっしょり……」 フィズ「はいはい、それはもういいから。 しかし、エリ。ちょっと見てみろよ」 エリ「はにゃ?」 フィズ「ひどいもんだろ。この場所、人っ子の一人もいやしないぜ」 エリ「ここ、どこ?」 フィズ「町の中心地さ」 エリ「ふ〜ん」 フィズ「『ふ〜ん』じゃないだろ!」 エリ「ほえ?」 フィズ「町のど真ん中に立っているにも関わらず、まるっきり人通りがないんだぜ。下手したら、この辺りが最も過疎の進んでいる場所とも見られるくらいだ!まさか、ターミアルがこれ程までに田舎だったなんて……」 エリ「??? え〜と、エリにはよく分からないんだけどぉ……」 フィズ「しかし、何故だ?何故この町はこんなに田舎なんだ?普通にあり得ねぇだろ! フ……ム、これはきっと何か訳があるに違いない!他地区から深刻ないびりを受けているとか……」 女の子「おじちゃん」 フィズ「やはり情報が足りなさすぎる。一度、ミレアと合流してみるか。向こうは何か有力な手がかりが掴めたかも知れないし」 女の子「ねえ」 フィズ「いや待てよ……まずは少し聞き込みをしてみるか」 女の子「おじちゃんてば」 フィズ「………………」 女の子「お・じ・ちゃ・ん」 エリ「は〜い♪」 フィズ「って、お前の事じゃねぇよ、絶対! ……あ〜、しまった!思わず反応してしまった!」 女の子「おじちゃん、何してるの?」 フィズ「じょ、冗談じゃねえ!このフィズ・ライアス一七歳、まだまだおじちゃんなんて呼ばれる覚えはねえぞ」 女の子「……おじちゃん、お話聞いてくれないんだ。 ねぇねぇ、お姉ちゃん」 エリ「どうしたの?」 フィズ「俺はおじちゃんで、エリはお姉ちゃんかよ……」 女の子「話聞いてくれないおじちゃんは黙ってて!」 フィズ「な……このガキ……」 女の子「あのね、おじちゃん」 フィズ「……お兄ちゃんだろ?」 女の子「おじちゃ」 フィズ「俺はお兄ちゃんだ!」 女の子「ううん、やっぱりおじちゃん」 フィズ「……プツン」 エリ「あ、何かキレてる」 フィズ「もう許さん……このガキ! 俺の風魔法で二度と減らず口を叩けないようにしてやらぁ!」 女の子「び……びえええぇぇぇん!」 フィズ「今更泣いたって遅いわぁ! 吹き荒……」 ミレア「……やめんか〜い!(ドスッ!)」 フィズ「げほっ!」 エリ「わ〜、ミレアパンチだ〜!」 ミレア「全く、ちょっと心配になって見に来たらこれなんだから」 フィズ「ミ、ミレア……俺は」 ミレア「言語道断!子供相手に本気で喧嘩するプロの探偵なんて聞いた事がないわ。だいたい子供相手に風魔法はないでしょ、風魔法は!」 女の子「ふえええ……おじちゃんがいじめるよ〜」 フィズ「この期に及んで、まだおじちゃん言うか……」 ミレア「もう!ちょっとあんたは黙ってて。 ゴメンね、お嬢ちゃん。このおじちゃん聞き分けがなくて」 フィズ「お前まで呼ぶんかい」 ミレア「お姉ちゃんがこれあげるから、元気出して」 女の子「……わ〜、チョコレートだぁ」 ミレア「好きなだけ持ってっていいからね」 女の子「ホントに?ありがとう、お姉ちゃん! じゃあ私、もう行くね!」 ミレア「それがいいわ。また怖いおじさんが暴走し出す前にね」 フィズ「………………」 女の子「うん!バイバイ、お姉ちゃん!」 ミレア「バイバ〜イ!」 フィズ「……ミレアやエリはお姉ちゃんで、俺はおじちゃんなんですか。 えらい違いだなぁ。俺達、同い年なのにさ」 ミレア「あんたの場合、頭の中身は十分子供かもね。エリちゃんの事、笑えないわよ」 フィズ「見てくれおっさんで精神年齢ガキんちょ……って、最悪じゃんそれ!ていうか、俺の外見おっさんじゃないし!」 ミレア「小説だと顔が見えないもんね〜。何とでも言えるわよ」 エリ「言える言える〜」 フィズ「本当なんだって!お願いですから信じて下さい、読者の皆さん!」 ミレア「情けない主人公…… ああ、ちなみにね……あの子のお父さんとお母さんなんだけど」 フィズ「ん?」 ミレア「極道の世界の人らしいわよ。 自分の子供が泣かされたなんて知ったら、どうなるのかしら?」 フィズ「ゲッ!嘘だろ?」 ミレア「残念ながら真実よ」 フィズ「あの子は……あの子だけはそっちの世界の人じゃないのか?」 ミレア「運良く外の世界で生きてるらしいわ。 尤も……あの子自身は何も知らないんだって。お父さんもお母さんも、虫も殺さないような人なんだって……心の中で信じてるみたい」 フィズ「虫も殺せないヤクザ?……なら、何とかなりそうかも……」 ミレア「あ、ちなみに本当は虫どころか、素手で熊を倒すらしいわよ。あの娘のお父さん」 フィズ「俺、もう帰る!」 ミレア「駄目。自業自得でしょ、全く。 ちなみにお母さんはもっと強くて、虎をデコピンで倒したとか……」 フィズ「聞きたくない!聞きたくない!」 エリ「決まりね。次回は血で血を洗う闘いが繰り広げられる事になるわ」 フィズ「勝手に決めんなぁっ!」 ミレア「悲観してるところ悪いんだけど、フィズ。 そろそろ仕事のお話をしたいんだけど」 フィズ「……ああ、分かってる。 いつまでも感傷に浸っててもしょうがない。とっとと仕事に移ろう(こうなりゃ現実逃避だ)」 ミレア「で、何か分かった?」 フィズ「この町がスゲエど田舎だって事だけは間違いなさそうだ。 で、そっちは?」 ミレア「……ビックリしないでね。 珍しくこの町を訪れた旅人……道化師がいたらしいのよ。真っ白な顔に紫模様のペイントが施された、そんな道化師がね」 フィズ「ふ〜ん。それで?」 ミレア「いやあの、ちょっとくらいビックリしなさいよ」 フィズ「ややこしいヤツだなあ。ビックリするなって言ったり、しろって言ったり」 ミレア「言葉の文でしょうが! 青紫のピエロと言えば、探偵稼業を営む全ての者にとって、まさに好敵手と呼ぶに相応しい犯罪者じゃない」 フィズ「そうだっけ?」 ミレア「あ〜、もうホントに全然驚いてないし、この人。 こうなったら、私だけでもしっかりして……そろそろあの道化師とも決着をつけないといけないわね」 フィズ「何か大変そうだけど、頑張れよ」 ミレア「他人事みたいに言うなぁっ!」
フィズ「青紫のピエロ。犯罪の裏方を牛耳る者として、ヤツの存在はこの業界で広く知られている。 犯罪を仕組み、あるいは自らが犯罪の発起人となり……ヤツは事件を起こすんだ。素性も素顔も不明。尻尾を掴む事も出来ない。ただ、影だけがそこにある。裏社会の大物の典型だな。 これまで俺はヤツを捉える事にすら手を焼いていた。ヤツはいわば影の存在だ。まるで掴み所がなく、こちらが捜査を始める頃には、すでに雲隠れした後。手際もよろしく、身元証明の類は一切残さない。 今まで、ヤツは俺達探偵を嘲るようにして、数々の犯罪に加担してきたんだ」 ミレア「……そこまで分かっていて、何でビックリしなかったの?」 フィズ「決まってるだろ。この町があまりにもほのぼのしすぎてて、まるで緊張感がないからさ」 ミレア「まあ……確かにね」 フィズ「それに、今の俺にはピエロよりも怖い者がいる」 ミレア「………………」 フィズ「俺がこれからも探偵として生きるために。絶対にこの町から逃げ出さなきゃならねぇ」 ミレア「すでに仕事を見失ってるわね……」 フィズ「いや、忘れてなんかないぜ。とっとと済ませて帰りたいだけさ。 よし、とりあえず適当な家に入ろうか。ごめん下さ〜い」 青年「はい。どちら様でしょうか?」 フィズ「探偵だ。あんた達の援助を依頼されて、ここまで来た。いかなる組織にも属さないはぐれ者ゆえに、出来ることは限られてるが、とりあえず怪我人の手当なら任せてくれ」 青年「……は?」 フィズ「『は?』じゃなくてだな。とにかく怪我人を診せてくれ」 青年「あの、うちには怪我人なんていないんですが」 フィズ「何だって!誰かいないのか?ほら例えば、もう手の施しようがないかも知れないくらいの重傷を負った弟さんとかさ」 青年「確かに弟はおりますが……すこぶる元気にしております。今朝はご飯を五杯もお代わりしていました」 フィズ「そいつは参ったな……」 ミレア「どうするの?フィズ」 フィズ「……方法は一つしかないさ。怪我人がいないならば、作ればいいんだ」 ミレア「はい?」 フィズ「というわけで、そこの青年さん。ちょっくら覚悟してもらうぜ!」 青年「ひっ!な、何を……」 フィズ「とりあえず風魔法を一発かましてから話を進める」 青年「か、勘弁して下さい!金目の物ならお渡ししますから、どうぞお引き取り下さい!」 フィズ「おいおい、参ったな。あくまでこいつは仕事なんだ。俺にとっても、こなすべき義務ってやつなんだから……こんなに下手に出られちゃかえって背筋がむずがゆくなる」 ミレア「あんた……言ってる事が無茶苦茶すぎ」 フィズ「ったく。ほら、頭を上げな」 青年「お引き取り下さるんですね!」 フィズ「最初からそう言ってるぜ」 ミレア「言ってないし……」 青年「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません」 ミレア「この人も、言ってる事かなり滅茶苦茶……」 フィズ「それじゃあ達者でな」 青年「は、はい!(バタン!)」 エリ「すごい勢いでドア閉めてる……よっぽどご主人様が怖かったんだね」 ミレア「あんた、もう探偵から強盗に転職した方がいいんじゃない?」 フィズ「いや〜、人助けした後って気持ちがいいなぁ」 ミレア・エリ『今ののどこが人助け?』 フィズ「……よし。 今日の仕事はこれくらいでいいだろう。今日も一日よく働いたもんだ」 ミレア「確かに……悪事は沢山働いてたわね」 フィズ「さて。じゃあそろそろ陽も落ちてきたし、今夜の宿を探そうぜ」
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