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| これは未来の世界の物語です。時間という次元の研究が進められた結果、人がタイムマシンを持つことができるようになった時代……としておきましょう。 この時代のクリスマスの風景も、今とはあまり変わらないようです。クリスマスの到来を楽しみにしている人がいる一方では、不満を抱いている人もいるみたいですよ。
 
 第五話 クリスマスなんてだいっきらいだ!
 
 俺は突然付き合っていた彼女から別れを告げられた。ひどく一方的な別れ方だった。
 
 あれから数日が過ぎたが、俺の心の傷は未だに癒えていない。
 
 そんな俺にとって、クリスマスという名のイベントは、ただただ煩わしいものでしかなかった。
 
 街に出ると、どこを見回してもカップルばかり。どいつもこいつも幸せそうな面しやがって。本当に腹が立ってくる。
 
 クリスマスなんてなくなっちまえばいいのに。どこのどいつだ?こんな日をを作ったのは!
 
 とことんネガティブな感情にとらわれそうになった……その時。俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
 
 クリスマスとは神の子イエスの誕生を祝う行事だ。ならば……もしもイエスが神の子ではなく普通の子どもだったとしたらどうなる?
 
 ……そうだ、この世界からクリスマスは消えてなくなることになる。これは我ながら名案だ。
 
 思いついたら即実行。俺は、タイムマシンに乗って2005年前の世界へと向かった。
 
 
 
 今俺がいるのは2005年前のベツヘレム。イエスが誕生したとされる馬屋だ。
 
 俺の眼前には生を受けたばかりの幼子がいる。イエス・キリストだ。
 
 この赤子が、後々の世にまで名を残す事となるとは……しかし、彼さえいなければクリスマスは存在しない。
 
 俺は赤ん坊のイエスを抱き上げた。代わりに、自分の時代から連れてきた赤ん坊を元の場所へと戻す。そう、子どもをすり替えてしまうわけだ。
 
 これで、俺の時代からはクリスマスが消えてなくなる。俺は一人ほくそ笑んだ。
 
 
 
 ……元の時代に戻った俺は、自らの考えがまだまだ甘かった事を思い知らされた。
 
 聖人と歌われし人はキリストだけではなかったのだ。
 
 ああ……今年も、釈迦の誕生を祝う、仏陀マスがやってくる。
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