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聖なる夜の贈り物 2005 作者:殻鎖希

第3回   難しい質問
 ホワイトクリスマスという言葉がありますね。しんしんと降り注ぐ雪の中で迎える聖夜とは、何とも厳かなものです。
 私の住んでいる地域では雪が降らないので、ホワイトクリスマスというものをほとんど体験した事がないんですよね。あまりに雪が降りすぎるというのも迷惑な話ですが、逆に雪が全く降らないというのも、なかなか寂しい話です……



第二話 難しい質問

 学活の時間を利用して、十二月二十四日に行われるクリスマス会についての話し合いをしていた時の事だった。

「せんせ〜い」

 元気の良い男子生徒の声を耳にして、私はチョークを動かす手を休めた。

「何かな?祐樹(ゆうき)」

 子ども達の方へと振り返り、起立をしている生徒に声をかける。

 小学校一年生の子どもと言えば、まさに好奇心が服を着て歩いているようなものだ。どんな些細な事にでも興味を持って、我々教師に質問をぶつけてくる。無邪気な彼らに精一杯答えを返してやる事も、教師の務めである。

 その生徒……祐樹は心底から不思議であるといった風に、私にこんな事を訊ねた。

「ねえ、せんせい。サンタさんって、どうしてこんなにあつそうなかっこうをしてるの?」

「………………」

 私は、暫し黙考させられた。

 子どもはいつもこうやって大人を困らせる。何とも説明のしがたい質問を平気で投げかけてくる。

 果たして何と答えれば良いだろう?

「……クーラーの効きすぎているおうちもあるからね。そういうおうちに入る時に、風邪を引かないように、サンタさんは厚着をしているんだよ」

「な〜んだ。そうなんだ〜」

 私が説明すると、祐樹は納得した様子で大きく頷き、椅子に腰掛けた。



 ……説明したところで分かるはずもない。昔の日本には四季というものがあって、十二月になると雪が降る事もあったなどという話は。

 地球温暖化が深刻化し、日本が常夏の国となって数十年。今の子ども達は、春の桜も、秋の紅葉も、そして勿論、冬の雪も知らないのだから。

 ……それにしても、今日は随分と暑いな。

 私は、無言でクーラーの温度を下げた。

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