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I Wish・・・ 作者:殻鎖希

第1回   第一話 飛鳥の道
 ふと、思うことがある。
 自分はどんな道を歩いてきたのだろう。今自分の歩く道に意味はあるのだろうか。そしてこれから自分はどんな道を歩いていくのだろう。誰と共に歩いていきたいと思うのだろう。
 望むこと……それは全ての起源である。
 I Wish・・・

 耳の奥に木霊する旋律。煩くもなくそれでいて朝の静寂を破るには十分なその音に揺り起こされ、飛鳥(あすか)は目を覚ました。
「う〜ん……」
 寝ぼけ眼で時計に目を移す。
「まだこんな時間かよ……」
 飛鳥は叩きつけるようにして目覚ましを手放した。今は夏休み中であるし、惰眠を貪っていても文句は言われないだろう。
 再びベッドの上に身を横たえる。だが、そこで飛鳥はあることを思い出した。
(……いけね、約束あったんだっけ)
 靄のかかったような記憶を呼び起こす。そう、確か今日は人と会う約束をしていたはずだ。
 まどろみを振り払うように頭を振って大きく伸びをすると、飛鳥はベッドから立ち上がった。

 チェンジレバーをRに入れ、不慣れな手つきでハンドルを操作する。教習所で一通りのことは学んでいたが、バックだけはどうにも慣れることができない。
 かろうじて白線の枠内に納まった車体を一瞥して嘆息を漏らし、飛鳥は時間を確認する。
(よし……行くか)
 飛鳥は待ち合わせの場所へと足を運んだ。
 歩を進めつつ、飛鳥はぼんやりと考えごとをしていた。いくら考えたところで答えは見えてこない。それでも飛鳥は考え続けていた。
(俺は……)
 脳裏に蘇るのは一つの記憶。あまりにも突然に訪れた一つの別れ。
 恋人との決別。今更取り立てて騒ぐことでもない。近い内にそんな日が来るだろう……しばらく前から飛鳥自身が悟っていたことだ。
 待ち合わせの場所に到着する。まだ、相手らしき人の姿は見受けられない。
 手近な所に腰を下ろし、飛鳥は再び嘆息を漏らす。
 別に日々の生活に不満があるわけではない。大学にも無事合格できたし、志を同じくする友とも出会えた。今のところ、何とか成績も落ちこぼれてはいない。
 毎日を楽しく過ごしてはいる。しかし、その一方で飛鳥は疑問を抱かずにはいられなかった。
(本当にこれでいいのか?本当に、これが俺の望んだことなのか?)
 自らを嘲笑するように苦笑いをし、飛鳥は面を上げた。
 その時、飛鳥は初めて気付いた。一人の少女が自分の方に歩み寄ってきていることに。
「ん……」
 呆けたような表情のまま、飛鳥はその少女に視線を向ける。
 飛鳥の前で立ち止まり、少女はその歩みを止めた。
「あの」
 声を発する少女。
「飛鳥さん、ですか?」
 自分の名を呼ばれ、飛鳥は首肯する。
「やっぱり」
 少女は相好を崩す。
(あ、そうか……)
 その頃になって。飛鳥もようやく少女の正体を察することができた。
 そう、この少女こそ、自分が今日待ち合わせをしていた相手……
「瀬奈(せな)、か?」
「はい!」
 飛鳥の問いに少女、瀬奈は元気の良い声で返事をする。その声に懐かしさを覚え……飛鳥はどこか寂しそうな笑顔を見せた。

 飛鳥と瀬奈の邂逅……それは全く別々の場所を通っていた二つの道が重なり合った瞬間だった。
 そして、二人は新たなる道を共に歩み始める。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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