5 一通りの調査を終えた俺達はマスタールームへと場所を移し、見つかった手がかりを元に考えをまとめる事にした。 教官部屋を調べてみて、新たに分かった事が一つ。それは事件を解く上で大きな助けとなるものだった。 何かあるんじゃないかと思って調べてみたんだが、まさかこんな露骨な形で手がかりが見つかるとは思わなかったな。 「調査の結果、何か新たに判明した事はあったのか?フィズ、そしてミレアよ」 マスターの言葉に首肯する俺とミレア。 「教官部屋からなくなっていた物は二つある。一つは輝きの剣。 そしてもう一つは……過去におけるスクールでの事件記録」 そう。俺達が目を皿にして探し回っても見つからなかった物がもう一つだけあった。いこれまでにスクール内で起きた事件が記された調書……そいつがごっそりとなくなっていたんだ。 マスターがスクールを創立して、一五年の月日が流れている。その間ずっと平穏無事であるほど、スクールという場所も治安が良いわけではなかったって事だ。生徒同士の小競り合いの発展なんかはまだ可愛いもので、事件の中には伝説の男の首を狙った刺客がやって来たなんて事もあったらしいぜ。 今回、その記録が消失した……という事は、つまりその中に今回の事件の鍵となる何らかの情報があった、と見る事が出来るだろう。 「犯人はマスターの名を騙り、依頼状を俺に渡した。そうして俺をここに呼び寄せたんだ。 さらに奴は、俺が到着した日の夜を見計らって騒ぎを起こす。その機に乗じて、二つの物を盗み出したってわけさ」 今一つ分からないのは、その犯人の姿がこの俺と瓜二つだったって事だが……決して説明のつけられない話でもない。こいつに関しては想像の域を出ないがな。 「つまり、犯人の本当の狙いは輝きの剣と事件記録にあったのね」 ミレアの台詞に俺は頷く。 「俺がオヤジから輝きの剣を譲り受けてから、まだそれほどは経っていない。あの剣の存在を知る者もある程度限られてくるはずだ……」 そこで俺はふと言葉を切る。 輝きの剣で一つ思い出した事があった。あの依頼状の文面についてだ。 俺はその事をマスターに話した。 「マスター。実は、今回俺に届けられた依頼状の中に、ある人物の名が書かれていたんだ。シギ……あの青紫のピエロの名がな」 「死戯の事が?」 彼らしからぬ様子で、目を丸くするマスター。 「ああ。どうやらこの事件、前の卒業試験場での闘いと関係があるらしい」 「ム……」 マスターは眉をひそめる。 マスターの困惑もよく分かる。かつて世間を騒がせていた大物の犯罪者、青紫のピエロことシギ……マスターとは浅からぬ因縁を持つあの道化師は、しかしながら完全に死んだはずだ。止めを刺したこの俺自身が言うんだから、間違いはない。全てはあの時に終わったんだ。 あれ以来、久しくピエロの名を聞く事もなくなっていたが、今この事件において奴が関わってくるとは…… 「なくなった輝きの剣にスクールの事件記録。そして依頼状に書かれたシギの名、か」 三つのキーワードが俺の頭の中で渦を巻き、ある一つの考えに収束しようとしている。 今回の事件が、かつてスクールの卒業試験場で行われたシギとの闘いと関わりがある事は最早明確だ。そうなると、犯人が次に打つ手もある程度は読めてくる。 手の内が読めるならば、次に行うべき事も自然と限られてくるな。 「どうする?フィズ」 確認するように、ミレアが俺の顔を覗き込んでくる。どうやら相棒も、俺の意図を察してくれているらしい。 「……そうだな。今まで散々コケにされた礼もある。今度は一つ、俺達が罠を仕掛けるとするか」 すでに俺の中で考えはまとめられている。 この事件はまだ終わっちゃいない。これからが大詰め……犯人の行動を逆手に取る事が出来る絶好の機会ってわけだ。このチャンス、決して逃しはしないぜ。 「二人とも協力してほしい事がある。俺の考えが正しければ、この事件はそう遠くない内に解決するはずだ」
陽が沈み、月が夜空に輝く頃。満天の星空の元、佇む一人の男がいた。 男はようやく聞き取れる程の小さな声で一言呟く。 「沈め」 男の声に呼応し、彼の眼前にある大地が崩れ落ちる。 あれは確か……《沈み行く大地の嘆き》と呼ばれる地魔法だ。土を沈殿させる事の出来る魔法で、何かの作業で穴を掘る際や戦闘で相手の不意を突く時によく用いられる。魔法を発動させてもほとんど音が生じないといった一風変わった特質も持っている。 地にぽっかりと空いた穴の中を一瞥し、男は口元をほころばせた。 「あったぞ……これに間違いない。これをご覧になれば呪翁様もお喜びになられる」 微かではあったが、男の声は俺の耳にも届いていた。やはりこの事件、裏で暗躍している輩がいるようだ。 ま、とりあえずは……こいつを捕まえて話を聞くしかない。 俺は腰の剣を抜き、ゆっくりと相手に悟られぬように距離を縮めた。 背後に立ち、剣を突きつける。 「……動くな」 俺の言葉に男は肩を震わせる。 「貴様……ライアスか?何をするつもりだ?」 「すっとぼけたって無駄だぜ。あんたなんだろ、スクールで起こった今回の事件の犯人は」 喋りながらも俺は油断する事なく、彼の動きに注意を配る。 「最初から睨んでたんだ、このスクールの中に犯人がいるって事はな。 犯行の手口や手際の良さ、どれを取っても内部の人間の仕業と考えるのが自然ってもんさ」 「……なかなかに面白い事を言うものだな、ライアス。自身の罪をこの私になすりつけようとは」 皮肉めいた口調でいけしゃあしゃあと男はそう言ってのけた。 「おいおい、こうしてあんたの犯行の現場を取り押さえてるんだぜ。どう言い訳しようが、逃れられはしねえよ。それにさっきあんたが嘯いてたあの台詞……」 「その事を知るのは貴様だけだろう」 刃物を突きつけられながらも、男にはまだ余裕があった。ミレアやマスターの姿がない事から相手は俺一人と高をくくってるんだろう。 確かにこの場にはミレアもマスターもいない。しかし……ここにいるのは決して俺一人ではない。 俺は今ここにいる三人目の人物に声をかけた。 「出てきな、ヘルゼーラ」 「何?」 動揺の色を見せる男。 俺の指示に従い、建物の陰よりヘルゼーラが姿を現した。 「残念だったな。俺もあんたが取るであろう行動はある程度読んでいたってわけさ。 ここを含めたある二つの場所を、信の置ける連中の手を借りて、こうして張り込ませてもらってたんだ。近い内、あんたは必ず何らかの手を打つ、俺達はそう確信していた」 「……何故分かった?私が動くと」 男が俺に問いかける。それは犯人の自白と呼ぶに等しい言葉でもあった。 「単純な事だよ。俺がこうして自由に出歩けるようになっちまったからさ。 あんたが今回の事件を起こす上で、最も邪魔になる存在が探偵……つまりこの俺だった。だからあんたは真っ先にこの俺に容疑をかけ、俺を折檻部屋にぶち込んだ。俺が容疑者という事になれば、俺以外への捜査の手も和らぐ上に、探偵の行動を封じる事も可能になる。皆の目が俺に向いている内に、あんたは次なる犯行に手を染める事ができたはずだったんだ。 思いの外早く、俺が折檻部屋から出た事はあんたにとってもとんだ計算違いだったわけだ。そうだろう……」 一呼吸ほど間を置いて、俺は男……この事件の犯人の名を口にした。 「違うかい?ハル・アニタ先生よ」 名を呼ばれ、アニタはぴくりと眉を動かす。だが、それ以上特に言葉を発しようとはしなかった。 俺はさらに口を開く。 「俺が本格的に動き出す前にあんたはしなければならない事があった。そうだよな?これほどにまでに手の込んだ犯行を行い、俺を捕らえておいてまでにしなければならなかった事だ……よっぽど大事だったんだろうよ」 今し方、アニタが魔法によって空けた穴に俺は視線を移す。 スクールの事件記録と輝きの剣。二つを繋ぐ最後のキーワードはこの穴の奥底に眠っている。そしてそれこそが、この男が成さなければならなかった最後の犯行でもあったんだ。 その犯行とは…… 「青紫のピエロと呼ばれた犯罪者、シギの墓を暴く事。これがあんたにとっての一番の目的だったってわけだよな」 「何もかもお見通しか」 どこか呆れたように溜め息を吐くアニタ。 「そうでもないさ。シギが関係しているってのは見抜いてたが、あんたが具体的にどこで行動を起こすのかまでは絞り込めなかった。だから俺達は二手に分かれたんだ。先の事件の舞台となった卒業試験場には、ミレアとマスターがいるはずだぜ」 気を抜かぬまま、俺はヘルゼーラに目配せを送る。それを確認したヘルゼーラは一つ頷くと、スクールの校内へと駆けて行った。 よし、これで応援も呼べるだろう。後は俺を散々コケにしてくれたこの男をどうするかだが……とりあえずは聞くべき事があるな。 話を聞く前に危なく飛び出しそうになった拳を何とか抑え、俺はアニタに視線を戻す。 「さて……あんたとはもう少しお話をしたいところなんだがね。 まず一つは、教官部屋で大暴れしたって言うこの俺の偽物を作り上げた方法についてだ」 「偽物だと?」 俺の台詞にアニタは嘲笑する。 「何が可笑しい?」 「少しは頭も切れるものと感心したのだがな。分からぬなら、所詮は貴様も青二才よ」 それはまさに突然の出来事だった。アニタが口を閉ざすや否や、俺の背後に蠢く気配が生じる。 何かいる! 訝しがる暇もなかった。アニタを突き飛ばし、俺はさっと横に跳ぶ。 倒れ込みながらもアニタはなおも笑みを崩そうとはしない。 「貴様風情が偽物呼ばわり出来る存在ではないのだよ。そこに立つ物こそ、まさに人知を超えし生物なのだ!」 人知を超えた生物……やっぱり魔物の類って事なのかよ。 さっと身を翻し、俺は剣を構えてその相手を見据えた。 次の瞬間、背筋にぞっと寒気が走る。 俺の眼前に立つ者……それはまさにこの俺自身だったんだ。成程、こいつは偽物なんて レベルのもんじゃない。まるで完全な生き写しだ。 「魔物の事は貴様も知っていよう。 そこに立つ物は、コピーマンと呼ばれている。今でこそ人の姿を取っているが、元々はゼリーの様な体型をしていてね。一見しただけで相手の容姿や体技、能力の全てを複製する技術を備えた超生物なのだ。 貴様がスクールに着いて早々に起こした騒ぎの時に、貴様の情報は全てコピーさせた。あの騒動は私にとっては幸運の出来事だったのだ」 「それで、こいつに教官部屋を襲撃させたってわけかよ……」 全く……ぞっとしない話だぜ。狂ってやがるとしか言い様がない。 「達人が何十年という歳月をかけて会得した業をも、こいつは一瞬にして体得する事が出来る。素晴らしいとは思わないかね?」 立ち上がり、破顔するアニタ。そこには最早教師の姿は見受けられない。そこにいるのは、狂気に駆られた一人の哀れな男に過ぎなかった。 「お生憎様。楽して手に入る力なんざ、ろくなもんがねえんだよ」 頭を振り、軽口を叩く。この男の言い分を認めるなんざ、天地がひっくり返ったとしてもお断りだ。 「愚かな所は昔から変わらんな。魔物の価値が理解出来ぬとは……」 「ふざけんな。こいつはれっきとした生命に対する冒涜だ」 吐き捨てるように、俺はアニタの言葉を否定する。 「いいだろう。では身を持って試してみるといい。貴様とこのコピーマンとでは、どちらがより優れた生物なのかという事をな。 抜け、コピーマン」 アニタの指示を受け、俺と瓜二つの容貌をしたその魔物は剣を抜いた。 闇の中、星の僅かな光を受けて敵の刃が煌々と輝く。 間違いない。その輝きにその刀身は……俺の輝きの剣! 「コピーマンが相手であれば心配もないと思うが、その剣は鬼蒼様に献上する品だ。傷などをつけぬようにな」 「キソウ?それがあんたの黒幕なのか? さっきはジュオウ様が喜ぶだの何だのって言ってたようだが……」 「貴様の知った事ではない。 どちらにせよ、貴様が鬼蒼様や呪翁様のお顔を拝む機会など二度と訪れぬ。貴様が拝むのは、地獄の門番の面構えよ」 俺の問いにアニタはまともに答えようともしなかった。 この男、端から他人を見下してやがる。俺が一番嫌いなタイプの人間だ。こういう輩にはきつく灸を据えてやらないとな。 俺はマスターから渡された剣をしっかりと握りしめた。 「魔物もあんたも両方とも倒してやるさ。そして輝きの剣は返してもらう」 「コピーマンを倒すだと?出来るものならやってみるといい。 さぁ、フィズ・ライアスを殺すのだ、コピーマンよ!」 アニタの叫びに呼応し、俺の目の前に立つもう一人の俺もまたジュエルの剣を構える。 そして……死闘が始まった。これまでに体験した事のなかった、自分との闘いが。
6 まずは素早く構成を練り、魔法を発動させる。 「包め!」 《具を包む真空の矛》を発動させ、剣を風の力でコーティングする。流石に輝きの剣を相手にするにはこの剣だけじゃあ役不足。尤も、風魔法の力を借りたとしても互角とはいかないかも知れないが…… 風の剣を携え、俺はコピーマンとの距離を一気に詰めた。 大きく剣を振りかぶる……と見せかけて、 「こっちだ!」 相手の懐目がけて、蹴りを放った。 だが、相手の剣によって軽々と受け流されてしまう。 返す刀で、今度は向こうから斬りつけられる。 「くっ……」 間一髪のところで、かろうじて俺は刃を受け止めた。あと一歩遅ければ、俺の肩口からは鮮血が噴き出していただろう。 鍔迫り合いの状態がしばし続く。力も技も全く同じであるのか……俺も相手も互いに譲る事はない。 ならば……これでどうだ! 「弾けろ!」 俺の叫びに応じて、剣を纏っていた風の力が一気に外に放出される。《具を包む真空の矛》の派生魔法の一つだ。 流石にこれを防ぐ事は出来なかったのか、コピーマンは大きく後ろに吹っ飛んだ。 すかさず追撃をかけようと、俺は手早く魔法の構成を編んだ。 だが……俺の詠唱が終わるよりも遙かに早く、敵が発動したであろう風魔法が俺に向かって迫り来る。 「なっ!」 身体を捻るが完全には避けきれず、竜巻が左腕を掠めていく。 「……チッ」 激痛と共に溢れ出す血に、俺は思わず片膝をついた。 今の魔法は《吹き荒ぶ真空の刃》。俺の十八番だ。俺の技を完全に模倣しているのであれば使えたとして当然だろうが、今の奴の魔法には構成を編む時間はおろか、魔法の力を具現化させるための声すらもなかった。 「魔物という生物には特徴がある。魔法を用いる際に全く詠唱を必要としないのだ。魔物はあたかも手足を動かすかのごとく、魔法を繰る事が出来る」 俺の後ろから、懇切ご丁寧にアニタが説明を入れてくれる。 「そのコピーマンは、さらに声を発する事なく魔法の力を具現化させられる。 人間が遠く及ばぬ存在であるという事が分かったかね」 アニタの言葉に俺は唇を噛みしめた。 造られし者の特権ってわけか……何から何までふざけた話だ。 「己の無力さを嘆きながら死にゆくがいい。 かかれ、コピーマン」 よろよろと立ち上がる俺の元に、コピーマンが駆けてくる。 コピーマンの繰り出す突きをかわした俺だったが、続く横薙ぎの攻撃をまともに受けてしまう。 衣服が破れ、俺の胸が血潮に染まる。 よろけそうになる俺だったが、今度は何とか膝をつかずに済んだ。しかしながら、流石に輝きの剣のダメージは馬鹿にならない。これ以上に攻撃を喰らえば、おそらくは命に関わるだろう。 「勝負あったようだな」 もう俺に闘う力はないと判断したのだろう。勝ちを確信したアニタが俺にあざけりの言葉を投げかけてくる。 だが……俺は一つの勝機を見出していた。 「ああ、そのようだ。 この勝負は……俺の勝ちだな」 「意地を張るのはよせ」 嘆息するアニタ。どうやら、俺の台詞を負け惜しみと解釈したらしい。 「腕と胸に深手を負った貴様に何が出来る?最早剣を満足に握る事も出来まい」 「確かにな」 胸にべっとりとついた血を拭う。傷は決して浅くはない。 闘いを長引かせるわけにはいかない……早く決めさせてもらうぞ。 俺はキッと目の前の敵、コピーマンを見据えた。 「だが、俺は負けない」 「強がりもここまで来ると聞き苦しいな。 いいだろう。殺してしまうがいい、コピーマンよ」 アニタの命を受け、コピーマンは輝きの剣を振りかぶった。止めを刺すってところだろうか。 だが、そう易々とこの命をくれてやるわけにはいかない! 俺は自らの剣を捨て、素手で構えを取った。 一切の手加減もなく、コピーマンは攻撃を繰り出した。 俺の頭上に刃が振り下ろされるその刹那。 「……ここだ!」 両の掌で、俺は敵の刃を受け止めた。 間髪入れず、俺は渾身の蹴りを放つ。今度こそ、俺の脚は相手の鳩尾へと綺麗に入る。 その場にうずくまるコピーマン。その手から取り落とされた輝きの剣を、俺は右の手で拾い上げた。 「白刃取りだと?東国に伝わるその技を……貴様、どこで覚えたというのだ?」 一瞬の逆転劇を目の当たりにして、驚愕に目を見開くアニタ。 「別にどっかで覚えたわけでもないさ。ただ、相手の剣を見切って受け止めただけだよ。 分からなかったのかい?自分の剣術ほど先が読みやすいものはない。 それに……」 俺はうずくまる自分のコピーの前に、朱に染まった左手を掲げた。 「こいつは剣に頼りすぎていた。輝きの剣の強さに見惚れたのかね……剣に振り回されて闘っていたんだよ」 かつて魔法が使えなかった頃の俺のようにな。俺は心の内でそう付け加える。 力も技も同等であったかも知れない、けれども、この魔物には心がなかった。剣に対する心の持ち様の差が、はっきりとこの勝負にも表れていたんだ。 「そんな剣じゃ、ソードレボリューションの道には程遠いぜ」 頭の中で素早く詠唱を整え、俺はこの魔物の顔……自分自身の顔を見下ろした。 魔物には表情がなかった。あるいは、抵抗する素振りすら見せない。 ほんの一瞬、躊躇いの念が頭をよぎったが、俺はそいつを即座に振り払った。 魔物をのさばらせておくわけにはいかないんだ。魔物自身に恨みはないが……手を緩めるわけにもいかない。 空気を震わせ、俺は吼えた。 「吹き荒べ!」 腕を振り下ろし、竜巻を発生させる。 一切の手加減のない《吹き荒ぶ真空の刃》を受け、コピーマンは大きく仰け反った。しばらくの間、藻掻く様な仕草を見せていた魔物であったが、やがてピクリとも動かなくなる。 また……次に生まれ変わる時には、平和な地に生を受け、幸せに生きてくれ。 滅びゆく魔物を前に、俺は心の中でそう願った。
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