戦場。それは、人の命があまりにも無惨に、そして理不尽に失われていく場所です。数多の屍の果てに勝利を得たとしても、その勝利にどれ程の意味があると言うのでしょうか。そして、戦場に立つ兵士達は今際の際に一体何を思うのでしょうか。 これからお話するのも、ある一つの戦場で死地に赴く戦士達の嘆き……そして葛藤を描いた物語です。
第七話 捨て駒の兵士達
耳を劈いた断末魔の叫びは、しかしながらあまりにも呆気なく、儚いものであった。
あれは俺の前に待機していた奴の声だ。奴は死んだ。そして、次は……俺が闘う番。助かる見込みはほとんどない。
ガタガタと震える俺の肩を、後ろに待機している奴が小突いた。
「ほら、次はお前の番だぞ。早く行け」
こうなっては最早恥もへったくれもない。大きく頭を振り、俺は半狂乱になって叫んだ。
「嫌だっ!俺はまだ死にたくない!」
「我が儘を言うな。死にたくないのは皆一緒なんだ。
それに、必ず死ぬとは限らん。うまくいけば、助かるかも知れんぞ」
「そんなわけないだろう!これまで一体何人が死んだと思ってるんだ!」
あぁ、これが喚かずにはいられるだろうか。この世界では、俺は自分の意思で闘う事すら出来ない。他人の指示に全てを委ね、自分の身体を動かすしかないのだから。
あぁ、ここは何という理不尽な世界なのだ。俺が死んだところで、誰一人として涙を流す者はいない。駒を一機失った、所詮はただそれだけの事なのだから。
必死の抵抗を試みたところで、それが功を奏する筈もなく――遂に俺は戦場に立たされる事になった。もう自分の意思で身体を動かす事も出来ない。どこからともなく、およそ戦場には相応しくない軽快な音楽が聞こえてくる。あぁ、この音楽こそ、まさに黄泉への旅路の案内人となる鎮魂歌に違いない……
「あ〜あ、またやられちゃったよ」
少年はそう言って、手にしていたゲーム機のコントローラーを放り投げた。
モニターには、ジャンプのタイミングを誤り、奈落の底へと落ちていくキャラクターの様子が映し出されている。
「へったくそだなぁ、お前。これでもう残り三機しか残ってないぞ」
横でプレイを眺めていた友人が、見かねた様子で口を挟む。
「分かってるって。次は絶対クリアするから」
「お前の『絶対』はあてにならないっての」
友人の野次にもめげる事なく、少年は床に転がったコントローラーを再び手に取る。
そうして――次なる兵士の、絶望に彩られた闘いが始まった。
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