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聖なる夜の贈り物 2006  作者:殻鎖希

第5回   九九
 さて、次は九九に関するお話です。九九とは、一の位同士をかけ合わせた掛け算の覚え方。皆様も小学生の頃に、「いんいちがに、いんにがに……」と繰り返しながら、九九を覚えたという経験をお持ちなのではないでしょうか。
 しかしながら、九九と言うのは全て暗記してしまえば便利なものですが、覚えるまでが大変なのかも知れません。このお話に登場する生徒達も、九九を覚えるのに随分苦労しているようですね。



第四話 九九

 計算式を目の前にして、カツユキは頭の中が真っ白になっていた。

(ヤバい。忘れた。7×5って……幾つだっけ?)

 数日前に繰り返し覚えたはずなのに、けろりと忘れてしまっている。思い出そうとしても全く頭に浮かんでこない。

 途方に暮れたカツユキは、左横にいるサトシの肩を軽く小突いた。

「オイ。7×5っていくつだったっけ?」

「7×5……?」

 きょとんとして顔つきで、サトシは両手の指を折って数を数え始める。

「ちょっと待てよ……7×5は……22じゃなかったっけ?」

 サトシの答えに、彼の右前に座っていたノブコが呆れ顔でこうぼやく。

「何バカな事言ってんの、あんた?7×5は5の段だから、答えが22になるわけないじゃない。

 さてはあんた、まだ九九を覚えてないのね?」

 鼻で笑うノブコ。小馬鹿にされたサトシはふて腐れた様子でノブコに聞き返す。

「じゃあ、お前分かるのかよ?7×5の答え」

「あったりまえでしょ」

 小振りな胸を自信満々に張って答えるノブコ。

「7×5=45。『しちごよんじゅうご』よ!」

 すかさず、ノブコの右隣の席のケンジから突っ込みが入る――

「35だろ。『しちごさんじゅうご』だよ」



「サトシ、12点……ノブコ、20点……ケンジ、31点……カツユキは、ろ……6点……か」

 採点のし終わったテスト用紙を確認しながら数学教師は一人頭を抱えていた。教育の場というものは変移が激しい。自分が学生時代だった頃の経験や思い出など、役に立たぬ事も多いのだ。

 だが、しかし――いくら時代の流れとは言えど、これはあまりに酷すぎるのではないだろうか。

「はぁ〜〜〜っ………………」

 一際大きな溜め息をつくと、教師は傍らのカップを手に持ち、温くなったブラックコーヒーを一気に飲み干した。その顔に渋面が浮かんだのは決してコーヒーの苦みのためではあるまい。

 頭を抱え、教師はさらに愚痴をこぼし続けたものである。

「高校生なんだからなぁ……いくら何でも九九くらいきちんと覚えてくれよなぁ……」



学力低下の問題は、今年もまた例年にもれず、深刻化の一途を辿っているようだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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