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聖なる夜の贈り物 2006  作者:殻鎖希

第3回   不倫
 世の中には絶対に犯してはならぬ過ちというものがあります。不倫と呼ばれる行為もその一つ。それは最愛の人への裏切りであり、決して許されぬ行為なのではないでしょうか。不義と言えば、昔は大罪に値するものであり、命を奪われる事もあったものですが、今の世の中では随分と規制が緩くなってしまったものです。
 この物語に登場する男も、不倫する事を良しとする自分勝手な考え方を持っているようですよ。どうやら、すっかり開き直ってしまっているようですね。



第二話 不倫

「他に女作って何が悪いってんだよ!」

 男は大声を上げて、目の前のテーブルをひっくり返した。

「俺ぁなぁ……朝から晩まで家庭守るために必死で働いてんだぞぉ!だからなぁ、休日の日くらい、ちょっとくらい羽目外したって構わないだろうがぁ!」

 大仰に両手をぶんぶん振り回しながら、男は喚いた。最早、自分が何を喋っているのかすらも認識出来ていないようだ。

「なにさ!」

 男の剣幕に負けじと、女も大声を張り上げた。

「あんたに寄ってくる女なんか、どうぜ金目当ての尻軽女に決まってんだ!ソープだかキャバクラだか知らないけど、勝手に勘違いして一人色気づいてんじゃないよ。気持ち悪いったらありゃしない!」

「なんだとぉ!」

 一触即発の雰囲気に拍車をかけるようにして、とうとう男は女に掴みかかった。

「何すんのよ!」

 女の張り手が男の顔に飛ぶ。周囲の目も憚らず、二人は取っ組み合いの喧嘩を始めたのだった……



「ちょっとちょっと、喧嘩はいけないよ!」

 人目を憚る事もなく掴み合う二人を見かねたのか、買い物帰りと思しき主婦の一人が止めに入った。

 主婦の仲裁に、二人の子どもはきょとんとした顔つきをしている。

「どうして喧嘩したの?おばちゃんに話してごらんなさい」

 女性がそう訊ねても、二人はただ首を傾げるばかり。何故、自分達が叱られているのか分からないといった様子である。

「ボク達、ママゴトしてただけだよ?ねえ、みよちゃん」

「うん。ケンカなんてしてないよね?」

 顔を見合わせ、心底仲が良さそうに笑う男の子と女の子。その傍らには幼児用の小さなテーブルがひっくり返されており、地面の上にはプラスチック製のコップやお箸が転がっている。

 納得のいかない様子で尚も眉をひそめる主婦に、子ども達は楽しそうにこう話したのである。

「だって、ボクんちのパパ、お仕事から帰ってきたらいつもママに言ってるんだよ。『ほかにおんなつくってなにがわるいんだ!』って」

「そうそう。あたしんちのママもいつも『あんたによってくるおんななんて、かねめあてのしりがるおんなだ〜』って言ってるもん」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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