※この物語はフィクションですが、すだちは実在するスーパーユニットです。今回はすだちの方々に許可を頂き、こうして小説を書かせていただきました。 それでは、すだちの物語をお楽しみ下さい。
暮れなずむ空の下。多くの人々が行き交う街の一角にて。奏でられるギターの音色と共に、その歌が聞こえてくる……
眠れぬ夜が 想い募らせてゆく 降り出した雨 心乱されてしまう 最初からもう 全て知っていたよ 君の瞳に映る誰かの事は 息がつまる 程に愛しい Ah... 言葉にすれば 壊れてしまう もしも願い事が 叶うとしたなら 他には何もいらない 君を抱きしめたい
演奏をしているのは二人組の男だった。サングラスをかけた背の高い男が一人。やや太った体型ではあるが、どこか愛くるしさのある顔立ちをした男がもう一人。 ほとんどの人々は、二人のストリートミュージシャンを見ようとすらしない。それでも彼らは、ただひたすらに歌い続けた。まるで、そうする事が義務であるかのように。 一曲が終わり……満足しきった様子で、男達はギターを爪弾く手を休めた。 彼らは気付いていた。先程から離れたところで自分達をじっと見ている、一人の少年がいる事に。 目を合わせてニッと笑い、少年へと歩み寄る二人。 「え?あの……」 ランドセルを背負った少年は、どうしていいのか分からぬ様子でただおどおどするばかり。 「コラ、ただ見はよくないぞ」 サングラスの男はしゃがみ込んで、少年の頭をグリグリと撫でた。 「何でやねん」 律儀に突っ込みを入れたのは、もう一人の太った男である。 「俺達はお金を貰うためだけに音楽をやってるんじゃないんだぜ」 「まあ、かわいいお客さんに免じて今回はチャラにしときますか」 男はサングラスを少し下げる。その下から見る者を安心させる、人なつっこそうな瞳が現れた。 「俺達はすだちっていうんだ」 「すだち……?」 「おう。俺は豪徳寺康成。で、こっちのオッサンがニャン子」 「コラ。お前もオッサンやろ」 「ホントはもう一人、プッチーっていう仲間がいるんだけど、生憎今日はお休みなんだ」 ニャン子と呼ばれた男の主調をさりげなく無視して、サングラスの男豪徳寺は勝手に話を進める。 「プッチーはすっげえ可愛いぜ。何せ、うちの大事な箱入り娘だからな」 「へえ……」 いつしか少年の顔から戸惑いが消え、その目は爛々した輝きに満たされていた。『俺にもこんな頃があったっけな……』と、豪徳寺はしばし感慨に耽る。 「豪ちゃんよ。もうそろそろ五時になるで」 彼の意識を現実に引き戻したのは、ニャン子の言葉。 「いけね、もうそんな時間か」 豪徳寺は慌てて立ち上がった。 「じゃあな、坊主。今日は聴いてくれてありがとよ」 ギターケースを肩に提げ、二人はその場を立ち去ろうとする。 そこに…… 「待って!」 少年が初めて自ら声をかけてきた。 「あの、次の時には友達連れてきてもいい?」 「勿論!」 振り返らぬまま、答える豪徳寺。 「ありがとう、おじさん!」 「おじ……」 ガクッと倒れそうになる二人。少年のセリフに何やら納得のいかぬものがあったらしいが、ここでいちいち腹を立てていては、それこそ大人げないというものだ。 『すだち!よろしくな!』 半ば投げやりに叫んだ二人の声は、見事にハモったのであった。
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