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〜数時間前〜
日が傾き始める頃、見慣れない客が入店した。
ここ“フィルペル”はレイタム唯一の遠距離通信機のある飲食店だ。それなりに賑わいを見せる店内の一角に、それはある。
平然と、慣れた様子で入ってきたその客は、真っ直ぐにそちらへ足を運んだ。素早く操作し、相手が出るのをしばし待つ。と、
『はいはーい、どちらさん?―って、あれー!?久し振りッスねー!どうされたんッスか?』
目の細い男の顔が浮かび上がった。もちろん、立体映像だ。彼は話しかけてきた客を見ると(見えるのか?)よりいっそう目を細めて、嬉しそうに破顔する。
『試作品?いやー。よくぞ!よくぞ聞いて下さいました!!もうバッチリッスよ。耐久性、持久性――あ、同じようなもんか。えーっと…強度に快適さ!どれを取っても文句なしッス!』
自慢げに熱く語る彼は、客の言葉を聞いて首を傾けた。 『ほえ?そちらに?いいッスけど、何に使うんで?――へえ〜。大変ッスねー。けど、丁度いいや。いろんな環境で実験したかったところなんッスよ。後で感想聞かせて下さいね。明日中には届くと思うッス』 言って、後ろを通った若い男に指示を飛ばす。
『え?ああ、いいッスよー、水臭い。お互い様ですってば〜。――ええ。また来て下さいね?そんじゃ、失礼しまーす…』
ふっと映像が消え、客は店を出た。
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アシュレイさんとのお喋りを切り上げ、私たちも下に下りて行った。
部屋に入ったものの、どうにもウェーアの事が気になって、一人で廊下に出る。
…ドアをノックしても、返事がない。いつもなら、扉の前に立っただけで中から声を掛けられるのに。
「ウェーア?…入るよ?」
一応断って扉を開けた。明かりは点いていないけれど、廊下の光で少しは見える。
「ウェーア?」
後ろ手にドアを閉めて、暗順応した目で部屋を眺める。――椅子にマントと帽子が引っ掛けてあった。ベッドにいる気配はない。気付かないうちに出て行ったのかな? いないんなら、いっか。と、部屋に戻ろうとして――
「何をしている」
「――!?あ…な、なんだ。いたの?びっくりさせないでよぉ」 パタンと、どこか(たぶん風呂場)のドアを閉めて彼が出てきた。そして、ゴソゴソしていたかと思うと、 「“明かりつけろ”」 言っただけで、パッと明かりが灯された。 「それで?何の用だ」 黒いランニングを着た彼は、額に張り付く前髪を払いながら不機嫌な声で尋ねた。 「えっと…外で何かあったのかなって思って…。その、すごく疲れてるみたいだったから、さ。それで、聞こうと思ったんだけど…邪魔したみたいだね。ごめん。――お休み」
とても話をするような雰囲気じゃない。わたしは退散した方がよさそうだ。
「…―――」
「え?」 出て行きかけの所で、ぼそりと何か言われた。よく聞き取れなくて振り返ると、ウェーアは口の端を少しだけ上げて、 「明日は砂漠(ナシブ)を案内できる者を探すからな。…お休み」 「お休み…」
―――パタン
「はー…」
「ふふふふふ…」
「――!?」 心臓が飛び跳ねた。いきなり足元からナギの声がするんだもん。 「な、ナギ?何やって――」
「うふふふふ…」
彼女は壁に当てていたコップを持ってすうっと立ち上がると、不気味な笑いを残して部屋に消えた。
〜こわっ煤i _ ;)〜 ナギ恐っ!! ついに本性現したかって感じですね。うん。書いてる自分も恐かった。
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