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「…―――――」
「――――――――」
「―――ても、 な さね。…にん でさー、人の言葉喋るし」
「ノームは、もしかしたら土の神じゃないですか?」
「かもね」
声がしたんだな。
オイラが誰だっけぇ?って思い出そうとして目を開けると、
「あら、お目覚めのようですよ」
開けた視界に、五人の人間が映ったんだな。 「おはようございます、ノームさん」 銀色の髪をした女の子、ナギが優しそうに微笑んであいさつしてきたんだな。
「うぃ。おはようなんだな。…………なあ〜!?のん気にあいさつなんてしてる場合じゃないんだなぁ!――お前ら、オイラに何したんだな!?なんでオイラ、こんな所にいるんだな!?」
オイラは俄かにハッとして飛び起きた。すると、ズキッて頭のてっぺんが痛んで、そこに手をやると、ポッコリ膨らんでいたんだな。 「ああ、それね。ウェーアがやったんだよ。大丈夫?すっごい痛いよね?」 黒髪のセリナが、水で濡らした布を痛みの熱源にそっと当ててくれた。そのセリナにふと、何か違和感を覚えて、オイラは言ったんだな。
「な?お前、こいつらと何か違うんだな。何で?」 「何でって、わたしに聞かれても…」
オイラがペタンと座って見上げたセリナは、困ったように首を傾げたんだな。 「なになに?セリナお姉様があたい達と違うって、どういうことさ?」 「さあ、どういう事なのでしょうね。――あ、ロウちゃん、私とお水を汲みに行きましょう?温くなっちゃったわ」 ナギが言うと、一番ちっちゃい子は飛んでついて行ったんだな。
二人が水を汲みに行っている間に、セリナが自分達はルニアーパゴスじゃないって事や、ここまでノースに送ってもらったって話をしてくれたんだな。けど、オイラはもちろん信じれなくて、
「嘘なんだな!ノースが人間達を連れてここまで入ってくるはずがないんだな!人間は動物を殺して、自分達のためになる事しかしないんだな!!」
そう言ったら、今までずっと黙っていた絳い目をした男が立ち上がって、こっちに来ながら言ったんだな。 「いい加減にしろ。人間はそんな奴らばかりじゃないんだ。お前も神の端くれなら、少しは理解しよう、と…あっ―――」
男が、急に力が抜けたように膝を付いた。オイラはびっくりして後退りして、セリナは反対にそいつの方に飛び出していったんだな。ついでに、一番でっかい奴も。
「ウェーア!ウェーア、どうしたの?」 「騒ぐな…頭に響く。……すまない」
ここからは良く見えないけれど、セリナの腕に支えられた男はぐったりとしていたんだな。顔色が悪くて、ほっぺただけが異様に赤い。 「ど、どうしよう!すごい熱…。どうしよう、どうしよう!――ウェーア死なないで!!」 「勝手に人を殺すな…」
「どうなさったのですか!?」
その時、ナギとロウが帰って来たんだな。ナギは慌てて駆け寄って、ロウはキョトンとしていた。
「雨が降ってきそうです。どこか、屋根のあるところは…」
でっかいのは、とりあえずそこに座らせた赤目の首やおでこを、濡らした布で冷やした。あれ、オイラにしてくれてたやつなのに…。
「でも、こんな森の中にそんな所―――」
オロオロしていたセリナは突然オイラの方を見て、
「ノームお願い家貸して!!」
そう迫ってきたんだな。 「なっ…!で、でも、そいつは……」 オイラは赤目が簡単にドロギョンを倒した事を思い出して、迷ったんだな。まだ、本当にこいつらがルニアーパゴスじゃないって(ある程度信じ始めたけど)確信してないし、人間にオイラの家を貸す義理はないんだな。
けど結局、泣きそうな顔でセリナにお願いされると、オイラは渋々了解したんだな。
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ウェーアをノームの家に担ぎ込んで、厚い布を重ねた床(ノームのベッドじゃ小さすぎた)に、“大げさだ”って看病を拒む彼を叱って、無理矢理寝かしつけた。 わたしは彼の監視&タオル換え係で、フォウル兄妹はノームの許可を得て、消化のいい物を作っている。ナギはノームと一緒に、ゼルチップと言う薬を採りに行っていて今はいない。
今思えば、今朝からウェーアの様子がおかしかった。いつもより喋らなかったし、声も時々かすれていたし…。体調が悪いのに、あんなに無理してたんだ。
「――――」
不意にウェーアが、呻きとも取れる声で何かを言った。わたしはよく聞こえるように顔を近づけて、もう一度聞き直した。
「水。喉が渇いた」
無理矢理寝かされた事に腹を立てているのか、不機嫌に言った。そんな彼に頷くと、わたしはちょっと待っててと言い置いて、台所へ向かった。 「喉が渇いたって。水でいいかな?」 一応アルミスさんに聞いてみると、温かくて甘い物がいいと言われた。 わたしは鍋(?)にそこら辺にあったミルクっぽいのと、蜂蜜みたいなのを入れて温めた。念のため味見………別に飲めないほどの物ではなかったので、カップに移した。
「熱があるときは、甘くて温かいものがいいんだって。起きれる?」 カップを脇に置いて、起き上がるのを手伝った。少し動くだけでも辛そうだ。小さなベッドを背もたれにした彼は、お礼を言ってそれに口を付けた。
「一応、味見したけど…」 「ん…不味くはない」 「おいしくもない、と?」 「いや」
微妙な返答だったので、どう反応すればいいのかわからない。まー、とりあえずチビチビ飲んでるからいっか。
「ほーい、赤目菌。オルザ作ってやったさ。ありがたーくいただくさね。――セリナお姉様に妙な事したら、熱あっても容赦しないから覚えとくさ」 ロウちゃんがむすっとした顔で湯気の立つスープを持ってきた。ウェーアが鼻で笑って、ロウちゃんにお怒りをもらう。 「食べられそうですか?」 「なんなら、あたいが食べさせてやろうか」 アルミスさんの心配に軽く頷き、ロウちゃんの茶化しに冗談じゃないと返す。
ナギ達はもう少しかかりそうだ。ここから半日もかからないけど、少し遠い所にゼルチップは生息しているらしい。あと、ついでに彼女はワグナー・ケイのことも話してくるって言ってた。
早く帰ってこないかなー。
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