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ノストイ〜帰還物語〜第二部 作者:紫苑璃苑

第30回   Z-9

                     □□□


 「なーっはっはっはっはっはー!!ざまあ見ろなんだな、ルニアーパゴスめぇ!!」


 オイラは机に突っ伏した人間達を代の上から見下ろし、しばらく勝利の高笑いをしていたんだな。
 また前みたいにルニアー達を殺させるわけにはいかないんだな。オイラの作った罠や“幸福の花”から脱出したのは予想外だったけど、何とか上手くいってよかったんだな。

「さあぁぁてと、こいつらを〜縛り上げてーっとぉ……どうしようかなぁ〜?外に吊るそうか〜、エサにでもしようかなぁ〜」
オイラがあれこれ考えながら長い縄を用意していると、

「エサは勘弁してもらいたいなー」

不意にセリナって言う子の声がしたんだな。

 そして、次々に立ち上がる影達。
 オイラの手作り眠り花粉入りのお茶を飲んだはずなのに、この人間達は何事もなかったかのように平然と立っていたんだな。

「なあ〜!?なんで!!そそそそそんなはずはないんだな!何であれを飲んでもへーきなんだな!?」
「へへへ…実はこの天才的な鼻を持つロウ様が、敏感に危険を嗅ぎ取って――」
「ロウ、嘘は良くないよ?」
一番小さい子が踏ん反り返って言い始めたところを、一番大っきい人間が止めたんだな。

「ごめんなさい。最初にアルミスさんとウェーアさんが言い出したのです。それで、全員で手分けをしてノームさんのお家の中をあさらせて頂きました」
「そんで、この眠り花粉入りのお茶っ葉が出てきたって訳なのさ」
銀髪のナギが詫びを入れると、ロウは眠り茶の入ったビンを取り出したんだな。
「ど、どどどどこ、どの辺からオイラが――」
「ま、言ってしまえば、お前が姿を現した時から怪しいと思っていた」
今までの計画がみーんなバレてたと知ってうろた狼狽えると、赤眼の…男が呆れたような、嘲るような顔をして言ったんだな。

 くっそぅ、不覚なんだな!どーしてバレたんだろ?オイラの計画はカンペキだったはずなのにぃぃ!!よおぉし、こうなったら………

「ねえ、何で私たちにこんな事をしようとしたのか教えてくれない?私たち、あなたに危害を加えようとしてここに来た訳じゃな―――」

さも優しげに話し掛けてきたセリナの言葉を、重々しい騒音が遮った。続いて沸き起こる驚愕の悲鳴に、オイラはニンマリしたんだな。

「なーっはっはっはっはぁ!上手くいったんだな!“どこでもできる家庭的で簡単な罠百科!!”これでもう、外に出ることはできないんだな、ルニアーパゴス!!」

 パゴス達の周りには、鉄の檻が落とされていたんだな。実はオイラ、こいつらを縛るために用意していた縄と一緒に、鉄檻を降ろす為の縄も一緒に持ってたんだな!
「これは…簡単でも、家庭的でもないだろ…」
赤眼の男がボソリと呟いたけど、あえて無視してオイラは胸を張って言ったんだな。

「これでもう、悪さはできないんだな!!」

「ちょ、ちょっと待って!どういう事なの?私たち、まだ何にもしてないよ?」
「俺たちはファタムの動物を狩りに来た訳ではない」
「ルニアーパゴス(動物食い人)などではありません!」
「赤目菌はいいとして、なんであたい達をこんな目に遭わせるのさ〜!出せー!!」
とか何とか喚き散らしてきたけど、オイラはまた無視をして外に出る梯子に手を掛けたんだな。

「じゃ、オイラが戻ってくるまでおとなしくしてるんだな。そうは言っても、暴れられないだろうけどね。ニャハハッ!!」

 オイラはこいつらが出られない事に安心して、いつもの見回りに出かけようとした。けど、そこを赤眼の男が引き留めたんだな。オイラはむっとしながらも振り返って、男の質問を辺に思いながらも、答えてやったんだな。
 男はこう言ったんだな。

「ちなみに、どろぎょんとか言う奴は、生き物なのか?」
「どろぎょんはオイラの作った人形なんだな。オイラの言う通りに動くけど、生き物じゃあないんだな」

                      □□□


 ノームが出て行った後、自分達はどうしようかと考えていた。
 まさか、こんな罠まで用意してあるとは思わなかった。

「まぁ、まずはここから出なきゃな。捕まえて逃げないようにしてからでないと、話も聞いてくれそうにない」
ウェーアさんが言うと、
「だから、どーやってここから出るって言うのさ!!」
当然のごとく、ロウが噛み付く。けど、今回は正当な意見だ。全員で力を合わせても、これをどかす事はできそうにない。
「ああ、それなら任せておけ。――できる限り退ってろ」
そう言うとウェーアさんは、すらりと抜刀した。まさか、それでこの鉄の檻を切ろうとでも言うのか。
「何をするおつもりですか?いくらその剣とはいえ、鉄は…」
「まあ見てろって」
心配したナギさんの言葉を遮って、彼は自信満々に宣言し、赤みを帯びた長剣を横に構える。そして――

「――う、そさ…」

 それは一瞬の出来事だった。
 ウェーアさんの剣が風を切って二度、閃(ひらめ)いたと思ったら、次には乾いた音を立ててそこそこ太い鉄の棒がきれいに切断されていた。
「ん?どうした、出たくないのか?」
自分たちが唖然としていると、何事もなかったかのように檻から出た彼が振り返った。

 と、どこからともなく突然、あの泥人形が湧き出てきた。

 自分はウェーアさんに背後に現れたそれを警告しようと、口を開く。けれどもその前に、ウェーアさんは体ごと旋回して泥人形を一文字に切り裂いていた。切られた人形は、地面に溶けるように崩れていく。

「切ってしまってもよろしかったのですか?」
さっきの衝撃の残滓(ざんし)を残したまま、ナギさんが言った。
「一応確認したからな。さっきあいつ、これ泥人形のことを生き物じゃないって言ってただろう?」
「あ、そういえばそうさ」
ウェーアさんの言うことに自分も頷き、尋ねた。
「その剣、相当丈夫なんですね」
「ん?ああ、特注だからな」
彼はさらりと言ったけれど、自分はいくら丈夫だからと言って、剣で鉄を切ることができない事ぐらい知っている、彼もそれを承知で答えたようだった。
 
 危険な人ではないようだけれども、どこか謎めいた所のある人だ。

「ねえ、どろぎょんって、一体だけ?」
セリナさんが言いながら出口に向かうと、ぞわぞわと泥人形が湧き出てきた。一体や二体どころじゃない。自分たちを取り囲むように。後から後から出てくる。

「上へ!!」

さすがに数が多すぎるので、自分達は逃げ出した。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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