それからソイルに着くまで、パキャルー号の人達のお手伝いをしたり、毎日のように行われるアテネさんとシユウさんの喧嘩を安全な所で見学したり、カードゲームを興じたりして、一日一日を過ごした。
月日は変わって9月17日。やっと明日、ソイルのレイタム・ポートと言う港町に着く。と、言うことで、今はお別れ会とは名ばかりの宴会を開いているところ。
パキャルー号にいる間、わたしは退屈の“た”の字も知らずに日々を過ごしてきた。げんに今だって、パキャルー号の人達が真ん中で輪になって歌いながらはしゃいでる。
「…踊り面白いけど、言葉がわかんない」 「そうね。昔の言葉のようだから、私にもわからないわ」 砂糖の入った緑茶のようなものを飲みながら、二人でボーっとしていると、 「あ〜。さすがに少し酔ったな〜」 ウェーアがほんのり頬を赤くして、ドサッと座った。 「うわっ。お酒臭〜い」 「ハハハ…。あっちの奴らの方がもっとすごいぞ」 彼は踊っている人達を指して、クックックと肩を揺らした。 「ウェーアさんは、あの歌はなんとおっしゃっているのかわかりますか?」 「ああ、少しなら」 まだ笑いながら歌い手達を見て続けた。 「 “我らが海洋(ボントス)、大洋の娘(オーケアニテス)よ お前は我々に牙を剥く 我らが糧をその身に隠し 我らを行かせまいと手を上げる 覆い被さるお前は笑うだろう お前達はこんなにも小さいのかと だが我らは行く 力と頭と時間を使い そこに目指すものがある限り “行こう”と叫ぶ” と、まあそんなものか。ずっと昔に漁師によって作られた詩が、今でも引き継がれているんだろう」 そう結んで、また肩を揺らした。どうやら笑い上戸みたい。ちょっと気持ち悪い。
ウェーアが詩を訳してくれている間に、宴会はいつの間にか腕相撲大会に替わっていた。今はシユウさんが十人抜きして、勝利のガッツポーズをしている。
「ウェーア!オイラと勝負だ!」 「望むところだ」
ウェーアは、酔っている割にはしっかりとした足取りで人集(ひとだか)りの中に入っていった。席に着いて、相手の手とぐっと握りあう。
「へへへっ。これならオイラ、負けねーぞぉ」 余裕の笑みを浮かべるシユウさんに対し、 「さて、どうかな?」 不敵な笑みを浮かべるウェーア。 「うーし。そんじゃワシが声掛けすっか!」 シドさんがスターターを買って出て、ちょうど白と黒に分かれている手の上にそのたくましい掌を乗せた。 「――オンセイユン・アスティ……ディ!」
――ダンッ!!
開始の合図が出されたと同時に、一瞬にして勝敗が決まった。 「あ〜!くっそー!なんでだ?なんでなんだよ〜。コツとかあんのか?」 シユウさんは悔しそうに頭を抱えて声を上げた。 「コツか?コツと言うか…反射神経や集中力が良ければ、何とかなるのではないのか?」 ウェーアはまた笑いながら、そこら辺にあったお酒のグラスを手に取った。 「よーし、シユウ。今度はワシと勝負じゃ!!」
シドさんに指名されたシユウさんは、また悔しい思いをすることになった。
○○○
・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・? いつの間にか寝てたみたい。 目をこすって、何とか頭をはっきりさせると、わたしと同じように毛布が掛けられた船員達が、びっしりと床に寝ていた。
ふと肩の重みに気付いて目を向けると、そこには寝息を立てている金髪があった。 「…えーっと…」 これには困った。思いっきりわたしに頭を預けてるから、下手するとウェーアの頭にたんこぶを作ることになる。別に、わたしは痛くないからそうしてもいいんだけど、その後の小言が嫌だからなるべくそうはしたくない。 とりあえず、頭を軽く叩いてみた。
「……ん?うるさい。もう少し、寝かせろ……」
効果なし。寝言(?)を言ってまた寝入っちゃった。
どうにかしてウェーアの頭をぶつけずに椅子の上に置けないかと考えていると、
「――あら、起きていたのセリナ。おはよう」
カチャッという音と共にナギがドアから顔を出した。助かった〜。 「おはよ、ナギ。ねえ、これどうにかしてくんない?」 爆睡する彼を指差すと、
「まあ…!私、食堂で待っているわね」
――バタンッ
・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 「…え?あれ?ちょっと、まさか助けずに行くなんて言わないよね?ナギ?ねえちょっとー?――ナギー!見捨てないで〜!」
結局ナギに見捨てられてしまったわたしは、ウェーアに怒られるのを覚悟で、気持ちよさ気に寝息を立ててる頭にデコピンを喰らわした。
「……痛いだろうが」
もぞもぞと、やっと目を覚ましたウェーアは目つきが悪かった。ついでに機嫌も。
「もう少しぐらい寝かして置いてくれてもいいだろ?なぜ君の都合で起こされなきゃいけないんだ」 「もう少し早く起きてくれてもいいんじゃない?なんであんたに付き合って座ってなきゃいけないの」
やっと自由になった体を思いっきり伸ばした。 ああ。自由ってすばらしい! ウェーアが何か言い返そうとした矢先、
「おう!いったいいつまで寝てるつもりだい!?さっさと起きな!――お?ウェーアにセリナ、上出来じゃん。偉い偉い」
アテネさんが道場破りのごとく、怒鳴り込んできた。わたしはその覇気(はき)に気圧され、ウェーアは怒鳴り声に頭を抱えて呻いていた。
「あ、あんたまだ酔い残ってんのかい?ちょうどいい、これ食べな」 酔い潰れている人達を蹴散らしながら来たアテネさんは、抱えていた籠(かご)の中から何かを投げ渡す。受け取ってそれを見たウェーアは、 「……できれば、お返ししたい」 ひどく嫌そうな顔をして、指で摘んだ物体を青白い顔で眺めていた。
それは、昆布のようなクラゲのような、フニャフニャしているものだった。分厚いイソギンチャクの板って言ったほうが早いかな。半透明の深緑の板に、突起物がぶつぶつと…おぇ。
「何言ってんだい。それが一番効くんだよ?逆流してきても知らないよ」 「コソゲラ(これ)を食べた方がそうなる。他の連中に食わせてやれ」 彼はコソゲラと言う物体を投げ返した。…食べれるんだ、あれ。 「わがままな客だね。――飯はできてるよ。ナギも待ってた。早く行ってやんな」 アテネさんは受け取ったコソゲラを、足元にいたおじさんの口に押し込む。
「…セリナ、前言撤回だ。起こしてくれてありがとう」
「え?」 大口開けて寝ていたおじさんは、それを何か違う別の物と間違えたんだろう。もぐもぐ夢心地で顎を動かすと――
「犠牲者第一号、か」
――目がパカッと開き、口元を押さえて一目散に部屋を出て行った。
「あれって、まずいの?」 食堂へ向かう道すがら、彼に聞いてみた。 「ああ。あの食感といい、粘り気といい、味といい・・・。とにかくどれを取っても美味いと言える所はないな。あんな物、食べ物とは言えない」 きっと食べたことがあるんだ。ウェーアはその時のことを思い出したのか、苦い顔をして喉をさすった。 「まずいけど効くんだね」 「まずいから効くんだよ」
なるほど。
私たちが朝食を食べている時でも、次から次へとバタバタ先を争って、廊下を走り抜けてく音がしていた。
「御愁傷様」
哀れな船員達に一言、手向けの言葉を送った。
□□□
「短い間だったけど楽しかったぜ。次会う時までに、もっと腕を上げとくかんな。覚悟しとけよ」
ソイルのレイタム・ポートに着き、パキャルー号の皆が見送りに来た。 いつものごとく俺はシユウに、帽子の上からグシャグシャと撫でられ、首を押し込められそうになる。 「いい加減、子ども扱いはやめろ。――ひとつ頼みたいことがあるんだが…いいか?」 彼の手を払い、帽子を被り直すと、改めてシユウを見る。 「おう。別にいいぜ。難しいことじゃなけりゃあな」 「安心しろ、簡単なことだから。もし、“バタムラバ”がどこかで見かけられたという情報が入ったら、ここに連絡をくれないか?内容しだいでは報酬も出す」 俺は、自らの家が記された紙を手渡した。 「お!マジで?そういう事ならいくらでも…って、お前ここは…え?ウソだろ?まさか、そんな事…」 「アテネとシド以外の者には絶対に言うな。いいな?」 俺は驚愕に打ちのめされているシユウに口止めし、セリナとナギの所へ行った。
「皆さん、お世話になりました。本当に助かりました」 「ありがとね」 「譲ちゃんたちも元気でな。気ー付けて行くんだぞ!」 「ええ」 「じゃあねー!」 「では」
我々は別れを告げ、人混みの中へと紛れて行った。
〜あぃあぃ(アンガールズ風に)〜 さて、ついに島のほとんどが砂漠になってしまっていると言うソイルに着いた一行。これから彼らにどんな試練が待ち受けているのか!? ソイル編は……そうですね、いいキャラいますよ〜v くだらない事が好きな人は笑える・・・・・・・・・・・・・・・・・かな? 笑えた方にはありがとう。 ダメだった人には…まあ、そのままスルーして下さい。 すみません。自分、くだらないの大好きなもので。アサヒ○セイのCM大好きなもので…。――あの宣伝はいい!一昔前の卓球とかやっていた札幌○ビールの宣伝もいい! ああ、長くなってしまいました。では、また次回お会いいたしましょう。イヒッ!
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